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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十九章】竜の姫

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第165話 もうひとつの探しモノ

 翌日、僕とリザは食料を調達しながら街を散策していた。

 散策といってもラウラ探しの一貫だ。生まれ変わって容姿が変わったラウラをこちらから見つけるのが難しくても、木製ヘカートを持ち歩いてウロウロしていれば、向こうから見つけてくれるかもしれない。

 しかしながら今のところ成果はない。ピンと来る人物もいない。僕のフィーリングはここにはいないと告げている。


「リザ、予定どおり明日出発しよう」


 虫を捕まえようとしていたリザに声を掛けた僕の視界に、ある物が写り込んだ。

 視界の端を通り過ぎていく〝それ〟を目で追いかけて探す。


「あ、あれは……」


 ……間違いない。


 ワンドと呼ぶには長く、ロッドと呼ぶにはあまりにも武骨でバランスが悪い。ミスリルの輝きを放つ銃身に美しい木目の銃床、そして鉄のトリガー、まさにそれは――。


「クリーゼさんが僕に造ってくれた……ヘカートだ」


 僕はヘカートを背負う少女の背中に向かって走り出していた。


「おい!」


 すぐに追いついて少女の手首を掴む。


「なっ、なんスかいきなりッ!?」


 桃色の髪をした少女が驚いて振り返った。僕は彼女の両肩を掴んでぐっと引き寄せる。 


「それをどこで手に入れた?」


 じっと見つめて少女の瞳に問う。


「それ?」


 首を傾げた彼女に僕は指さした。


「そのヘカートだ」


「ヘカート? そんなことより、いきなり名乗りもしないであんた失礼な人ッスね! この手を離すッスよ!」


 失礼したと謝罪した僕は離した手を胸に当てる。


「僕の名前はロイ、ペルギルス王国からやってきた者だ。そんなことよりそれは僕の物なんだ、返してくれないか」


 少女はひどく顔を歪ませた。


「はぁ? どこに証拠があるんスか?」

「それは……」僕は言葉を詰まらせる。


「ほら、ないッスね。言い掛かりは止めてほしいッス」


「じゃあこれを見てくれ!」


 背負っていた木製ヘカートを彼女の目の前に突き出した。


「うん? 形が似てるッスね……。でもそれだけじゃこいつがあんたの物だって証拠にならないッス。たまたま形が似ていただけかもしれないッス」


「なら少しそいつを貸してくれ、僕ならヘカートが使える。使い方を知っている」


「怪しいッス! そう言って持ち逃げするつもりッス!」


「違う! そんなことはしない! だけどキミはそれがなにか知っているのか?」


「そ、それは……」今度は彼女が言葉を詰まらせた。

 

「僕は知っている。使って証明してみせる」


「へぇ……、それじゃあやってみるッスよ。その代わりあんたの剣を預かるッス」


「剣を?」

 

 思わず躊躇してしまう。


「どうなんスか? やっぱり持ち逃げするからできないんスか?」


 どちらも大切な剣だ。彼女が持ち去ってしまうのではないかと僕は心配になっている。彼女の言い分は間違っていない。


「分かった……」


 僕は二振りの剣を彼女に預けた。代わりにヘカートを受け取る。

 懐かしい重みを腕に感じる。


「へぇ……こいつはかなりの業物ッスね」


 こんな少女に剣の良し悪しが分かるのだろうか。しかし品定めする彼女の眼は職人のそれだ。

 そして僕もかつての相棒に異常がないか確かめていく。


「あれ? 魔石が、ない……」


 銃身と銃床の両端に埋め込まれていたはずの魔石がなくなっている。ただの窪みだ。


「やっぱりそこに魔石が埋め込まれていたんスか!?」彼女は声を弾ませた。


「あ、ああ……だけどなくなっている。ここと、こっちに魔石があったはずなんだ」


「その通りッス。窪みの底に魔力伝導を高める魔力結晶の粉末が樹脂と混ぜられて塗られていたッスよ。それを知っているということは……、作り手か使い手しかいない。信じなれないけれど、どうやら本当に持ち主のようッスね」


「どこかで外れて落ちてしまったのか?」


「たぶん取られたんスよ、上等な魔石は金になるッスからね。でもミスリルを見逃すとは目利きのできない素人の仕業ッス」


「取られた……? キミはどこでこれを手に入れた?」


「そいつは変な魔導士がこの街に持ち込んだ物ッス。自分はそいつから買ったんスよ。買ったとき魔石は既になかったッス。その魔導士が取ったのかもしれないけど……。でも、やっぱりそういう造りだったんスね。魔石がなくてもそいつはすごい技術で造られているッスよ。こいつを作った人はきっと一流の職人ッスね!」


 瞳を輝かせてヘカートを見つめる少女に僕は興味を持った。


「……キミの名前を聞いてもいいかな?」


「自分ッスか? しょうがないから教えてやるけど、教える代わりにそいつの出自を話すと約束するスか?」


「分かった。洗いざらい話そう」


「それからそいつはあんたに売ってやるッス」

「本当か!?」


「その代わり、自分が買った値段よりも色を付けさせてもらうッスよ。もちろんミスリル鋼の分も上乗せして」


 ししし、と彼女はほくそ笑んだ。


「分かった。約束しよう」


「まいどあり! 自分の名前はジーナ・マルゲインって言うッス! 以後お見知りおきを」


 ……マルゲイン? マルゲインだって?


「マルゲインなのか!?」


 僕は彼女の両肩を両の手で掴む。


「はわっ! なんスかなんスかぁ!?」


「こいつを造った人もマルゲインなんだ!」

「へ?」


「クリーゼ・マルゲイン、キミはこの名に聞き覚えはあるか?」


「クリーゼ? それはたぶん、自分のおじいちゃんッスね」


 見つけた! 彼女はクリーゼさんの息子に繋がっている!

 僕は思わず彼女を抱きしめていた。


「はわわ! なんスかなんスかぁ! 離すッスよ!」



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