第144話 彼女の事情
「発明家なの!?」セツナはキラキラと瞳を輝かせた。
「ふえ?」
「違うの?」と今度は小首は傾げる。
「ああ……うん、そうなんだよ。実は趣味で空想の武器を作ってるのさ、あはは……クラスのみんなにはナイショだよ、なんつって」
「私もこれ知ってるよ! こうやって持つんだよ!」
僕の手から作りかけのヘカートを奪い取った彼女は銃床を肩に担いで構えてみせた。
違う! 銃床は肩に担ぐ物じゃない! それはバズーカだ! それじゃあスコープ見れないでしょう! 構え方があざとい!
「ばきゅん! ばきゅん!」
僕に銃口を向けた彼女は安っぽい銃声を口ずさむ。
いちいちあざとい!
「ちょっとぉ、やられたフリしてよね。ばきゅん!」
「うわー、ヤ、ヤラレター、ばたり……」
仕方ないので横向きに倒れて死んだフリをしてやる。
チラリと目を開けるとセツナは、小馬鹿にするように笑い出しやがった。
「ぷっ、なにその古典的なリアクション、なんかオジサンみたい」
「……ほっとけ」
僕はむくりと起き上がってそっぽを向く。
「返してくれ、まだ製作途中なんだ」
「あ、ごめーん。てか作るところ隣で見学させてもらっていい?」
「別にいいけど……」
そう言い終わる前に、僕の隣に座ったセツナは体をぐいぐいと寄せてきた。オ○パイがすごく当たる。いや、当てている。当てに来てやがるとしか思えない!
前世の僕でさえ味わったことのなかったセツナのオ○パイがすぐそこにある。それに良い香りがする。不覚にもムスコがむくむくなってきた。
「セツナさん……ちょっと離れてくれるかな」
「調子に乗りました、えへへ」とセツナは照れながらはにかんだ。
ぐぅっ、あざとい!
「……」
心頭滅却だ。無心になって邪念を払え…………オ○パイってなんであんなに柔らかいんだろう。ただの膨らみに興奮するのはなぜだ?
「あ、そうだ! 指の怪我ッ!」
彼女はまだ血が止まらない僕の指の傷口を、ぱくりと咥えた。
「えッ!?」
こ、これはあれだ……。
アニメや漫画で目にする非科学的な民間療法であり、でも最近は唾液には一定の効果があるなんて話もあり、やられた男がホの字になるアレである。
ちゅーちーペロペロと実際にやられて変な気分になってくる。
こそばゆい。そこはかとなく恥ずかしい。なによりセツナが僕の肉棒をしゃぶってる姿がエッチ過ぎる!
「あ、ありがとう……、もう大丈夫だから」
ちゅぽんと指を引いてお礼を告げるとセツナは満足気にうなずいた。
僕の指はセツナの唾液まみれだ。このまま自分の指をしゃぶったら彼女はどんな反応をするだろうか。やらないけどね。
「あれ? でもセツナって治癒魔法が使えたよね?」
そうなのだ。彼女はどの系統の魔法も中級までなら行使できる。全系統で中級魔法が扱えるのは実はすごいのだ。
さすが並を極めたオールラウンダーのセツナさんである。
「えー、あ、うん、魔法ってまだ反射的に出てこなくて、つい……」
僕の指を舐めたのが急に恥ずかしくなったのか、頬を紅潮させたセツナは舌を出してテヘペロした。
「あのさ、ロイくんだから話すね……。信じられないかもしれないけど、わたしね、この世界の人間じゃないんだ」
「この世界の人間じゃないって、どういう意味?」
しれっと僕は聞き返す。
むむ、図らずも彼女から話してくれる流れになった。
「異世界っていうのかな? こことは違う別の星の別の国、こことは全く文明が違っていて魔法もモンスターもいない世界、そこから来たのがわたし」
「それが本当ならキミは一体どうやって、この世界に来たの?」
分からないと言ってセツナは首を振った。
「いつの間にか、この世界にいたから」
「ワープしたってこと?」
「うーん、そうなのかなぁ……。気付いたら祭壇みたいな、魔法陣? みたいな上に乗っていたの。周りには司祭みたいな人がいっぱいて」
祭壇に魔法陣に司祭、関連ワードのオンパレード。間違いない、超級召喚陣だ。
「後で教えてもらったんだけど、そこは聖都って呼ばれているカインって都市で、枢機教会っていう宗教の建物だったみたい」
セツナは人差し指を口許に当てた。
「あ、今の話は他の人には内緒ね? 言っちゃっダメって口止めされてるから、教会の偉そうな人に」
「分かった。誰にも言わないよ」
「わたしね、ひょっとしたらここは死後の世界なんじゃないかと思ってるんだ」
「死後の世界?」
「……うん、だって自殺したんだもん、わたし……」
「じさつ?」
「そう……、高い建物から飛び降りて……。落ちたはずなのに次の瞬間、こっちの世界に来ていた……。だからここは死んだ人が来る世界なのかなって思ってる」
僕の知る浅間雪菜は絶対に自死を選ぶ人間ではない。目の前にいるセツナだって天真爛漫で明るくて、自ら命を断つシーンなんて想像できない。
「キミは……どうしてそんなことを?」
「……それを聞いたらロイくん、きっとわたしのこと嫌いになるよ」
「そんなことは……、ないと思うけど」
セツナは首を振った。とても暗く辛い顔をしている。
「……きっと汚れてるって思われるから……。やだよ、そんなの……」
彼女は自らを守るように自分の体に腕を回して抱きしめた。
元の世界で彼女になにがあったのか、僕には分からない。
だけど自殺したくなるほど、実際にしてしまうほど、彼女は傷付いて、苦しんだのだ。あのときの僕と同じように。
セツナの目からポロポロと涙がこぼれ落ち、彼女は泣き出した。
きっと嫌なことを思い出してしまったに違いない。
僕は彼女の肩を引き寄せて、そっと抱きしめた。そうすることしか出来なかったから。




