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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十九章】竜の姫

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第167話 一人前

「弟子?」


「ロイさんは前世が凄腕の冒険者で今はあのグランジスタ・ナイトハルトの甥なんスよね! 自分も冒険者になってお金を稼ぎたいッス!」


「本気で言っているのか?」


「はいッス!」


「冒険者は命懸けだ。やめた方がいい」


「それでもなりたいんス! 父ちゃんを養うにはもっとお金が必要なんス!」


「でもこの街に冒険者ギルドはないぞ」


「登録するのはもっと大きくなってからッス! クエストの依頼ならこの街でも受けられるっス! それまでに力を付けるっス! どうか自分に剣技を教えてください! 鍛えてください! お金は出せないけどその分は自分の体で払うッス!」


「弟子にしてやろう!!」

 僕は彼女の申し出を力強く快諾かいだくした。


「はわッ!?」


 報酬に目がくらんだ訳ではない。彼女の真摯な覚悟に心を打たれたのだ。もう一度言う。決して純粋無垢な少女の身体に目がくらんだ訳ではない!


「主よ……」

 リザは呆れながら、「さっきまでの心温まるやりとりが台無しなのじゃ……」と嘆いた。


「はわわっ! えっと……ごめんなさい。自分の真剣さを伝えたかっただけっス……。やっぱり体はちょっと……あげられないッス……」


 ジーナが後ずさりしたので僕は彼女の肩を掴んで捕まえる。


「ひぃっ!」


「なにを言っているんだ! 無償でいいに決まってるだろ! 僕が幼気いたいけな少女の体を弄ぶような破廉恥な男に見えるのか!?」


「ほんとッスか!? …………じゃ、じゃあなんで泣いているんスか?」


「それは夕陽が目にしみたのさ……」


 僕は朱く染まった空を見上げた。


「しかし、キミは冒険者ではなくハンターになるんだ。ハンターとして獣を狩って生計を立てなさい」


「ハンター? でも自分、狩猟なんてしたことないッスよ……」


「その方法をキミに伝授する。なによりキミを一から鍛えている時間は僕にはない。短期間でキミを一人前のハンターにしてみせよう」


「そんなこと本当にできるんスか?」


「明日の朝、ヘカートを持って街の西門まで来なさい。本物のジビエ料理を食べさせてあげますよ」


「はわ?」



◇◇◇



 翌朝、僕はジーナを連れ立って街の外に出た。川のほとりでヘカートについての講義を行う。


「いいかい? そのヘカートは簡単に説明すると弓のような武器なんだ」


「これが弓?」


「そう、矢の代わりに礫を高速で飛ばして対象を撃ち抜くことができる」


「やっぱりこの穴はそのためだったんスね、じゃあここはクロスボウでいうトリガーすね」


「まさしくその通りだ。理解が速いね、さすがクリーゼさんの孫だ」


「血筋ッスかね〜、知らない道具を見るとどんな風に使うか想像するのが楽しいッス。父ちゃんもじーちゃんから魔導具造りを教わったと言ってたッス」

 ふふん、とジーナは得意気に鼻を鳴らした。


「ところでジーナ、精霊術は得意かい?」


「うーん、人並みッスね」


「そうか、じゃあ今日から日に三回、朝、昼、晩、しっかりと精霊シルフに祈りを捧げなさい」


「シルフに?」


「そうだ。それじゃあレッスン1だ。実際にやってみせよう」


 僕はその辺に落ちている手頃な小石を拾い上げて銃身に詰める。

 スタンディングのまま銃を構えた僕は呪文を詠唱する。


《精霊シルフよ、礫を射て、対象を穿て》


 ビュッ! 


 旋風つむじかぜが銃身の中で発生した瞬間、バッシュっと独特の音を立てて発射された小石が木の幹に突き刺さった。


「な、なんスか!? すごいスピードで石ころが飛んでいったッスよ!」


「これがこのヘカートの本来の使い方なんだ。本当は石じゃなくて鉄の球とかが良いんだけど、この世界にはないからキミのお父さんに作ってもらうといい」


「でもでも、それはヘカートありきの話ッスよね? 今の父ちゃんにはたとえ材料があってもこいつを造る技術はないッス……気力もないッス……」


 うつむくジーナの肩に僕は触れた。


「そう、だからこれはキミに譲ろう。今日からヘカートはキミの物だ」


「えっ? ホ、ホントっすか!? でも……、いいんスか? そいつを自分が持っていて……。実は昨日の話を聞いて、大切な物だからタダでも返さないといけないって思っていたんス……」


「ああ、大切だよ。とても大切だ。だけど今の僕じゃきっと当たらない」


「はわ? 木に当たったッスよ?」


「もっともっと遠くさ。それはドラゴンが豆粒くらいの大きさに見える距離。以前の僕なら当てることができたけど、今は観測手が不在でね。だから僕が持っていても仕方ないんだ」   


 ジーナはよく分からないといった感じに眉根を寄せた。


「それにヘカートがキミの役に立つならクリーゼさんへの恩返しにもなる。大切に使ってくれ」


 そう言ってヘカートをジーナに渡すと彼女の顔がパッと明るくなった。

 嬉しそうにヘカートを抱きしめる。


「わかったッス! これで獣をバンバン捕まえて売りまくるッスよ!」


「よし、じゃあさっそく練習だ!」


「はいッス師匠!」


 師匠か、悪くない。手取り足取り教えるのが楽しみだぜ、げへへ。



 それからジーナは日が暮れるまで小石を使って練習を続けた。彼女は覚えが速く、一日で射撃のコツを掴んで基本的な使い方をマスターした。


 翌日、彼女は1センチほどの鉄球を自作して持ってきた。数は十個だけだ。この貴重な十発を決して無駄にしてはいけないと言い聞かせて訓練に臨む。


 四日後、彼女は百近い鉄球を持って河原にやってきた。父親が弾丸造りに苦戦する娘を見かねて手伝ってくれたらしい。鉄を溶かす温度が低いとか色々と小言を言われたと口を尖られせていたけど、ジーナは嬉しそうだった。


 一週間後には五百メートル離れた的に正確に当てられるまでの成長を遂げる。


 レッスン2、実際に獣を狩る実地訓練に移り、それからさらに一週間は鳥や獣を狩りまくった。狙った獲物は百発百中とまでは行かないけど、命中率は七割を誇る

 狩った獣の肉や毛皮をマーケットで売りさばき、ジーナはマルゲイン一家が稼ぐ一ヶ月分の収入をたった数日で稼ぐことができた。


 もう彼女なら一人でやっていけると確信した僕は先に進むことを決めた。ほとんどジーナに付きっきりだったため、リザが退屈しているというかねてきている。

 そんな彼女の姿に僕はラウラを重ねるのだ。

 

「我が弟子よ、よくぞここまで頑張った。もはや教えることはなにもない!」

「し、ししょうぅぅぅっ!」


 両腕を広げた僕にジーナが抱きついてきたので僕は遠慮なく彼女を抱擁する。

 成長過程の少女は最高だぜ――、なんて思いながら体をまさぐってみる。


「ひゃっ! くすぐったいッスよ師匠……」


 ジーナは抵抗しない。嫌がらず頬を紅く染めた。これぞ教育の賜物である。


「いつか僕を超えるハンターになるんだぞ」


 僕はわしゃわしゃとジーナの頭を撫でた。


「ありがとうございますッス! でも、どうしてここまでしてくれるんスか?」


「僕はそれ以上にクリーゼさんへの恩がある。これぐらいじゃ足りないくらいだよ」


「うん……、じーちゃんに感謝ッスね」


 また会おうと固い握手を交わして僕とリザは次の街へと向かう。

 ジーナの姿が見えなくなるまで彼女はいつまでも手を振っていた。



 ファンガスを発ってから小一時間、リザは馬の背中の上でこくりこくりと頭を揺らしている。

 心地よい陽光とそよ風を受けていると僕も眠くなってきた。


 ああ、平和だ……。恒竜族の追手がやって来る気配はない。けれど諦めたとは思えない。油断は禁物だ。


『ユウよ』

 ヴァルが声をかけてきた。


「なんだ?」


『告げるかどうか迷っていたのだがな……』


「なんだよ、珍しく歯切れが悪いな」

『これから少し奇妙な話をする』


「?」


『現在の我は五体がバラバラの状態であり、そのためか記憶に曖昧な部分も多い』


「まあ……、腕だけだからな」


『さらに長い時を眠っていたせいもあって昔のことが思い出しづらくなっている』


「確かに……、おじいちゃんみたいもんだからな」


『だが、思い出したのだ』

「なにを?」


『ジーナ・マルゲインは我を倒した者のひとりだ』


「は? それって三英雄のことを言っているのか?」


『うむ』


「な、なに言ってんだよ……、だってお前が倒されたのって何千年もずっと昔の話だろ?」


『そうなのだが、間違いないのだ』


「いやいやいや……、そもそも三英雄って男じゃないのか?」


『ああ、我もまた男だと思い込んでいた。しかしはっきりと思い出した。間違いなく、ジーナ・マルゲインは三英雄の《鳴弓》だ』


「でも彼女にはそんな強大な力はなかったぞ……。当然ギフテッドでもなかった……」


『分からぬ、これから覚醒するのやもしれん』


「これからって……、だってそれじゃあ時系列的に辻褄が合わないだろ」


『その通りだ。だが、間違いない』


「訳が分からん」

『我にも分からん』


「神に分からなければお手上げじゃないか……」


 つまり考えるだけ無駄ってことだ。理解できないことを理解しようとしても理解できない。

 今は進むしかない。


 聖都カインへ――。






第十九章はここでおしまいです。

新章【亡国の姫】は来週更新する予定となっております。

よろしくお願いします。

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