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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十九章】竜の姫

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第164話 竜の角

 目が覚めるとリザに膝枕されていた。

 なんだか懐かしい。あれは初めて魔王軍と戦ったときだった。魔力の枯渇で意識を失った僕を、ラウラが膝枕して目覚めるまで待ってくれていた。


「目が覚めたのかや?」

 リザと僕の目が合う。彼女は微笑んだ。


「あ……ああ、最初から捨て身でああされていたら僕は負けていたよ」


 苦笑しながら頭を上げるとリザはニカっと笑う。


「ふむ、ということは一勝一敗じゃな」


「そういうことだ。それに竜族は竜形態が本来の力なんだろ? ドラゴンに変身していれば良かったんじゃないのか?」


「……それは嫌じゃ」


 リザは視線を逸らせて口を窄めた。


「なんで?」


「女心が分からんのか、主にあんな姿を見られとうないのじゃ……裸を見られるようなものじゃ」


 しおらしく恥ずかしがる彼女の表情に思わずドキッとした。



◇◇◇



 これから立ち寄るのはファンガスという比較的大きな街だ。


 世界の中心であるカインの周辺は魔物が少なく安全なため、カインに近づくにつれて街も大きくなっていく。


 ここから先の街はどこの国にも属していない。だけど実質的に聖都カインの領地であり、市長の代わりは枢機教会から指名を受けた教会関係者が務め、教会の収入源となるお布施という名のみかじめ料を回収している。


 街に入るのはそれほど難しくない。幼少のころ、父上に連れられてカインに来たときは街の入口で簡単なチェックを受けただけだった。

 だが、今回は重大な問題ある。ここに来るまで失念いていた。


「難しい顔をしてどうしたのじゃ?」


 僕が眉間に刻んだシワをリザは指で伸ばそうとしてくる。


「問題はそれだ」


 彼女の頭からニョキリと生えた二本の角を指さした。


「これかや?」


「尻尾は裾の長い服で隠せているけど、竜の角は丸見えだ。恒竜族のキミが来たら街がパニックなる」


「人を怪獣のように言うでないぞ、失礼なのじゃ」


 いや、実際に人族の間では怪獣扱いなんですが……。


「角を隠すにしてもフードじゃ覆いきれないし、なにか別な物に擬態にするとしてもどうしたものか」


「ふん、それなら切り落としてしまえばよいのじゃ」


 そう言ったリザは手刀で角を根元から切り落としてしまった。止める間もない早業である。僕じゃなきゃ見逃してしまうところだぜ。


「い、いいのか……」


「また生えてくるから問題ないのじゃ」


「そ、そうか……」


「噂によると高値で売れるそうじゃぞ、受け取るのじゃ、路銀の足しにすると良い」


「そりゃ天下の恒竜族の角だから激レア中の激レアだろうね」


 受け取ろうとするとリザが情報を付け加えた。


「角を削って煎じて飲めば0.1グラムで完全麻痺、1グラムで即死する効果があるのじゃ」


 そんな物騒な物を頭から生やしてんじゃねーよ……。


「それはキミが持っていてくれ、くれぐれもその辺に捨てないように」


「そうか、わかったのじゃ」


 リザは素直に自分のバッグに角を押し込んだ。


「さて、問題も解決したし行こうか」


 

 検問所で僕らは簡単なボディチェックだけで街に入ることができた。

 

 リザが衛士に体を触られるのをすごく嫌がったので、衛士にワイロを握らせるとあっさり入れてくれた。

 僕は彼らが薄給なことを知っている。

 枢機教会に関わる仕事は基本的に名誉なことであり安全なカイン領で暮らせるため、人気が高く倍率も高いが、その分給料も安い。

 いわゆる〝やりがい搾取〟に近いが、この世界では安全がなによりも高価であることは誰もが知っている。だから一概に搾取とも言えない。


 宿屋に入った僕らは荷物と馬を置いて夕飯を食べに近くの大衆酒場に入った。


「明日は物資を購入しながら街を散策して、明後日に出発しよう」


 料理が来るまでの間に今後の予定をリザに伝える。


「すぐには出んのかや?」


「僕はある人を探しているんだ。ひょっとしたらこの街にいるかもしれない」


「ふむ、その者は主にとって大切なのじゃな」


「ああ……、大切な人だよ」

「そうか、その者が羨ましいのじゃ」


 ニッと微笑んだリザのその言葉に、なぜか胸が締め付けられるような感じがした。


「なあ、リザ……どうしてキミは出会ったばかりの僕のことなんかを……」


「運命だといったではないか。理屈ではないのじゃ、妾にも説明できぬ」


「そ、そうか」


「主の想い人と、持ってきたそれが関係しているのかや?」


 彼女は木製ヘカートを指さす。


「うん、これは目印だよ。僕のことを知っている人たちが僕だと分かるように持ち歩いているんだ」


「面白い形をしておるの、杖かや?」

「まあ、そんなところだ」


 テーブルに料理が並ぶ。川魚の香草焼きと具だくさんのスープ、白くて柔らかいパン。それらを口に運びながらリザは首を傾げていた。


「やっぱり主が作った料理の味には叶わぬな……」


「そうかな? どれも美味しいと思うけど」


「いや、確かに美味いのじゃ……じゃが違うのじゃ。なんかこう、上手く言えぬが魂が震えんのじゃ、胸がはち切れそうになる躍動感が足りんのじゃ」


 なんか料理漫画の審査員みたいなことを言い出したぞ……。


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