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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十二章】追憶

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第109話 トライアングル

「ねぇ、ユウはさ……見たいと思う?」

 

 唐突にアルトはそんなことを言い出した。


「は? な、なにをだよ……」


 バスタオルを巻いた美少女を前にして、ドギマギしながら僕は答えた。この流れで彼女の言わんとすることは察すことができる。だけど難聴系主人公のごとく聞き返した。


「なにって……、あたしのからだ……」


 柄にもなくアルトは恥ずかしそうに視線をそらす。そんな彼女の仕草が愛おしくて、ごくりと喉が鳴る。


 落ち着け……。イタズラ好きなアルトのことだ。どうせ僕をからかっているだけだ。そう、これは罠に違いない。


「ど、どうせその下に服を着てるってオチなんだろ?」


「ねぇ、どっち?」


 僕の問いには答えず、アルトがじりじりとすり寄ってくる。互いの肌と肌が触れる直前で立ち止まり、上目遣いで僕を見上げた。


「そりゃあ、もちろん……見たいさ」


 もうこの雰囲気で嘘は付けない。


「うん……それじゃあ、向こう向いてて」


 言われるがまま僕はアルトに背を向けた。緊張しながら窓の外に浮かぶ月を見上げる。

 微かな風が起こり、バスタオルが畳に落ちたのが分かった。

 そして、彼女は後ろから僕の背中に胸を当てた。


 ――こ、これは……っ!?

  

 シャツ越しでもはっきりと分かる。この柔らかいプニッとしたふたつの感触、そして先端にあるふたつの突起物の感触――、間違いない。いま彼女は何も着ていない、素っ裸だ。


「ぐぅ……あ、アルト」

「なに?」

「か、風邪を引くから、は、早く服を着るんだ……でないと……」


「でないと?」


 アルトはさらに胸を押し付けた。弾力のあるプニプニが背中に押し潰されていく。


「マ、マズイことになる……。止まらない、理性が抑えられない、それは……うん、良くない。だって僕と君は種族も違うしさ、その……」


 しどろもどろの僕にアルトはぷっと吹き出した。


「じゃーん! 実はただの水風船でしたー!」


 ふたつの水風船を握りしめたアルトが、僕の顔を脇から覗き込む。唖然とする僕を見た彼女は、けらけらとお腹を押さえて笑い始めた。


 び、びっくりした……。やっぱりからかわれていただけかよ。あれ? じゃあ、あの突起物の感触はなんだったんだ? 風船の結び目?

 


◇◇◇



 そんなこんながあり、悶々したまま僕は風呂に入って部屋の電気を消した。

 すでにアルトはベッドで寝ている。その隣の畳に布団を敷いて寝転んだ。


「ねぇ、そっちに行ってもいい?」


 からかい上手のインプさんは、まだ起きていたようだ。


「またからかう気か?」


 ベッドに背中を向けたまま僕は言った。


「お願い……」とアルトがささやく。


 もうこの際だ。好きなだけからかわれてやろう、と僕は諦めて抵抗するのを止める。


「わかった、来いよ」


 アルトがベッドから降りて、静かに僕の布団に入ってきた。ふわりと風圧に乗って同じシャンプーの匂いが漂ってくる。

 いま僕の後ろにアルトがいて、僕の背中に体を寄せている。

 


「こっち、見てよ……」


 言われるがまま寝返りを打った。僕とアルトの目が合う。潤んだ彼女の瞳の中に僕がいた。


「そのまま抱きしめて」

「いっ!? な、なんで……」


「だって……元の世界じゃ、あたし潰れちゃうでしょ? こんな機会ってないじゃない……」


 伏し目がちなアルトの表情がひどく儚げに思えた。いつものハツラツとした明るい彼女ではなく、これが素の彼女の姿なのかもしれない。


 そんな顔でそんなことを言われたら断れるはずがなく、僕は息を付いた。


「……わかったよ」

「えへへ」

 

 にへっと微笑んだアルトの腰に腕を回して、そっと抱き寄せた。アルトは僕の胸に顔をうずめる。

 彼女の体はとても柔らかくて温かくて、強く抱きしめたら折れてしまうんじゃないかと思えるほど細かった。

 妖精ではなく、本物の少女の体だ。


「あのね」

「今度はなんだ?」

「な、なんかお腹に硬いのが当たっているんですけど……」

「う、うん、そうだね……」


 沈黙。


「興奮してるの?」

「うん」


 素直に肯定する僕。この状況で興奮しないヤツなんているもんか。


「あたしに?」

「うん」

「そか、そうなんだ……そうなのね、えへへ」


 再び沈黙が続く。目覚まし時計の秒針がカチカチと音を鳴らす。その音がやけに大きく聞こえる。


「いいよ」


 アルトの声が狭い部屋に木霊した。


「な、なにが?」

「ユウがしたいなら、してもいいよ……」


 愛らしくて、いじらしい瞳で、アルトは僕を見つめる。まるで魔性の引力に惹かれていくように、彼女を自分だけの物にしたいという欲求が湧々と込み上げてくる。離れようとしても腰に回した腕が拒否している。不可視の力に抗えず次第に引き寄せてしまう。


 アルトをこのまま強く抱きしめて、その唇を奪ってしまいたい……。


「うぐ……」


 しっかりしろ、これは魅惑だ。妖精インプの力に違いない。 


「ね? しよ?」


「ア、アルト……自分が何言ってるのか、分かってるのか?」


「うん、ちゃんとわかってるよ」


「あのさ……僕はお前のことは好きだけど、この国では犯罪になっちゃうんだ……。警察に捕まるんだ……だからダメだ、それはできない」


「嘘よ。本当の理由はラウラでしょ?」

「……うん」

「ズルいなぁ……あたしも人族に生まれたかった……」

「アルト……」

「仕方ない……今回は諦めるわよ」


 よかった……引いてくれた。いや、果たしてよかったのだろうか。ある意味で彼女は一線を超えてきた。僕とラウラとアルトのトライアングルが完成してしまったのだ。アルトの行為が今後の極刀パーティに影響を与えることになるかもしれない。


「だからせめて、今夜だけはこのままでいさせて……。ラウラには内緒にしておくから」


 インプは冒険者の間で、パーティに亀裂を入れる厄介者として忌避されている。

 だけど大丈夫、僕らなら大丈夫だ。心配はいらない。きっと、いつか仲良くサ〇ピーする日だってくるはずだ。


「わかったよ」


 僕がアルトを強く抱きしめると、彼女は「えへへ」とはにかんだ。




 翌日、アルトは昨晩の出来事がなかったかのようにいつも通りの彼女に戻っていた。


 借金は金貨の密輸入でなんとかなるだろうけど、僕はもう一度アルトに賭けてみたくなった。


 結果的に競馬で大金を失ったが、最初はアルトが予想した着順になっていた訳だ。

 そこでワンモアチャンスと何気なく試した株やFXのデイトレードで爆益を得ることになる。アルトの勘で売買を繰り返すと画面上の数字が狂ったように増えていき、結果的に金を密輸入する必要がなくなり、金銭感覚がマヒするのに二日と掛からなかった。



 それから三日後――。



「ねぇ、これはなんなのよ?」


 ベッドに足を組んで座るアルトはねぶるような目つきで、彼女の前で片膝を付く僕を見下す。


「はっ、プッチンプリンでございます」


「わたし、ビンに入ったプリンじゃなきゃ食べられないわ。いますぐ買いなおしてきなさい」


「イエス、ユアハイネス」


 僕は深々と頭を下げた。颯爽と立ち上がり玄関に向かう。

 ドアノブに手を掛けて立ち止まった。


 いや、待て……なんだこれ?


「なにボサッと突っ立ってるの? さっさと行きなさいよ」


 わずか数日で現代社会に染まってしまったアルトがいる。

 そしてお嬢様にこき使われる使用人プレイを楽しんでいる自分がいる。


 これはいけない、このままではダメだ。僕もアルトもダメ人間になってしまう。


「アルト、いますぐ帰るぞ」


 僕はアルトの腕をつかんだ。


「嫌よ! もっと遊ぶもん!」


 僕の手を払い、抵抗するアルト。


「ダメだ、今すぐ帰る!」

「いやぁッ!」

「こら暴れるな!」

「どさくさ紛れておっぱい触らないでよ、変態!」

「うるせえ、もう辛抱たまらんッ!」

「ぎゃーッ! お巡りさんこいつです!」


 こうして、ミッションを無事に達成させた僕らはラウラが待つアイザムに戻ったのだった。




次回はラウラの出番です。

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