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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十二章】追憶

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第107話 グッドラック

 色んなことが同時に起こって情報処理が追いつかない。

 そして、部屋にある物すべてが珍しいのだろう。なんでも触ろうとするアルトには、アニメのブルーレイを見せて大人しくしてもらっている。もし僕の秘蔵の品々を彼女に見つけられたら一大事だからな。


 その間に僕は実家に電話してお金を貸してくれないかと受話器越しに頭を下げた。母親から「いつになったらちゃんと働くんだ」とか「早く孫の顔を見せろ」とかグチグチ言われはしたものの、十万円を振り込んでくれることになった。

 

 ユーリッドはうちの親にまで金銭をたかっていなかったようだ。まあ、自分の親みたいなものだから悪意のある行動はできなかったのだろう。


 とりあえず、その十万を元手になんとかするしかない。


 次の問題はどうやって増やすかだ。

 株やギャンブルで一発当てたいところだが、僕にはそういった方向の才覚はない。しかし、地道に働いている時間はない。ラウラをあちらに置いたままこっちの世界に滞在する訳にはいかない。


 とりあえずこの部屋にある物で売れそうな物は売ってしまおう。

 ユーリッドがネットで買ったと思われる健康食品や健康グッズのダンボールが、封を開けられないまま放置されている。

 まずはこいつらを必殺のクーリングオフだ。

 それから払い過ぎた過払い金がないか調べる必要がある。


 ちゃぶ台の上でノートパソコンを開き、ちゃちゃっと返品処理をする。クーリングオフ期間が過ぎている商品はハ〇ドオフかメ○カリするしかない。


「アルト、出掛けるぞ。寒いからこれ着ろよ」


 僕はテレビにかぶりついているアルトにモッズコートとジャージを放り投げた。


 本当はアルトを外に連れ回したくないが、こいつを一人留守番させるのも心配だ。帰ってきたらアパートが炎上しているなんてことも考えられる。


「えぇー、いま黄色い魔法少女が活躍しているところなのにぃー」と不満そうにアルトが頬を膨らませた。


「お子様はそれ以上観てはいけません」


 首がなくなる前に僕はテレビのスイッチを切る。



◇◇◇



 結局、ハ〇ドオフしても千円にもならなかった。後は親から借りた十万円だ。こいつを元手に一発逆転を狙う他ない。


 しかし借金はざっと計算して一千万近くはあった。絶望すると同時に怒りが湧き上がる。もっとユーリッドをぶん殴っておくべきだった。


 そんな僕とは対照的にアルトは目を輝かせている。視界に映るすべてがキラキラと輝いて見えるに違いない。彼女にとっては異世界なんだから当たり前だ。僕もエリテマの町を見たときはそうだった。


 アルトは高層ビルを見上げてはバカみたいに口を開けている。その姿が可愛すぎて思わず抱きしめてしまいそうになったが、こんな街中でそんなことをすれば事案として警察とPTAの連絡網を介して世間に伝達されてしまう。最悪、逮捕される。



 その後、ユーリッドが借金している複数の金融業者に一万円ずつ振り込んだ。満額ではないにしても返す意思を示す必要がある。これで当面のカチコミは回避されたはずだ。


 気付くと正午を周っていた。朝から動き通しだったからお腹が減ったな。


「アルト、昼ご飯にしよう」



◇◇◇



 アルトを連れてやってきたのは、行きつけのラーメン屋だ。

 日本に戻ってまず食べるとすれば、やはりこれしかない。さすがに異世界ではこの味を再現できないからな。ずっと恋しかったんだ。また食べられると思わなかった。


 食券を二枚買ってカウンターに並んで座る。わくわくするアルトの隣で僕もわくわくしている。早くラーメンをすすりたい。


 店内に立ち込める香しく懐かしい匂いが鼻腔を刺激する。これだけでライス大盛り食べれそうだ。そうだ、コメも喰いたい! 後で追加しよう!


「へい、ラーメンふたつですね! それから、いまキャンペーンやってましてね、チンチロでゾロ目を出せばチャーシュー大盛り無料です!」


 サイコロが三つ入ったお椀がカウンターに置かれたので、僕は言われるがまま振ってみると一二三だった。僕はこういうので当たったためしがない。チキショーッ!


「はい残念、次はお嬢ちゃんね」


 アルトはお椀の中のサイコロを無造作に掴んで中に落とした。カラカラと回転していた三つのサイコロが同じ数字を上にして止まる。

 アルトはピンゾロを出しやがった。


「おおっ! おめでとうお嬢ちゃん!」

「これって当たり?」

「大当たりです!」

「やったぁーッ!」


 万歳するアルトの姿はとても癒やされる。店員も店内にいた他の客たちもアルトの素直なリアクションに、ぽわぁぁと癒やされている様子。


 一枚くらいくれないかな……、チャーシュー。


 で、胃袋が満たされた僕らは再び街を歩く。

 歩きながら金策を考えるにも良いアイデアが浮かばない。このままでは僕の体を売るしかなくなる。それは回避したい。

 


 それからはアルトに引っ張り回されるがまま街を巡った。

 しかし、結果的にこの行動が功を奏したのだった。


 あっちこっちで不思議なことが起こる。

 たとえば、とあるデパートでは「おめでとうございます! お客さまは当店百万人目のお客さまです!」と記念品と商品券をゲット。

 

 アルトがラーメン屋で客から貰った福引券で福引を回してみると「大当たり! 出ました特賞! カンクン三泊四日旅行です!」とカランカランとベルが鳴る。


 他にも大金が入った財布を拾って交番に届けたら落とした本人がちょうど来ていて、一割の御礼をもらったり、街を歩いているだけで幸運が舞い降りてくる。


「まさか……」

 僕はごくりと喉を鳴らした。


「なあ、アルト……あそこの小屋でスクラッチを一枚買ってきてくれるか?」と宝くじ売り場を指さす。


「スクラップ?」


「いや、ゴミ買ってどうするんだよ。スクラッチだよ。おばちゃんに言えば分かるからさ」


「いいわよ」


 もしやと思い僕はアルトに小銭を握らせて、スクラッチを買わせてみることにした。


「買ってきたわよ」

「そ、そうか、じゃあ十円玉でここを削ってみてくれ……」


「わかったわ」


 アルトがスクラッチカードをゴシゴシと削っていくと――、


「うおっ!?」


 なんと同じ絵柄が横一列揃っているではないか。さらに当選金を確認してみて心臓が一瞬止まったかと思った。


「い、一等……、に、二百万えんッ!?」


 確定だ。アルトは持っている……。いや、そんな生温いものじゃない。これは妖精の神秘の力、彼女は幸運の女神なのだ!


「アルトッ!」


 僕はアルトの肩をガッと掴んだ!


「ひゃっ!」アルトは体を強張らせる。


「アルト……」彼女の名を再び呼び、瞳を見つめる。

「な、なに?」

「明日は土曜日だ」

「だ、だから?」

「僕と式場を見に行こう!」

「え? は? なに?」

「間違えた、レースを見に行こう!」

「レース?」


「ああ、お馬さんだ!」



 これで人生一発逆転やで!!



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