第108話 ダービー
スクラッチを換金した分は、借金返済に充てずに明日にすべてを賭ける。短期決戦で一千万を稼ぐにはそれしかない。
なあに、大丈夫だ。こっちには幸運の女神さまが付いているんだからな、約束された勝利が待っている!
フハハハっ!!
次の日、競馬場にやってきた僕はさっそくアルトに競馬新聞を見せて一着から三着の馬を選んでもらった。
「うーん、じゃあこれとこれとこれ」
ここまでわずか三秒だ。
超適当だけど彼女を信じるしかない。
二百万の一点買いで馬券を購入して運命のレースが始まった。ゲートが開き各馬きれいなスタートを切る。アルトが選んだ馬たちはそれぞれ脚質に合った好位置に付けている。
――中略。
最後のカーブを曲がり、直線に入った。今の順位は1位から3位までアルトが選んだとおりだ! 素晴らしいぞ! このまま行けば見事に三連単が的中する!! しかしここで後方から追込が得意なメカママッケンジーが来た! このままでは現在3位のゴタンダチチパスが抜かれる! マッケンジー頼むから来るな! やめてくれ! ゴタンダチチパスそのまま逃げ切るんだ!!
そして、ゴタンダチチパスは見事に逃げ切って3着でゴール板を駆け抜けた!
「や、やったぞ……」
三連単のオッズは百倍ちょっと、二百万掛けたから……えーと、えーと、混乱と興奮でこんな簡単な計算できなくなっている。けれど、間違いなく億いった――!!
「アルトぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
僕はアルトに抱きついた。力いっぱい抱きしめて頬ずりする。
「ちょ、ちょっと! 苦しいじゃない! ヒゲが痛いわよ!」
「ああ、なんてことだ! キミは僕の女神さまだ! 好きだ! 結婚してくれ!」
「は、はあ!? 何言ってるのよ!?」
よし! すぐさま借金を全額返済だ。当分アルトには頭が上がらないぞ!
そのときだった。スタンドがざわめく。
審議ランプが点灯している。順位が変わる可能性があるということだ。そんなまさか……、今のレースのどこが問題なのかダビスタを極めた僕にも分からない。
場内に審議結果アナウンスが流れるまでの時間がえらく長く感じた。
そして、事務的な声でスピーカーからゴタンダチチパスの進路妨害があったと告げられ、確定ランプが点灯する。
それによって4着だったメカママッケンジーと3着だったゴタンダチチパスの順番が入れ替わった。
QED、僕は見事に全財産を失った。
「お、終わった……」
あと少しだったんだ……、最後のストレートでメカママッケンジーさえ出てこなければぁぁぁぁあばばばばッ!
涙が止まらない。がくりとうなだれた僕の頭をアルトが撫でてくれた。
馬券を破り捨てようとしたが、その手を止めて踏みとどまる。
ポイ捨ては良くない。ゴミはゴミ箱に捨てるべきだと思いなおして、僕は破いた馬券をポケットに入れる。
「ん?」
ズボンのポケットの中でジャラリと金属に触れる感触があった。
僕の指がポケットから取り出したのは金色のビスケット――、ではなく金貨だった。
「……これって、カイン金貨か? いや、デザインがちょっと違う……。けれど、どこかの国で造ってそうな金貨だ……」
なんとポケットに手を突っ込んだだけで金貨一枚と銀貨ニ枚をゲット。これも日ごろからお金の管理がいい加減だったおかげだ。洗濯に出したズボンのポケットに硬貨を入れたままにしていてラウラによく怒られたけど、そのおかげで無一文を回避することができたのである。
競馬場を後にした僕は、さっそく街の質屋で金貨と銀貨を売り払う。金貨は実際に歴史上存在したフィオなんとかっていう金貨と銀貨で、全部合わせて十二万になった。
適正な価格なのかどうか分からないが、これで借金問題の先行き、解決の糸口が見えてきた。
要は金の密輸入をすればいいのだ。異世界からゴールドを持ち込んでこっちの世界で売る。僕が商会に預けている貨幣は百枚くらいあったはずだ。こっちの世界で換金すればぎりぎり借金をすべて返済できる。東方へ向かう資金はゼロになるけど仕方ない。また稼げばいいさ。
問題はラウラだ。彼女はこういった不正を嫌う。たとえ異世界の話でもだ。彼女に見つからないように金貨を持ち出さなければならないが、そんなに難しくはないだろう。
よし、これはもう解決したのと同然だな。安心した途端、どっと疲れが出てきた。
◇◇◇
夕飯を済ませた僕らはボロアパートに帰宅。僕は畳に寝転んで、ボーとテレビを眺めていた。
睡眠欲と食欲が満たされると次に現れるのは性欲である。
「……」
なんでそんな話をしたかと言うと、アルトが今まさにシャワーを浴びている。元カノすら入らなかった浴室で美少女がシャワーを浴びているのだ。
もちろん覗いたら命の危険があるのでそんなことはしない。
ただ悶々とアルトの裸を想像するのみである。幼い顔をしているが彼女は、なかなか良いものをお持ちである。是非一度拝見してみたいものだ。
ガチャっと脱衣所のドアが開き、僕は肩をビクリと震わせる。出てきた彼女の姿を見て思わず立ち上がった。
「え?」
アルトは体にバスタオル一枚を巻いただけの姿で出てきたのだ。
白くて華奢な肩に掛かる彼女の髪が濡れている。胸からくびれ、そしてお尻へと続く悪魔的な曲線が僕の眼を釘付けにした。
「お、おい……パジャマ買っただろ、着替えろよ」
お風呂に入ってのぼせたのか、彼女の顔は仄かに紅潮している。
僕の姿を映す深碧の瞳は揺れていた。
いつも読んでくれてありがとうございます。
今日も暑いです。熱中症に気を付けましょう!
ではまた明日!




