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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十八章】アルぜリオン戦役

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第157話 卒業試験

 季節は巡り、僕は十四歳になった。さらに冬を越えて春を迎える。

 毎日が修行漬けではあるが、平穏な日々が続いていた。


 帝国での一件以来、ペルギルス騎士団は姿を見せなくなった。僕の罪が赦されたのではなく、手が出せなくなってしまったのだ。


 それもこれもユウ・ゼングウのおかげだ。


 二十万の魔王軍を一発の魔法で蹴散らして帝国を救った者の噂は瞬く間に広がり、帝国領全土にその名が轟いた。

 そんな彼が友人のロイに手を出せば同じ目に合わせると宣言したことは、帝都にいた多くの人々が聞いている。

 当事者である帝国も、あの惨状を実際に見たであろう王国騎士団も、僕を捕られることはできなくなった。


 そして現在、ユウ・ゼングウは敵か味方か大罪人か救世主かで世論は真っ二つに割れている。


 帝国や王国の上層部でも、かの者を上手く取り込んで味方にすべきだという意見と、脅威と判断して討伐するべきだという意見で別れたまま未だ結論が出ないそうだ。

 そんな裏情報が僕の耳まで届くのは、グランジスタの弟子たちのおかげである。彼らは師匠のためなら喜んでスパイ活動して情報を垂れ流してくれる。


 そんな訳で謎の魔導士、ユウ・ゼングウは半分指名手配の状態にある。

 もっとも上空にいた僕の顔をはっきり見た者はいない。背格好だけではユウがロイとは分からないから、人相書きが出回ることもない。

 

 結果論だけど、前世の名前を有名にするという目的は上々なスタートを切ったといえる。

 もっと世界に名が轟けば、この世界のどこかにいるラウラにきっと届く。

 彼女の記憶が戻っているなら、ユウ・ゼングウと名乗った者を探して接触しようとするはずだ。


 もちろん僕は修行と並行してラウラ探しを続けてきたのだが、この国に彼女はいないのではないかと思い始めている。

 

 もっとも根拠は薄い。

 以前、ヴァルはソフィアと僕との因果を感じ取ったようなことを言っていたけど、それはそんな気がする程度の精度であり、要はただの勘なのだ。

 それくらいなら特別な力がなくとも僕でも分かる。

 きっとこの国にラウラはいない。得てしてこういうときの勘は当たる。だから僕は自分の勘に従う。


 なにより、ペルギルス王国に住む全員を調べている時間はない。行動していた方が見つかりそうな気がする。とにかく今はラウラの記憶が戻っていることを前提に行動するのが一番だ。


 そのためにユウ・ゼングウの売名活動と並行して、僕はテッドの名前で冒険者登録をする。クエストをこなしてランクを上げてオリハルコンになればテッドの名も、また世間に轟く。


 ユウ・ゼングウとテッドが同時期に現れたとなれば、ラウラだけでなくアルトも、ミレアも、イザヤもアルペジオも、前世の僕を知る者なら確信するはずだ。


 謎の魔導士の正体が、あの〝ユウ・ゼングウ〟であることに。


 そして、ラウラ探しの旅に出るにはグランジスタから出された宿題をクリアしなければならない。宿題を出されて一年が経過するけど、僕はまだ達成できていない。



 そんなある日、僕はグランジスタに本家の道場に呼び出された。

 道場で僕を待ち構えていたのはグランジスタとゼイダ、そしてナイトハルト流当主である旧父・ダリアだった。

 久しぶりに実家へ帰って来た僕にダリアは、当主の顔で鋭い眼差しを向けて、こう告げた。


「これよりナイトハルト流免許皆伝試練をはじめる」


「まさか、これは……」


 二刀を携えたグランジスタが僕の前に立つ。


「卒業試験だ、ロイ」


 ついにこのときが来た。この試験に合格すれば、僕はラウラを探しに旅立つことができる!


 本来、免許皆伝試練に合格すればナイトハルト流の師範を名乗ることができ、自分の道場を持つことが許される。

 この試練は使う剣技が事前に指定されており、同時に同じ技を撃ち合って一定基準を満たせば免許皆伝となる。

 しかも剣も木剣ではなく本物の剣だ。


「免許皆伝試練については今更説明する必要はないと思うが、たとえ基準を満たしても免許皆伝は与えない。今回はあくまで俺に勝つことが条件だ」


「はい」


 そう、目的は免許皆伝を得ることではなく、グランジスタを超えること。 

 僕は左右の腰に携えた剣を抜いた。二刀を構えた剣士が対峙する。


「はじめ!」


 ダリアが宣言すると同時に互いの呼吸が一瞬止まり、息吹いぶきと共に剣技が発動した。


 ――ナイトハルト流奥義《無限回廊》――


 四振りの剣が激しく衝突する。

 幾重もの火花が散り、旋風が巻き起こる。

 同じ技による小細工なしの正面からのぶつかり合い。

 相手の手数とスピードを上回った方が勝者となる。


 何十回も、何百回も、何千回も、何万回も受けてきたグランジスタの剣を撃ち返していく。


 いける……、グランジスタのスピードに喰らいついている!

 でも、まだだ……。もっと上がる、もっともっと速くできるッ! 超えろ! 限界を超えるんだ! ここで勝てなきゃラウラを迎えにいけない!


 僕は咆哮を上げた。

 筋肉が悲鳴を上げ、血管が盛り上がり、骨が軋み、身体が限界を超えて加速していく。

 さらに回転が上がり、ついにグランジスタの手数を上回った瞬間、僕の剣がグランジスタの剣を跳ね上げた。

 もう片方の剣でグランジスタの首を跳ねる――、直前で剣を止めた。


 刃が彼の首の皮一枚を切った直後、


「勝負あり! 勝者、ロイ・ナイトハルト!」


 ダリアが僕の勝利を宣言した。




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