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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十五章】オジキの帰還

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第128話 決意

 グランジスタを捉えたと確信した直後、ぐらりと視界が揺れる。両膝が崩れ落ちていた。

 

 一連の流れが僕には見えていた。見えていたけど避けられなかった。

 頭蓋を狙った僕の一撃はグランジスタに届く前に止められていた。彼は迫る木剣を素手で掴んだ後、僕の顔面に一撃を叩き込んだのだ。

 そして為す術もなく僕はうつ伏せで倒れている。


「ぐぅ……」


 頭の中がぐるぐると回っている。脚に力がはいらない。

 木剣を杖代わりにして立ち上がった僕の口の中からどぼどぼと血が流れ出していく。顎の骨が砕けているようだ。


 静まり返った観衆たちは一様に顔を青くしている。彼らはやっと気付いたようだ。この立ち会いは余興などではない。かの少年は本気でグランジスタを倒そうとしていることに。


 僕は顎に手を添えた。精霊アニマの加護で砕けた骨を治療する。


 ……ロイは精霊アニマに愛されているな。無詠唱でも魔法が使えるのだから。


 ただ、完全ではない。骨は治っても奥歯までは元に戻らなかった。

 折れた奥歯を吐き出すと血にまみれた歯が床を転がり、赤黒い血痕を刻む。



 もう一度木剣を構えなおした僕を、グランジスタが見据えている。

 彼の表情から余裕は消えていた。僕は彼の本気を引き出すことに成功したのだ。


「なんて眼をしてやがる……。お前の眼、まるで殺したいヤツがいるような眼だぜ?」


 そう言われて思わずにやけてしまいそうになる。彼に真意を見抜かれたことが僕は嬉しかった。


「ええ、その通りです。僕は〝そいつ〟を殺すために強くならなければいけません」


「なぜ殺す必要がある?」


「大切な人を殺されました」


「誰を殺された?」


「恋人です」


「……ほう?」


「だから、僕はもっともっと強くならなくちゃいけないんです」


「なんなら俺が代わりに殺してきてやろうか? 〝そいつ〟をよ……」


 僕は首を振った。


「たとえ叔父上でもそれは無理でしょう」


「なに?」


 眉間にシワを刻んだグランジスタの眉根がぴくりと上がる。同時に再び空気が凍り付いた。父上は泡でも吹いて倒れてしまうのではないかと思うほど顔が真っ青になっている。


「雷帝ライディンですら太刀打ちできなかったとうかがっております」


「……なんだと? あいつが唯一負けたのは……まさか、そいつは……」


 目を見開いた叔父に僕は告げた。


「はい、《双児宮》デリアル・ジェミニです」



◇◇◇



 突然始まった余興は唐突な結末を迎えた。


 僕が無謀な戦い方でグランジスタに挑んだ理由も、グランジスタが途中で追撃の手を止めた理由も、僕らの会話を理解できた者は誰一人としていない。

 パーティーの主役であるグランジスタは呆気に取られる観衆を置いて、サロンから僕を連れ出した。

 

 誰もいない母屋の食堂で向かい合うと同時に試合の続き、問答の第2ラウンドが再開される。


 なぜデリアル・ジェミニを知っている? どこでヤツと会った? お前は何者だ?


 今、彼の心の中では警戒心と猜疑心が半分以上を占めているはずだ。しかし、それらを凌駕する好奇心を彼はその目の奥でたぎらせていた。


 僕は彼の質問に、一つひとつ答えていく。


 自分が転生者であること、前世は十五年前にアイザムの街で出会った雷帝の孫、ユウ・ゼングウであること。

 デリアル・ジェミニにラウラと僕が殺されたこと。

 そのときに転生魔法を使ってロイとして生まれ変わり、十二年が経過した先日、前世の記憶が蘇ったこと。

 そして、デリアル・ジェミニの正体がこの世界にいた僕、ユーリッド・ゼングウの師匠であり、異端審問によって処刑された異端者アルデラであること。


 僕がグランジスタの質問に答える度に、握りしめられた彼の拳に力が込もっていく。

 

 最後に僕は、自分の目的を告げた。


 この世界のどこかにいるラウラの転生体を探し出し、僕らの仇であり人類にとって危険な存在、《双児宮》デリアル・ジェミニを倒す――。


 最後まで僕の話に耳を傾けていたグランジスタの顔から疑念は完全に消え去っていた。それどころか僕には彼が嬉しそうであり楽しそうに見えたのだ。彼の眼は輝いていた。


 これは僕の勝手な推測で、自惚れかもしれないけれど、彼は待っていたのだと思う。


 ――自分の意思を継ぎ、雷帝の仇を討つ者が現れるその日を。


「ロイ、お前……デリアル・ジェミニを倒すといったな?」

「はい」


「分かっているのか? それはつまり雷帝ライディンより強くなるってことだぜ?」


 もっともな問いかけだ。

 僕は雷帝がどれだけ強かったのか知らない。だけど彼と出会った人物は口を揃えて言う。ライディンは歴代最強の勇者だと。

 雷帝の片鱗に少しでも触れた者ならば、雷帝を超えるなんて軽々しく言葉にはできない。それでも僕は宣言しなくてはいけない。例えそれがどんなに困難な道であろうとも。 


「超えてみせます。あなたを……、そしてライゼンを」


 迷いはなかった。僕とアルデラの戦いは避けられない。この先もう一度相まみえることになるだろう。そんな確信めいた予感が僕にはある。




 ロイの奥歯はクラリスが拾って、綺麗に洗ってから魔法でくっつけてくれましたとさ。

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