表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十六章】謎の刺客と謎の転校生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

152/291

第137話 GGF

 死が目前に迫った正にそのときだった。

 一陣の突風が僕の体を覆う炎を薙ぎ払う。炎が消えると同時に加護が消えて自発呼吸を再開させた僕は地面に膝を付けた。

 今の一撃はグランジスタの得意技《烈風》だ。彼が助けに来てくれたのだ。

 

 危なかった……。あと少し遅ければ灼熱の空気を肺に取り込んでいた。ああ、くそっ……、あんなに修業しているのに僕はまだ実力が足りないのか。

 それにしても、ゼイダが放ったあの瞬時に発火する技は厄介だ。動きが止まり、魔法や詠唱を必要とする技を一瞬で封じてしまう。

 

「ロイ様!」

「ロイ!」


 僕の元に駆け寄ってきたのはソフィアとクラリスだ。

 僕の背中に触れたクラリスが治癒魔法を掛ける。ただれた皮膚や焼けた喉が元に戻っていく。


「ソフィア……、クラリス……」


 ソフィアがグランジスタを呼んできてくれなければ、僕は死んでいただろう。彼女の冷静な判断のおかげで助かった。


「クラリス!?」

 

 ゼイダが声を上げた。


「ロイにひどいことしないで! おおおじいちゃん!!」


 両手を広げたクラリスが、僕を守るためにゼイダの前に立ちふさがる。


「違う、誤解だ。オレはお前を助けに……」


 狼狽えるゼイダにグランジスタが剣を肩に当てながら近づいていく。


「おいおい、俺の息子になにしてくれやがんだクソ犬」


「……グランジスタ、どうしてお前がここに?」


「俺の気配に気付かねぇなんて、もうろくして鼻が効かなくなったんじゃねえのか? そいつはな、俺の息子のロイは奴隷として売られそうになったクラリスを救ったんだぜ」


「……その話は本当か、クラリス?」


 ゼイダに問われたクラリスは曾祖父を睨み付けたままうなずいた。




 

 クラリスの口から現在に至るまでの経緯が説明された。その話は、僕も以前彼女から聞いて知っている。


 北方大陸にある獣人族の村で暮らしていたクラリスは、薬草採取中に森で迷ってしまい、誤って魔人族が設置したと思われる転移魔法陣を踏んでしまった。

 転移してきた場所は西方大陸のシス平野、知らない土地を彷徨っていた彼女が運悪く出会った人族が悪名高いメンデルソン商会の行商人だった。

 行商人に捕まったクラリスは、ペルギルス王国で奴隷商人に売られて商館の地下に閉じ込められてしまう。

 その後、マーケットで商品として陳列されていたところにロイがやって来た。


 ロイが偶然通りかかったのは不幸中の幸いだった。もしもあの日、ダリアがマーケットに連れてきてくれなかったら、もしも僕が彼女を見つけなかったら、彼女はきっと――……、その先は考えたくもない。


「小僧、許してくれ。オレはクラリスの恩人であるお前を殺そうとしちまった」


 ゼイダは頭を下げる代わりに耳と尻尾をを垂れ下げて、「それならそうと早く言ってほしかった」と付け加えた。


 いやいや、拳で語れと言ったのはあんたやろ……とは言い返さず、


「いえ、お互い様です。僕もあなたを本気で殺すつもりでした。でも、手も足も出なかった……」


「当たり前だろ、オレを誰だと思っていやがる。と言いたいところだが、指先くらいは届いていたぜ」


 彼の言葉は決してお世辞ではないはずだ。僕にも手応えはあった。僕は強くなっている。だけどまだまだ彼らの足元にも及ばない、それもまた事実だ。 


 そんな悔しさもあり、負け惜しみついでに僕は剣を地面に突き刺してファイティングポーズを取った。


「本当は素手で勝負したかったんですけどね」 


 シュッシュッと口ずさみながらシャドーボクシングする僕にゼイダは肩をすくめた。


「それは舐めすぎだな。素手だったらグランジスタが来る前に死んでいた」


「そうかもしれませんが、もし僕が剣であなたに勝っていたら、素手だったら負けなかったのになんて言われても困りますので」


「はっ、そう言ってオレに挑んできたバカが前にもひとりいたな……。面白いじゃねえか、気に入ったぜ、お前のクソガキ」


 ゼイダはグランジスタを見てニヤリと笑う。


「だろ?」


「ああ、アナスタシアに弟子入りしたら立派な戦闘狂になっただろうよ」


「あいつは弟子なんか取らねぇよ、弟子が活躍したら自分の楽しみが半分減っちまうんだからな」


 グランジスタがそう言うとゼイダは苦笑した。


「違いない」


 

◇◇◇



 それからゼイダ・ラファガルドはしばらくの間、グランジスタ家に住むことになった。


 突然やってきて居候になった曽祖父のことを、クラリスはちょっとうざがっている。

 僕を傷つけたことでご立腹の彼女の機嫌を取ろうとゼイダは必死だけど、あまり上手くいってない様子。クラリスはゼイダが不意に僕に近づくと「う〜」と唸って威嚇するのだ。


 ひ孫に冷たくあしらわれる彼の背中からは、なんともいえない哀愁が漂っている。僕は彼女の新しい一面を見れることができて嬉しいし、犬歯を剥き出す彼女の顔はとてもカワイイ。


 余談だが、ゼイダから聞いた話では、現在の北方大陸の治安は人族が統治していたときよりも安定しているらしい。魔人族が支配したり人族が奪ったりを長い間繰り返してきた北方大陸に元から住む種族にとっては、ひょっとしたら今の状態の方がいいのかもしれない。

 僕ら人族と魔人族の争いなんて彼らにとって迷惑でしかない。

 

 僕ら人族が北方を取り戻そうとすることは間違っているのだろうか……。


 なんにせよ、師匠がふたりになった。体術が前世からの課題だった僕にとってはゼイダから教えを乞えるのはありがたい。

 その分、やることが二倍になったけど僕はもっと強くなれる。


 さてはて、どう考えても我が家に武力が一極集中している気がしてならない。

 一線を退いたといえ最強雷帝パーティメンバーがふたりもいる。魔王討伐中ならまだしも陸軍と海軍がひとつ屋根の下にいるようなものだ。

 もはや一国と戦えるのではないだろうか。


 明日から謎の転校生編です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ