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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十一章】妖精の女王

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第177話 ママン

~前回のあらすじ~

 ラウラの転生体を探しに聖都カインにやってきたユウは勇者レイラと出会う。

 レイラこそラウラの転生体だと確信するユウだったが、こっぴどく振られてしまう。失意のユウは前世の記憶を呼び戻す方法を求めてアイザムにやってきた。そこで前世の友人であるミレアのオッパイと再会を果たすのだった。

 期待の新魔法(時間停止魔法)が不発に終わったその夜、すでに日付が変わり宿屋の門が閉まっていることもあって、僕とリザはバベルの門に泊まらせてもらうことになった。

 

 もっとも「泊められません」と追い出されても困るが、聖母のようなミレアはそんなことはしない。

 だからといって寝室を使わせてもらうのではなく、僕は地下室に毛布を敷いて横になった。

 他のシスターたちは帰省中だから空いている寝室を使っても構わないと、ミレアは言ってくれたけど僕が危惧しているのは淫獣の方だ。


 僕はアッチ方面でヴァルのことをまったく信用していない。

 セツナを助けるために一時的に解除した例外を除き、妃を増やすなと厳命していたにも関わらず、出立してからの道中でこいつは滞在した街々で女性を食い散らかしていやがった。


 それが判明したのは、キャラバン隊に加わってほどなくしてのことだった。


 とある街の検問所で荷物検査を受けているときに、僕のリュックから大量のセクシーなパンティーが出てきたのである。


 今まではワイロで荷物検査をスルーしていたため気付かなかったが、ヴァルは旅先で関係を持った女性の下着を僕のリュックの中に押し込んでいやがった。

 

 そのおかげで僕は大恥をかいた。幸いにもリザや親方、キャラバンのみんなには気付かれずに済んだけど、衛兵からは「とんだ変態野郎が来やがった」と蔑まれ、彼らが流した噂によって街の人たちの僕を見る眼は、それはそれは冷たく生ゴミを見るようだった。


 ヴァルに問いただすと、自分は下着を脱がした後にポケットにしまうクセがあって返すのを忘れて持ち帰ってしまい、処分に困ってリュックに押し込んでいたとゲロしやがった。


 しかし、僕はその言い訳は嘘だと思っている。パンティー集めは魔神の性癖なのだ。


 そんな経緯があって、今夜は万全の体制で警戒する必要がある。地下室の扉を締めて外から鍵を掛けてもらった。

 もっともヴァルならこんな扉は一発で破壊するのだろうが、心理的なバリアにはなる。ここまでしてミレアを襲うようなら、もう右腕をぶった切ってケツの穴に突っ込んでやる!



 リザは応接室のソファで丸くなっているとのことなので、毛布を掛けてそのまま寝かせてあげてほしいとミレアには伝えた。



◇◇◇



 ガチャと外から鍵が外される音で目が覚めた。ランタンの淡い光が暗い地下室に差し込む。


「ユウさん、朝ごはんできましたよ」


 どうやら無事に朝を迎えることができたようだ。


 食堂でミレアが作ってくれた料理をご馳走になる。野菜がたくさん入ったスープとパンだ。

 肉はないのかやとリザが我儘わがままを言い出したので、干し肉を千切ってスープに入れてやると、ミレアに甘やかし過ぎだとお叱りを頂いてしまった。


 なぜ僕だけ……。


 食事の席で僕はミレアにアイザムに到着してからの経緯をかくかくしかじかと話した。

 

「なるほど、冒険者登録をしようとしたけど身分証がないため登録できなかったと」


「ああ、そうなんだ」

「確かに昔よりも厳しくなったのは確かです」

「身分証ってどんなの?」


「一般的には貴族や町長など権力者が発行する紹介状ですね、この者はこういう人物ですよという身分の証明になります。地方で働きたい場合はお金を払って権力者に紹介文を書いてもらいます」


「紹介状か……、たとえばナイトハルト流の当主が書いた紹介状でもいいの?」


「二大流派なので効力としては十分ですね」


「こんなことならダリアに書いてもらえば良かった……」


「剣士なら免許皆伝証でも身分証になりますよ」

「家に置いて来ちゃった……」


「教会が発行する母子手帳でも大丈夫です」


 西方大陸で誕生した子供たちは枢機教会から洗礼を受ける。そのときに渡されるのが、母子の健康を記録するための母子手帳である。


「かつての父親に捨てられた気がする……」


 どっちにしてもここにはない。


「他には……、顔と名前が有名ならそれだけで身分証は必要なくなりますけど……、冒険者でいえばオリハルコンクラスにならないといけないですね」


「いったい何年かかることやら……」


「私も協力できることは協力します」


 その言葉を待ってましたとばかりに、僕はミレアの手を握り締めてその青い瞳を見つめた。ぼっとミレアの頬が紅く染まる。


「それじゃあミレア……、僕のお母さんになってくれないか?」


「は?」



一時間後――。


 テッド・ワイズ、僕は晴れて彼女の息子になった。驚くなかれ、テッドは彼女が十五歳のときに生んだ子供である。

 どういうカラクリかと言うと、ミレアに母子手帳を偽造してもらったのだ。

 シスターの彼女にとって教会が発行する母子手帳を偽造するなどお茶の子さいさい、しかも手帳には枢機教会の関係者であることを示す紋章入りだ。

 もうこの紋章があるだけで天下無敵のスター状態なのだ。僕の全身は眩く光り輝いていることだろう。


 そもそもシスターに子供がいても大丈夫なのかという疑問はあるけど、実際のところ隠し子がいる神官やシスターは少なくないとのことだ。

 相変わらず身内には緩い宗教である。


「はいどうぞ」


 ミレアの手から出来立てホヤホヤの手帳を受け取った。

 

「ありがとうママ」


「……ママはやめてくださいなのです」

「分かったよママ」


「怒りますよ」


 口角をピクピクと引きつらさせるミレアの額には青筋が走っている。彼女はすでにオコだ。


「ごめんなさい……」


 僕は直立してから頭を深く下げた。


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