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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十四章】魔神降臨

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第124話 朝チュン

 チュンチュン、チュンチュン――。


 小鳥のさえずりで目を覚ました。窓の外は空が白んでいる。まだ日が出て間もない明け方だ。


 うーん、なんて清々しい朝だ。


 気分とは裏腹に重い体を起こした僕は、両手を上げて背筋を伸ばす。


「あれ?」


 違和感を覚えたのはそのときだった。

 いつもよりベッドがふかふかだ。そしてでかい。キングサイズはある。天蓋の付いた豪奢なベッドの上に僕はいた。

 よく見ると部屋も違う。天井には大きなシャンデリア、部屋の隅々にまで施された細やかな装飾、ナイトハルト家なんて比べ物にならないほど立派な屋敷だ。


「おはようございます」


 女性の声だった。ベッドからだ。僕の隣で誰かが横になっている。慈悲と母性に溢れる綺麗な瞳と目が合った。僕は彼女のことをよく知っている。

 この金糸のツインテドリルは――、


「グ、グロリア会長……」


 名前を呼ぶと彼女は微笑んだ。

 純白のシーツから覗く白い肩、シーツで覆われたグロリア会長は何もお召しになっていないようだ。

 どう考えてもシチュエーション的に朝チュンである。


「いじわるな人ね。二人きりのときはグロリアと呼ぶと約束したではないですか」


「そ、そうでしたね……。ところで僕はここでナニを?」


「私にそのようなことを言わせようとするなんて悪い人……」


 頬を膨らませた彼女は、僕の太ももをシーツの下からそっとつねってきた。


「……つまりそういうことをしたんですね」


 恥ずかしそうに口元をシーツで隠して、グロリア会長は小さくうなずく。

 あまりに唐突な展開すぎて乾いた笑いが込み上げてきた。


「ちなみに……、僕はどこからこの部屋に入ってきたのでしょうか? 玄関ですか?」


 娘さんの部屋に泊りに来ましたーっなんて親公認の関係だったらどうする……。いや、婚前にそれを許すラグデューク伯爵ではないと思うが……。


「ふふ、おかしなロイくん。いつも窓から入ってきて窓から出て行くではないですか」


 ですよね~、YOBAIですよね~。


「い、いつも……。そ、そうですよね……ははっ……、も、もう行かなきゃ……。じゃあグロリア会長、学校で会いましょう」


「またね、ロイくん」


 シーツを手で抑えて体を起こしたグロリア会長は僕の頬にキスをした。


 脱ぎ捨てられているパジャマを着た僕は三階の窓から飛び降りる。ラグデューク家の見事な庭園には目もくれず駆け抜けて高い塀を飛び越えた。


 すたり、と着地して僕は茫然と歩き出す。


 状況を整理しよう。いや、整理する必要もないだろう。なにもかも明らかだ。どうやら僕は僕の寝ている間にグロリア会長と情事じょうじを重ねていたらしい。


 犯人の目星は付いている。そう、犯人はこの中にいる。迷宮入りする余地もない。

 意識のない寝ている間に僕の体を使ってこんなことができるのは〝あいつ〟しかいない。


「や……やりながったな! ヴァルヴォルグぅぅぅぅぅっぅぅぅうぅっぅぅぅッッ!!」


 僕は早朝の空に向かって大声で叫んだ。


『朝から騒がしいな』

「どういうことだこれは……、説明しろ!」

『良い女がいたので抱いた。それだけだ』


 どんなイケメン理論だ!? ムカつく! ぺっぺっ!


「僕の体だぞ! 勝手なことをするな!」

『残念だが我には肉体がない。それに交尾しないと死に至る病でな』

「すぐにバレる嘘つくんじゃねぇぞ!」


 胸ぐらを掴んで張り倒してやりたい!!


「お前はこの世界で異性と寝ることが何を意味するのか分かっているのか!?」

『知っておる。グロリア・ラグデュークは我が妃とする』

「な、なに勝手なことを! 僕の体だ!」

『それは正確ではない。契約が成った時点で貴様の魂の所有権は我にある』

「どういう意味だ?」


『本来ならば転生した時点で貴様は、その魂を我に受け渡さなければならなかったのだ。そうなれば肉体も同時に我が物になっていた』


 確かに僕は「転生できたら魂をくれてやる」と言った。解釈次第では生まれ変わった瞬間、魂を奪われていても不思議ではない。


「ならどうして僕の魂を今すぐ奪わない」


『ただの気まぐれだ。貴様の人生を見てみたくなった。それに今は奪わないのではく、奪えないのだ。貴様が生きている間は貴様の魂を奪わないという契約を二重で結んでいる。ただし、貴様の魂は仮押さえの状態にあるから所有権は我にある』


「だからって勝手に婚約されても困るんだが……くそ、次から次に問題が起こって頭が痛くなるな。おい、ヴァル……まさかお前、クラリスには手を出してないよな?」


『それはない。確かにクラリスは良い女だが、あれは貴様の女だ。手は出さん。あまつさえ我は貴様とクラリスが結ばれるようにわざわざ手を焼いてやったではないか』


「ふん、それを聞いて安心したよ。まさかそんなまともな倫理観があったとはな」


『我が手を出すのは〝それ以外の女〟だ』


 それ以外の女だと? まさか――、


「グロリア会長だけじゃないのか?」

『その通りだ』

「ちょ、ちょっと待て……何人だ? 何人に手を出した?」


 頭の中のヴァルが指を三本立てた。


「さ、三人も!?」


 一体誰だ!? 会長を除いてあとふたり? 僕に好意を寄せる誰か? クラリス以外に思い当たる節がなさすぎる!? 


 ふるふるとヴァルは僕の顔で首を振る。


『違う。三百人だ』


 思わずよろけた僕は地べたに尻餅を付いた。




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