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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十五章】オジキの帰還

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第130話 ゴーホーム2

 朝起きて基礎トレ、学校が終わればすぐに稽古、夕飯を食べたら寝るまで再び稽古の血反吐を吐く毎日が繰り返されていった。


 グランジスタとの立ち合いではまだ一本も奪えていない。未だ片手であしらわれている。さらにグランジスタはどこかれ構わず奇襲を仕掛けてきた。

 就寝中、通学中、食事中、トイレに入っているとき、クラリスといちゃいちゃしてるとき、ところ構わずだ。


 師、いわく――、気配や殺気を察知するスキルは魔境では特に必要となる。いつどこで敵の襲撃を受けてもいいように日常生活でもアンテナを張り巡らせる癖を身につけなければならない。

 魔境では魔獣が活性化していて攻撃性も凶暴性も増しているとのことだ。

 


 話は脱線するが、自制しろと注意したことが功を奏したのかヴァルは大人しくしている――、と思わっていた矢先にシャリー先生から「来るなら準備があるから事前に言ってくれ」とお小言を頂いた。


「あ、はい。次回から気を付けますね~」と僕は答えるしかなかった。


 クラスメイトの女子や一度も話したことのない先輩たち、街角の花屋のお姉さん、冒険者のお姉さんからも同じようなことをしばしば言われる。

 もはや自分の体の疲れが修行のせいなのか、淫獣のせいなのか分からないレベルになってきている。


 ヴァルのヤツは魔法でしっかり全回復してくれればいいのに、女子の家を〝はしご〟している間は回復魔法を掛けるけど最後のフィニッシュ後は回復魔法を使ってくれない。

 僕と入れ替わった後のことなんて、ヤツにとってどうでもいいのだ。



 そんな生活が続いてすっかり春になり、暖かな日差しが感じられるようになったある日、みんなで囲む朝の食卓で僕はグランジスタに言った。


「叔父上、三日ほど休暇をください」

「あん? 旅行にでもいきたいのか?」


「ええ、前世の両親に会ってこようかと思いまして、なにせ前世の僕が死んで十五年近く経っています。両親に会って僕が死んだことをちゃんと伝えようと思います」


 実はこれは結構前から決めていたことだ。修行が落ち着いたら一度実家に戻るつもりでいた。両親が生きていれば七十を超えている。もうどちらかが死んでいてもおかしくはない。最悪、どっちもお墓の中かもしれない。親不孝の息子だったけど、お別れはちゃんとしておきたい。


 僕の前世が異世界人であることを思い出したかのように、グランジスタは考え深げにうなずいた。


「なるほどな……。そうか、よし、行ってこい。お前が留守の間、ふたりのことは俺に任せておけ。みっちり鍛えてやる」


「はははっ、お手柔らかにお願いします」


「前世の両親? いったいなんのお話しですの?」

  

 ガブリエラが不思議そうに僕を見つめる。


「ああ、そうか、ガブリエラにはまだ話してなかったね。実は、僕の前世はこことは違う世界で生まれた異世界人なんだ。その話をしてたんだよ」


 ガブはポカンと口を開けた。


「……お兄様も叔父様も寝ぼけていらっしゃるのですね。そんな話をしていると異端審問官に捕まって処刑されてしまいますよ」


 やれやれと息を付いたガブリエラは食べ終わった食器を片付け始めた。

 その様子を隣で見ていたクラリスがくすりと笑う。


「異端審問官かぁ、懐かしいな。そういえば殺されかけたこともあったっけ」


「はいはい、そうですわね。まったくお戯れを……」



 という訳でガブリエラは信じなかったため、クラリスに里帰りの行程を詳しく説明して僕は日本に戻ってきた。

 もちろん時空転移魔法を使って。魔法の精度は前世のときと変わらない。けれど、魔力量はユウだった頃に比べてけっこう下がっている。


 んで、僕はかつてのボロアパートの部屋にいる。十五年も経ってまだ取り壊されていなかったことに驚きだ。家賃を口座引き落としにしておいて正解だったな。

 しかし、電気は付かず蛇口を捻っても水は出なかった。ガスも止まっているようだ。

 

 あまりゆっくりしている時間もないため、僕は現金や必要な物を持ってアパートを出た。


 駅に向かう道すがら目にする街の風景は、さほど変化はなかった。行きつけのラーメン屋が違うラーメン屋になっていたり、コンビニが変わっていたり、新しいマンションが建っていたり、その程度である。

 車もまだ空を飛んでいない。文化レベルに大きな変化はなさそうだ。

 

 街に出て気付いたことが一点ある。歩いているだけで声をめっちゃ掛けられる。おそらくそれは逆ナンだったり、芸能界のスカウトの類と思われる。

 グランジスタに似ているロイはとにかくイケメンだ。


〝おそらく〟と付けた理由は、言葉が分からないのだ。

 そう、日本語が理解できなくなっている。僕は日本人ではなくなっていた。その代わり英語が理解できるようで、駅の英語のアナウンスが母国語のように聞き取れる。


 さて、これは困ったなという訳で、新幹線に乗る前に本屋によって外国人向け日本語テキストを購入した。

 実家に着くまでに最低限の日本語をマスターしなければならない。


 幸いにも新幹線で隣の席のお姉さんが会話の練習に付き合ってくれた。目的の駅で降りる際に携帯番号が書かれたメモを渡される。

 ロイくんモテモテの巻である。

 自分で言うのもなんだけど、ロイは保護欲をそそる顔をしてる。たぶん優しいお姉さんたちは何も言わなくても勝手に養ってくれるのではないかと思う今日この頃です。




 土曜日はお休みします。

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