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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十六章】謎の刺客と謎の転校生

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第143話 彫刻

 翌日、ピタリとイジメが終わった。

 彼女たちは見事な掌クルクルでセツナに優しくなっている。

 みんなニコニコ幸せそうだ。イジメに加担していた女子たちは、自分の幸せをおすそ分けしたがっている。


 おわかりだろうか?


 人が他人に優しくできるのは、自分に余裕があるからこそだ。

 なので僕は彼女たちに余裕を与えることにした。


 そう、彼女たちは彼氏ができて余裕ができたのだ。それが例え多重婚スケコマシクソ野郎だとしても、自分が上の立場になれば優越感に浸り放題で、いくらでも下々を見下して愉悦に浸れる。

 男に色目を使っただの、誰それに告白されただの、つまらないことでムキになることもない。

 

 これにて一件落着である。

 


「ところで、お前は妃が何人もいる事実をどうやって全員に納得させているんだ?」僕はヴァルに言った。


『そなたは特別だと言い聞かせておる』


「おまえ、すごいな……」


 ホストの常套句だけど。そしてサイテーな野郎だけど。


『嘘偽りはない。全員が特別なのだ』


「けっ! 刺されて死ね!」


『刺されるのはユウの体だがな』


「……呪われて魂だけ滅せよ」




 放課後、僕はグロリア会長に呼び出された。

 膝枕しながら頭を撫でて褒めてくれるのかなって期待していたけど怒られた。


「ああいうやり方は好ましくありません」

「ごもっともです……」


 しゅんと肩を落とした僕に、会長は困り顔だ。


「もちろん、それを承知の上で私はロイくんとはお付き合いしています。ですが手段として使うのは間違っています。互いが愛し合ってこその――」


 それから会長のお説教が一時間近く続いたので途中でヴァルと交代した。後はヤツに任せよう。たまにはお前も困りやがれ、うしししっ。


『美しい』


 ヴァルは言った。僕の姿で、口で、声で、唐突に、目の前に座る会長に向かって言い放った。


『憂う表情もまた一段と美しい。まるで人族が偶像する美の女神アフロディーテのようだ。そなたの美しさには我の視線も意識も、光も、闇も、数多の星も、すべてが引き寄せられてしまう』


「……きゅ、急にそんなことを言うなんてズルいです……」

 

 歯の浮くようなセリフの連撃に動揺するグロリア会長の顔が紅潮する。


『グロリア、我はそなたのその顔が見たいがために、ああしたのやもしれん。我儘な我を許してくれ』

 

 ヴァルに顎クイされた会長の目がとろんとメスの顔になる。

 そのままヴァルが会長の唇を奪い、雄々しくソファに押し倒した後、お子様には見せられない行為が生徒会室で展開されたのだった。




 さて、問題がすべて片付いた訳ではない。

 

 まだ『セツナ・アサマ勇者なのでは問題』が残っている。

 一体どうやって聞き出したものか……。いや待て、別に聞き出す必要はないのではないか?

 

 彼女が勇者だからってなんの問題があるんだ? たとえ勇者が並みの力しかなくても僕は困らない。困るのは教会の連中だ。四十年先まで待たなくてはならないのだから。

 僕の知ったことではない。

 なにより勇者ならすでにイザヤがいる。彼より相応しい者なんていない。オールクリアだ。


 それから彼女が僕の知る浅間雪菜と同一人物かどうかは、もうどうでもいい。いつまでも前世のことを根に持っているなんて正直僕もどうかしていた。

 



◇◇◇



 

 イジメ問題が解決してからは平穏な学院生活が続いている。そんなある日、リエちゃんの授業が自習になったので教室を抜け出した僕は、校舎裏のいつもの場所に移動して、ひとりである物を作っていた。


 一言で言ってしまえば彫刻だ。

 一本の木材から削りだそうとしているのはライフル銃である。

 僕は前世でユウが装備していたクリーゼ製ヘカートを再現しようとしている。もちろん形だけの偽物ではあるが、ちゃんと目的がある。

 

 こいつを作製している理由は、目印とするためだ。

 ライフルを持ち歩く人間なんてこの世界にはいない。つまりヘカートを持ち歩いていれば、転生体のラウラが気付いてくれるかもしれない。

 

 まだ作り始めて一週間だけど、だいぶ形になってきている。シルエットはライフルそのもの、見る人が見ればそれと気付く。後は細部を作り込んでいけば完成だ。


 今の僕には放課後も安息日も修行で休みはない。最近はさらに稽古の過酷さが加速している。グランジスタとゼイダは本気モードだ。


 という訳で時間が取れるのは学院にいる僅かな休み時間と自習のときだけなのだ。その限られた時間の中で、よくここまで形にしたと自分でも感心してしまう。


 しかし彫刻というのは意外に良いものだ。集中できるし、心が澄んでいく。神経が研ぎ澄まされていく。

 無心に木を彫る作業は、禅に通じるものがある――……。


「ローイくん、なに作ってるの?」


「ギョェェェェエェェッ!?」

 

 突然後ろから肩を掴まれた僕は悲鳴を上げた。ナイフの刃がぶすりと指に突き刺さる。


「な、なによ……そんな怪鳥みたいな鳴き声で驚かなくてもいいじゃない」


 セツナ・アサマ……、なぜ貴様がここにいる。そして恐るべきハイディングスキルだ……、まったく気配を感じなかった。やはりこいつは勇者なのかもしれん。


「そんな嫌そうな顔しないでよね、お礼を言いに来ただけなんだから」


「お礼なんていりませんよ、会長に頼まれただけですし、お礼なら会長に言ってください」


「むぅ、相変わらずつれない態度ね……。あれ、それって鉄砲だよね?」


 しまった……。見られてしまった!?

 へ? 待て待て、鉄砲だと?


 この世界にはまだ大砲しかない。魔法の方が大砲より遥かに運用効率がいいから、たいして開発もされずに小型化されないのだ。


 彼女は鉄砲の存在を知っている? 知っているということは、やはり――。


「なんでロイくんが鉄砲を? え……ロイくんって、もしかして……」


「ッ!?」


 しまった! もしセツナが異世界人なら鉄砲を作る僕に疑問も持つのは向こうだって同じはずだ。僕が転移してきた異世界人だと気付かれてしまう!?



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