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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十一章】異端者

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第103話 問答

 前方にはゾディアック、後方からは魔獣の群れが迫ってきている。隠れ潜んで迎撃するという優位な状況から瞬きする間もなく形勢逆転されてしまった。


「なるほど、貴様が噂の《白き死神》じゃな? 面白い術を使うそうじゃが……わしの頭を貫いたさっきのがそれか?」


「ラァ!」

 間髪入れずにラウラがデリアルに斬りかかる。


「おっと?」


 金属同士が衝突する甲高い音が響く。事もなげにデリアルはラウラの太刀を三叉の杖で受け止めていた。


「せっかちなヤツじゃな、もっと会話をたのしまんか。ん? おや? その仮面……もしや――」


「ラウラ、後ろに跳べ!」


 僕は叫んだ。ヘカートの銃口をデリアル・ジェミニに向ける。

 全力の魔力を凝縮した最大出力の魔弾でヤツの上半身ごと吹き飛ばす。いくらデリアルが化け物だろうと半身を失えば生きてはいられまい。


 この至近距離で音速を超える弾丸を避けられるはずがない!


 トリガーを引こうとしたそのとき――、


「うむ? おぬし……、ひょっとしてユーリッドではないか?」

 

 デリアルは言った。

 彼女は眉間にシワを寄せて僕を注視している。


「は?」


 ユーリッド――、この場面で出てくるはずのないその名で呼ばれた僕は、思わず引きかけたトリガーを止めてしまう。

 しまった、そう思ったときにはデリアルに接近を許していた。


 デリアルは無防備に僕の前に立ち、自分の顎先をつまんで僕の顔をのぞき込んでいる。

 ラウラさえもデリアルの動きに反応できなかったのは、あまりにも無警戒に近づいてきたからだ。

 

 まるで街で見かけた友人に声を掛けるように、微塵みじんの殺気も感じさせず、間合に入ってきた。

 

 僕の顔をしかめっ面で観察していたデリアルの顔がパッと明るくなる。


「やはりユーリッドではないか! まさかこんなところで会い見舞えるとはのぉ、元気にしておったか? それにしても見違えたわい、ずいぶん立派になったものじゃな。まさかぬしがあの《白き死神》だったとはのぉ」


 うんうん、と考え深げにうなずきながらデリアルは、ひとりで納得している。


 どういうことだ……、ユーリッドにゾディアックの知り合いがいたなんて……。


「え、えっと……その……」


 すっかり毒気を抜かれてしまった僕が首を傾げると、意を得たかのように彼女はポンと手を打った。


「むむっ、そうじゃったな。さすがにこの姿では分からぬのも無理はない。わしじゃよ、わしじゃ」


「ワ、ワシ?」


「お前の師匠のアルデラじゃ」


 その言葉の意味を咀嚼そしゃくするのにしばらく掛かった。十秒近く頭の中で反芻はんすうしてやっと理解する。


「なっ……なんだって……」


 つまり、ゾディアック《双児宮》デリアル・ジェミニが異端者アルデラだったということか?? ユーリッドの師匠は魔人族だったというのか……。


 いや違う。それはない。アルデラは火炙りにされて処刑されたはずだ。

 

 目の前にいる少女の正体について、僕には思い当たる節がある。

 ジェラル迷宮で見つけた魔導書、唯一解読できた一冊の魔導書、そこに書かれていたのは転生魔法。そしてミレアが語っていたアルデラの最後……、そこから導き出される答えは――。


「じゃ、じゃあデリアル・ジェミニは……転生したアルデラの転生体!?」


「ほう? 転生魔法を知っておるということは、おぬし……ジュラル迷宮に行ってワシの魔導書を手に入れたか、やりおるわい」


 デリアルは誇らしげに腕を組んだ。


「転生魔法の書しか読めんじゃったろ?」


 僕はうなずく。


「ふむ、封印は機能しておるな。しかしそうか、あの本を読んだか……ふふっ」


 いったい何がおかしいんだ。アルデラの考えがまったく読めない。不気味でしかたない。


「さっきから気になっていたのじゃがな。その杖、ずいぶん変わった形をしておるのぅ? うむ、まるでこの世界の物とは思えない……ということは、まさかおぬし……」


 僕はゴクリと唾を呑んだ。背筋に冷たい汗が流れていく。

 ユーリッドではないことがバレたら、どんな影響を及ぼすか分からない。


「さては時空転移魔法を完成させたのじゃな! その杖は異世界の武器を模しておるのじゃろ? さすがわしの見込んだ男じゃ!」


「え、あ、ああ……はい、師匠のおかげです」


「……ふむ、そうかそうか。そーいうことじゃったか」


 ひとりで納得したアルデラがほくそ笑んだ。


「?」


「おぬし、並行世界のユーリッドじゃな?」


「……っ!?」


「くくっ、嘘が付けん男じゃな。『なぜバレた!?』と顔に書いてしまっておるぞ。バレた理由を知りたいか? 簡単じゃ、ユーリッドはワシのことを『師匠』ではなく『アルデラ様』と呼ぶ」


「ぐっ……」


「ふむ、実はこれもカマを掛けたに過ぎん。ユーリッドがわしのことをどう呼んでいたかどうかなど、とうに忘れてしもうたからな。それにしても、おぬしは分かり易い男じゃ かっかっかっ!」 


 アルデラは笑った。僕は完全に掌の上で遊ばれている。


「して、並行世界のユーリッドよ。わしはぬしに興味がある。これまで何があったか話してみよ。こちらの世界のユーリッドはどこにおるのだ?」


「それは……」


 アルデラから投げかけられた問いにどう答えれば正解か。

 二者択一、ハイ・アンド・ローでデッド・オア・アライブが決まる。


 僕の返答が命運を別ける。



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