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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十六章】謎の刺客と謎の転校生

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第146話 世界

 セツナと駄弁だべっている間にすっかり放課後になってしまっていた。帰宅部の生徒たちがぞろぞろと寮に向かって歩いていく。


『なるほど、そういうことであったか……』


 落ち着きを取り戻りした彼女と別れて家路につくと、珍しくヴァルが独りごちた。


「なにがだ?」


『勇者召喚と召喚陣についてだ』


「なにか知っているのか?」


『そのカインと呼称する都市にある魔法陣は、かつて我が作った物だ』


「は? どういうことだよ?」


『うむ、順序立てて説明するには昔話をしなくてはなるまい』




 もう何千年も遥か昔、かつてこの世界は未曾有の飢餓に陥ったことがあった――、そう魔神は語り出した。



 大地は干からび、水は枯れ、生態系が崩壊した。食べる物がなくなり、死を待つだけとなった人々は神である我に祈った。


 助けてください、手を差し伸べてください、と。


 もっとも、大地が荒れて生態系が崩れた原因は、人々が無謀な開発を行ったことや特定種を捕食して絶滅させたのが始まりであったが、我は人々の願いを聞き入れた。

 彼らを救うために食料を調達してやることにした。

 

 だが、すでにこの世界には餌となる生物は人類に喰いつくされてしまっていた。だから他の世界から持ってくるほかないと我は考えた。


 そこで我は召喚陣を創り出し、異世界から食料を調達することにしたのだ。


 召喚は成功し、異世界から召喚した何千種もの生物は人々の糧となり、彼らは飢餓を脱した。


 それから人々の生活は安定していったが、召喚した一種族が驚異的なスピードで子孫を繁殖させていった。しかも彼らは世代を重ねる度に強くなっていき、その中から突出した能力を持つ者が現れた。


 人々は次第に食料だったはずの存在に数と力で圧倒されて北へ北へと押されていった。ついに地の果てへと追い込まれた人々の命は、風前の灯火となっていた。


 再び人々は我に祈った。


 私たちに安寧の地を与えてください――、と。


 我は願いを聞き入れた。亜空間に人々の住処を創り、そこに逃がしてやることにした。


 そのときくらいからだろう、人類が魔人と呼ばれるようになったのは――。



「ちょっと待て……」


 僕はヴァルの言葉を遮った。


「なんだよ今の話は……。それじゃまるで僕たちは……」


『そう、我が食料として召喚した生物の一種、その者たちの子孫である』


「……っ!?」


 おいおいおいっ! なんてことだ……、元々この大地は魔人の物だったのか。僕たちは外来種で、魔人の住処を奪いながら発展していったと!?


 確かにヴァルは一時的に魔人を救ったかもしれないけど、とんだマッチポンプじゃないか……。


「その話……、真実なのか?」


「うむ、証明することはできんが事実だ」


「でも、それならどうしてお前は元凶であるはずの人族を排除しなかった? お前ならできたはずだ……」


『我は貴様たち〝人族〟に興味を持った。繁殖力もさることながら生きようとする意思や生命力の源を知りたかった。そこで……』


「そこで?」


『人族の雄に化けて人族の雌を抱いてみることにした』


「は?」


『非常に甘美であった』


「は?」


『なるほどこれが繁殖力の秘密であると理解した』


「は?」


『人間の雌を気に入った我は、数千の雌を連れて北方大陸のローレンブルクと呼ばれる地方に国を構えることにしたのだ』


「なっ!?」


 それがローレンブルク国の始まり、そして魔神を祀る理由だったのか……。


「……フォルクマンの魔神論は完全に正しかったのか……」


『そして、我に嫉妬したモテない人族の三人衆によって我は討たれて死んだ』


 モテない三人衆っておとぎ話に出てくる伝説の三英雄のことか? えらく説明が雑だな。やっぱり殺された恨みがあるのだろう。


「お前の話を要約すると、僕たちは侵略者だったって訳だな……」


『違う。ただの弱肉強食の結果である。例え召喚されてこの世界に来たとしてもだ』


「でも、怒りはないのか? 魔人はお前の子供みたいなもんなんだろ?」


『我は情けないと思っておる。我は願い通り食料を与えた。しかし、食料であるはずの生物に領土を奪われ、住むところを失った。次に奴らは戦うのではなく、安寧の新天地を望んだ。我は新天地として亜空間を創造して与えたが、そこさえも何度か奪われそうになった。今でこそ押し返しているが、このままではいずれ亜空間も奪われるだろう。我が残した魔法陣を改良した勇者召喚によってな』


 亜空間とは魔境を指しているのだろう。魔境と名付けたのは枢機教会か?


『我がこれ以上手を貸すことはない。絶滅するのであれば、それは必然である』


「そんな……そんな寂しいこと言うなよ。みんな一生懸命に生きているんだ」


 魔人と戦ってきた僕には分かる。彼らは必死で自分たちの領土を取り戻そうとしていただけなんだ。

 ヴァルの話を聞いて世界が逆転してしまった気がした。

 ヴァルに切り捨てられた魔人の肩を持ちたいと思ってしまう自分がいた。

 

 僕は、なにが正義でなにが悪なのか分からなくなった。だからと言って歩みを止めることはできない。

 人と魔人、どちらが滅ぶしか道はないのだろうか……。




 世界の真実を知ったその日からも、当然のように僕の学生生活は続いていった。


 平穏だったとは言い難く、特にセツナに関しては、あの日以来急速に関係が進展してしまっている。


 僕は彼女と課外授業で同じ班になって迷宮に潜り、トラップに引っ掛かってしまい、ふたりだけ転移した先で遭難してサバイバルになり、その過程で一線を越えそうになった末に生還を果たしたり、セツナとソフィアが僕を取り合ってバトったりと色々あったのだが、その話はまた別の機会があれば話すとしよう。




 ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。

 ブクマや感想、評価などの応援、拙作を他の方にオススメしていただけますと嬉しいです。よろしくおねがいします(・ワ・)

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