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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十七章】魔神の逆鱗

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第151話 秘密

 とぼとぼと通学路を歩く僕の視線の先に、ペルギルス王国騎士団の団旗が映り込む。屋敷の入口でグランジスタとゼイダをとり囲んでいるのは、間違いなく王国の騎士団だ。その数、二十騎。


 まさか僕の身柄を拘束しに来たのか?


 こんなに早く騎士団が動くなんて、考えていたよりも事態は切迫して余談を許さないようだ。

 僕は水車の陰に身を潜めて、様子をうかがいながら聞き耳を立てる。

 

「あん? ロイを引き渡せだと? ふざけんなよテメぇ……」


 グランジスタが凄むと、壮年の騎士団長はたじろいだ。


「ぐっ……、これは国王様からの命令です。彼には皇族暴行容疑が掛けられています。どうあっても従っていただきます」


「聞こえなかったのか、この野郎? ロイは渡さねえ、以上だ」


「グランジスタ殿、このままでは我が国が帝国に滅ぼされてしまいますぞ! 一人の人間の命と一国の命運、どちらがより重いかは貴殿も重々お分かりであろう!」


「ああ、よく分かるね。一人の息子の方が俺には大事だ」


 くだらねぇと吐き捨てたグランジスタは小指で耳の穴をかっぽじる。


「面倒くせえな、やっちまうかこいつら」

 

 指の関節をぽきぽき鳴らすゼイダが鋭い牙をギラつかせた。絶対強者のプレッシャーに圧されて騎士たちの足が後退する。


「ああ、そうだな。いいぜ、喧嘩しようぜ、帝国でも王国でも相手してやる。同時に掛かってきな」


「ぐぬっ……」


「だいたいだな、ロイがボンクラ皇子と喧嘩したくらいでなんだってんだ?」

「殿下は大怪我されたと聞き及んでおります!」


「だからそんなもん、あいつらのふたりの問題だろうがよ。なんで国王がしゃしゃり出てくるんだ」


「相手は皇族ですぞ、そんな道理は通りません! どうか身柄の引き渡しにご協力いただきたい!」

 

 グランジスタは大きな溜め息を吐いた。

 

「だーかーらー、さっきから嫌だって言ってんだろ? あんま調子くれてるとアナスタシア姐さん呼んじまうぞ、ああん!?」

 

「あー、それはヤバいわ。お前ら終わったわ。アナスタシアの姐さんは一度暴れ出したら止まんねぇからな。姐さんが通った後には消し炭しか残らね、聖級魔法じゃないと再生も蘇生もできねぇぞ? それでもいいんだな?」


 ふたりともガラ悪ぅ……。

 言っていることは三下みたいなかませ犬のセリフだけど、あの二人が言うと冗談には聞こえない。

 僕は温厚なアナスタシアしか知らないが、なんとなく喜んで城ごと吹っ飛ばす彼女の姿が想像できてしまう。


 グランジスタはビシッと騎士団長に向かって指をさした。


「ペルギルス王に伝えろ、帝国と一緒に相手してやるとな」



 結局、元勇者パーティのふたりに煽られるだけ煽られた騎士団は、何も出来ないまま引き返していった。

 僕が水車裏に隠れていることを気付いていたグランジスタが、こちらに視線を向けたので僕は立ち上がり、ふたりの元へと歩いていく。

 

「叔父上、ゼイダさん……」


「おう、お帰り」


 グランジスタは僕の肩に手を置いた。


「なにも心配することはない。今まで通りだ」

「はい……」

「だからといって油断はするな。お前が単独行動しているときを狙ってくるはずだ」

「はい」


「まあ、お前なら騎士団くらい返り討ちにできるだろうが、国王が本気になれば魔導部隊を動かしてくるかもしれん。さすがに騎士団と魔導部隊を同時に相手にするのはお前でも無理だ」


「これからはひとりにならないように気を付けます」


「ああ、ところでロイ……お前、何か俺に隠していないか?」


 グランジスタの表情が変わった。僕の右肩を握る彼の手に力が入っていく。


 グランジスタとゼイダは、ヴァルの存在に薄々気付きはじめている。

 実戦を想定した戦闘訓練中において、僕が危機に陥ると僕の体から極まれに魔力の波動が漏れることがある。

 その魔力は異質なものであり、魔境に渡った経験がある彼らには、それが魔神の物とは分からずとも、見過ごせないナニカであると肌で感じ取っいる。


「……僕は、その……」


 今がヴァルのことを打ち明ける良い機会なのかもしれない。

 だけど、魔神ヴァルヴォルグはそもそも人類の敵の代表格だ。

 異世界出身のユウはそこまで意識しないけど、この世界で生まれた人間にとっては脅威でしかない。そんな厄災が僕の腕で、僕の中にいると知れば不安を抱くはずだ。

 もちろんグランジスタを信じていない訳ではない。

 彼なら事情を理解してくれるだろう。


「実は……」と言いかけた僕は、「いえ、なにもありません」と答え直してグランジスタの眼を見た。


 数秒ほど互いの視線が交錯する。


「そうか、ならいいんだ。そんじゃ稽古をはじめるぞ、準備しろ」


「はい!」


 今はまだそのときではない。

 今回の件は確かにヴァルがやったことだけど、発端は僕がジャンをぶん殴ったところから始まっている。

 自分の不始末は自分でなんとかするのが筋だ。

 家族に余計な心配をさせないためにも、僕の力で解決できるうちは、可能な限り秘密にしておきたい。



 次の第十八章【アルぜリオン戦役】が第三部のラストとなります。

 今週の金曜日から更新していく予定ですので、よろしくお願いいたします(・ワ・)

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