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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十章】亡国の姫

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第169話 半鐘

 ヴァルとの会話内容をリザに説明して枢機聖堂には入らず、というか入れず引き返して宿を探すことになった。


 一週間ほど聖都で過ごそうかと思っている。

 勇者の顔を拝めれば特に用はないが、世界中から人が集まるこの街ならラウラとのエンカウント率は上昇する。じっくり腰を据えて探すことにしよう。


 宿屋が軒を並べる地区やってきたが、どこに泊まるか迷ってしまう。

 参拝者に比例して宿屋は腐るほどあり、貴族用の高級ホテルから一般信者用のユースホステルまで選び放題だ。そこまでお金に余裕がない僕らは手頃な安宿を見つけてチェックイン。

 荷物を置いたら晩御飯を調達しに再び街に出た。


 この食事の調達が一番不便である。なぜならカインには宿屋はあるけど大衆食堂がない。酒場もない。ということは酒がない。


 ファ○ク!!


 なんてね、帝国領では未成年だからまだ飲めないんだけどね。

 

 食料は売店のような小屋で購入するしかなく、夕方には閉まってしまう上に、売っている品数は少なく内容も質素だ。言い換えれば慎ましやかともいう。

 神殿巡り以外は娯楽のない街である。

 もっとも観光がメインの場所ではないから仕方のないことだ。


ぬしよ」

「ん?」


「主はカインになんの用があるのじゃ?」


「人探しのついでだよ。新しい人族の勇者がカインにいるそうなんだ。せっかくだから挨拶しておこうと思って」


 冒険者として名を売る過程で僕が有名になれば、この先パーティを組む、なんてこともあるかもしれない。

 だから、ファーストコンタクトは舐められないように、「勇者だからって調子に乗るなよ? 俺のじいちゃんだって勇者だったんだぜぃ?」とメンチを切ってやるんだもんね。


「ほう? 新しい勇者かえ、一代前の勇者はジジ様と仲が良かったと聞く」

「雷帝ライディンだろ? 本名は禅宮雷禅、実は前世の僕の祖父なんだ」

「なんとそうであったか!? やはり妾たちは祖父の代からすでに出会う運命だったのじゃな!」 

 

 リザは満面の笑みで両手を広げた。挙動が素直で可愛い娘である。

挿絵(By みてみん)


「はは、もうなんか本当にそんな気がしてきたよ」


 苦笑する僕にリザはニッとはにかむ。


「して、その者の名はゼングウなんと申す?」


「いや、勇者は世襲じゃないから……。新しい勇者の名前はレイラ・ゼタ・ローレンブルク」


 そして彼女の異名はデスマーチ・プリンセス。これはファンガスを出た後の街で耳にした噂だ。

 デスマーチとは教会の言いなりになって社畜のように働かされていることを揶揄した渾名なのか、それとも――。


「ふむ、ではまずそやつを探すのじゃな」

「いや、居場所は見当が付いているんだ」


「ほう?」


「このカインの中にはもうひとつ国があるんだ」

「国の中に国じゃと?」


「そう、それがローレンブルク王国。まあ、国って言っても屋敷を囲む敷地の中だけなんだけどね」


 僕はリザにローレンブルク王国の成り立ちを簡単に説明する。


 ――聖令歴七八〇年代。

 それはそれまで劣勢だった魔王軍の逆襲が始まり、人族にとって暗黒時代の始まりだった。


 北方大陸で最も栄華をほこっていた大国、ローレンブルク王国も魔王の手に落ち、北方全土が魔族に支配されてしまう。

 それ以前から多くの人族が海を渡って西方大陸に逃れてきており、ローレンブルクの王族と従者たちも西方へと渡り難を逃れた。

 そして、彼らは当時の最高神官の庇護の元、カインの中に暫定国家ローレンブルクを建国したのだ。

 

 領土はあるが国と呼べる広さではない。領事館みたいな物であり、ローレンブルクに住んでいた者たちは、西方大陸に散ってしまったため、国民と呼べるのは王家に使える従者たちだけである。

 果たしてそれで国と定義できるのかは疑問だが、こうしてローレンブルク王国は消滅せずに現存している。

 きっと北方大陸の奪還は当時の国王の悲願だったに違いない。

 たとえ塀に囲まれた領土であっても、たとえ国民が数えるしかいなくても、いつか帰るときのために彼は現在のローレンブルクを暫定国家と名付けたのだ。


「ふむ、そこに新勇者がいると言うのじゃな」


「たぶんね、ファミリーネームからしてレイラは王族で間違いない。そこにいなければ枢機聖堂だな。最高神官の護衛をしてるって聞いたし。聖堂の方は入れないから明日はローレンブルク王国の方に行ってみようかと思う」


「うむ、知らない場所に行くのは楽しいのじゃ!」


 リザは城から出してもらえないと言っていたし、こんな遠くまで来たのは初めてなのではないだろうか。

 そうだとしたら目に映るすべてが新鮮で心が踊るはずだ。僕がこの世界に初めて来た日のように。


『我も楽しみである』


「珍しいな、お前がそんなこと言うなんて」


『ローレンブルクと名乗る者であれば、我の直系の子孫ということになるのだからな』


 た、確かに……。


「目が三つだったり、角が生えてたりしないよな?」


『我が人に化けた状態で生まれた子の子孫だ。見た目は人族と同じである』


 するってぇと中身は違うってことですかい?

 いやいや、ローレンブルク家はそれから何世代も人族と交配してきた訳だから、さすがに今は外見も中身もほとんど人間に違いない……、はずだ。


「なんか会うのが怖くなってきたな」


 僕が独りごちたそのとき、青い空に半鐘の音が鳴り響いた。見張り台の衛士が激しく鐘を叩いている。

 

「敵襲! 敵襲!」


「なにかあったようじゃな」

「そうみたいだな。行ってみよう」


 顔を見合わせた僕らは走り出す。




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