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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十九章】竜の姫

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第163話 考えるな、感じろ

 翌日の昼下りに僕らは森を抜けた。

 結局、リザードマンの襲撃を受けた以外は、特に魔獣に襲われることはなかった。恒竜族のリザが一緒にいるおかげかもしれない。


 その代わりと言ってはなんだが、彼女がいるせいで昨晩はロクに眠れなかった。焚き火を背にして横になっていると、リザが寒いと寒いと言って体を寄せてきたのだ。僕の背中には一晩中押しつせられて潰れるたわわに実った果実の感触と温もりがまだ残っている。


 どうせなら向かい合って寝れば良かったなぁ。なんてね、冗談だよ?


 さて、これからいくつかの街を経由してカインに入ることになるが、やはりはっきりさせておいた方がいい。


「なあ、リザ」

「なんじゃ?」


「本当に僕に付いてくるのか?」

「無論なのじゃ!」


「キミに目的があるように僕にも旅の目的があるんだ。これからけっこう危険な場所にも行くことになる。キミが僕に付いてこられないと判断したら躊躇ちゅうちょなく置いていくから、それだけは覚悟しておいてくれ」


「ほう? 主は妾が足手まといになると思っておるのか?」


 リザはあの恒竜族であり、次代の恒竜王を自称するくらいだ。弱い訳がない。彼女と一緒なら僕ひとりでは入って行けない場所にも入っていけるかもしれない。

 

 それでも何が起こるか分からない。僕の無茶に彼女を巻き込みたくはない。


「まあ、そうかもね」

 わざとらしく肩をすくめてみる。


「ならば試してみればよい」


 リザはぴょんと馬から飛び降りた。


「え?」

「妾の力を主に認めさせるのじゃ」


「キミは僕の力を疑ってないんだな」

「うむ、主は強いのじゃ。妾には分かる」


 こんなに正面からはっきり告げられると照れ臭いな。


「わかったよ」


 僕らは距離を取って対峙する。リザが腰を低くして身構えた。


「剣は抜かぬのかや?」

「キミこそ武器はないのか?」


「恒竜族はその肉体が武器なのじゃ」

「なるほど」


「ではゆくぞ!」


 走り出したリザが腕を振り上げる。

 正面から受けてたってやるぜ――、と思ったが危険を感じ取った僕は咄嗟に横に跳んだ。


 凶悪な竜の爪が振り下ろされた瞬間、斬撃が巻き起こる。薙ぎ倒された木々は紅蓮の炎に包まれ燃え上がった。


 斬撃を受けると発火するオマケ付きかよ、ゼイダど同じ技か? バカ正直に受けなくてよかった……。

 

 リザの攻撃が続く。彼女の動きは早いがゼイダほどではない。このまま避け続けることもできるが一帯が焼け野原になってしまう。

 

 だから僕は敢えて距離を詰めて接近戦に持ち込んだ。

 リザが腕を振り下ろす前に攻撃をいなして受け流す。受け流すだけでも一撃一撃が途轍もなく重い。正面から受けていれば腕ごと持っていかれそうだ。単純な攻撃力ではゼイダより上だ。


 だけど僕はグランジスタとゼイダから、そういったパワー系脳筋タイプを相手にするときの戦い方を叩き込まれている。

 いなす、いなす、いなす。とにかくいなす。

 何度打撃を繰り返してもリザの技は成立しない。すると彼女は苛立ち始める。いなし続けて次の行動へと誘導していく。

 手も足も出ないなら次の来るのはドラゴンブレスだ。

 リザが息を吸い込んだ瞬間を狙って、僕は風の精霊の加護で彼女の周囲にある空気を薄める。


「うっ……」


 ぐらりとリザの身体が揺れた。膝が崩れそうになったところで手を添えて支える。


「濃度の薄い空気を吸い込んだんだ。落ち着いて呼吸すれば頭痛と吐き気はすぐに収まるよ」


 正々堂々ではないズルい戦い方かもしれないけど、僕が進むのは生きるか死ぬかのなんでもありの世界だ。僕よりズルい敵はいくらでも現れる。それを彼女に理解してもらわないといけない。

 

「……まいったのじゃ、妾の完敗じゃな……」


 リザは素直に負けを認めた。


「それでも主よ、どうか妾を連れていってはくれんかの……後生なのじゃ」


 やれやれ、表情がコロコロと変わる娘だ。とても落ち込んでいるのがよく見て取れる。


「リザ、キミは剣術や格闘術を習ったことは?」


 リザは首を振った。


「つまり素質だけであの強さなんだ。本格的に訓練すれば正直どうなってしまうか末恐ろしいよ。だからこそ背中を預けられる」


「……それはどういう意味じゃ? 主と一緒に行ってもいいのか?」


 僕は手を差し出して、「リザ、僕の仲間になってくれ」と言った。


 リスクはある。彼女を連れ戻そうとする恒竜族の追手に襲われるかもしれない。だけど僕は、なんとなく彼女を連れていくべきなのだと感じたのだ。


 決してオッパイが大きいとか、エロいカラダしてるとか、美少女だからではない。しみったれた魔神とふたりだけの旅より、たとえ恒竜族でも女の子と一緒にいたいからなんて不埒な考えは1ミリもない。

 僕は自分の本能こかんに従ったまでだ!


「嬉しいのじゃ!」


 握手ではなくリザは僕に抱きついてきた。それはストロベリーなハグでなくベアハッグだった。肋骨がビキビキと悲鳴を上げていく。

 

 うがぁッ!? 腕力ハンパないって! 


 リザの背中をタップするも離してくれず、僕は泡を吹いて意識を失った。






 日曜日はお休みします。

 新キャラ紹介はあります。

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