表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十二章】追憶

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/291

第111話 リターン

「なんだって?」


 そう聞き返した僕に、市川は肩をすくめてみせた。


「やっぱりニュースなんてロクに見てないみたいだな。って言っても俺もネットニュースでチラっと見ただけだから見間違いかもしれないけど、年齢と名前は一致してたぞ、お前の元カノとよ」


「……行方不明? 消えた?」


 あいつが……いなくなった? なんで? どうして?


 なんとも言えない不安に駆られた僕は、その場でスマホを操作して検索を掛けた。すると確かに彼女と同じ名前の記事がヒットする。


 どうやら彼女の乗っていたプレジャーボートが沖合で転覆したようだ。一緒に乗っていた経営者の肩書を持つ男の死亡は確認されたが、彼女は未だ行方不明となっている。


 確かに行方不明だがこれは事故だ。じいちゃんが消えたときと違う。

 それにもう事故が起きてから一か月近く経っているのか。それでも見つからないならおそらく、もうあいつは――。

 いや、止めよう。余計なことは考えずに僕はただ彼女の無事を祈るのみだ。それがどんなに憎い相手だとしても死んでいい人間なんていない。



 寿司屋で市川と別れた僕らはその後、ちょっとオシャレなホテルのスイーツビュッフェでデザートに舌鼓を打った。

 ラウラはまるで宝石箱を見るようにキラキラと瞳を輝かせて終始ご満悦だった。そんな彼女を見ていると、さっきまで感じていた胸のつかえが、次第に溶けて消えていった。



◇◇◇



 夕飯を済ませた僕らはボロアパートに帰宅。僕は畳に寝転んで、ボーとテレビを眺めていた。

 睡眠欲と食欲が満たされると次に現れるのは性欲である。


「……」


 なぜそんな話をするかというと、現在ラウラが浴室でシャワーを浴びている。かれこれ一時間は浴びている。 

 お風呂の使い方を身振り手振りで説明すると、彼女は温かいお湯が無尽蔵に降り注ぐシャワーに衝撃を受けて、いたく感動していた。


「すごい魔法があるのだな! ウンディーネとサラマンダーがこの中にいるのか!?」的なことを言って西洋人並のオーバーリアクションをしていた。


 その他にもテレビや冷蔵庫やリモコンなどの家電にいちいちリアクションする彼女はとても可愛らしかった。

 アルトはあっさり現代科学を受け入れてしまったから、ラウラのリアクションはまるで自分が褒めてもらえたみたいで嬉しくなる。

 

 そうだ。明日は実家に戻ってラウラを温泉に連れて行ってあげよう。


 長風呂から出てきたラウラに、明日は実家に行って両親にラウラを紹介したいとジェスチャーを交えて伝えてみたところ、口を横一文字に結んで緊張している様子だったから、うまく通じたみたいだ。


 ちなみに育ちの良い元侯爵令嬢のラウラは、ちゃんとパジャマに着替えて脱衣所から出てきた。

 いや、アルトはあれでいて僕を必死に誘うとしていたのかもしれない。そう考えると彼女が健気に思えてくる。


 ラウラはベッドで、僕は床に布団を敷いて眠りに付いた。


 さて、明日に備えてゆっくり休むか。


 部屋は静まり返り、僕がうとうとし始めたそんなときだった。ベッドからすすり泣く声が聞こえてきた。


 ラウラが泣いている。小声でなにかを訴えている。


 僕には彼女の言葉が解らずとも意味は理解できる。向こうの世界にいるときから前兆はあったのだ。


 彼女は怒っている。嘆いている。悲しんでいる。


 その感情が遂に頂点に達して爆発した。環境の変化で心の障壁が決壊したのかもしれない。

 これは彼女の気持ちに気付きながらも、それを無視し続けた僕の責任だ。


 ベッドから跳ね起きたラウラは布団に仰向けで寝る僕に馬乗りになった。


『なぜ手を出してこない!』


 僕の胸ぐらを両手で掴んで彼女は叫んだ。涙を溜めた眼で僕を睨み付ける。


『私にはそんなに魅力がないのか!』


 不思議だ。意思の疎通そつうがままならないときの方が、自分の気持ちに素直になれるなんて……。


 次第に胸ぐらを掴む腕の力が緩んでいき、翡翠色の瞳からボロボロと涙が零れていく。 


『私はユウにとってただの仲間なのか……、それ以上の関係を望むことはできないのか……。私には、もう自信が、ない……』


 上体を起こした僕はラウラの背中に手を回して抱き寄せた。


「そんなことはないよ、君は魅力的な女性だ」


 彼女の耳元でささやく。

 たとえ言葉が通じなくても伝えられる、僕の彼女に対する真剣な想いを。


「僕は君を大事にしたかったんだ。あんなことがあったから……そういうことが怖いと感じているのかなって思っていた」


 ラウラは首を振った。

 僕を彼女の手を握る。見つめ合い、互いの唇を重ねた。

 唇を離して、もう一度見つめ合う。


『……もう一度だ』

 

 恥じらいながらもラウラは言った。

 僕は彼女の唇を奪うようにキスをする。


 もう止まらない。何度も唇を重ねて、互いの体を入れ替え、ラウラを布団に押し倒した僕は彼女の首筋に口付けをした。

 

 今日と日がなければ僕らの関係はずっと平行線だったかもしれない。



 その後、一回では満足できず朝までやりまくった――、失礼、朝まで愛し合った。


 寝不足のまま家を出た僕らは肩を寄せ合って電車に揺られ、数年ぶりに戻ってきた実家で両親にラウラを紹介する。

 

 外国人の少女を突然連れてきた息子に父と母は面食らっていたし、たまたま遊びに来ていた姪っ子からは誘拐犯とののしられた。

 

 しばらく彼女と外国で暮らすことを伝えた後、近くの温泉旅館で一泊して、僕らは調味料などの物資を持てるだけ持って再びアイザムへと戻ってきたのだった。




 ――心地の良い夢から目が覚めて、再び剣と魔法のファンタジー世界での血なまぐさい冒険が始まる。




 次回から第三部ロイ・ナイトハルト編が始まります。今週末に更新できるよう頑張っております。


 ブクマ、感想、評価など応援をいただけますと嬉しいです。よろしくおねがいします(・ワ・)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ