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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十一章】異端者

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第100話 先手

 現在、アイザム冒険者ギルドに出入りしている冒険者は千人ほどいる。その中でもアイザムを中心に活動しているのがおおむね七割程度で、その他の冒険者は一時的に滞在して稼ぎを得る流れの冒険者だ。クエストの旨みがなくなれば新しい狩場へと移っていく。


 この土地に愛着がある訳でもない彼らは早々にアイザムに見切りをつけて去っていった。


 流れの冒険者は実力者が多くて彼らのほとんどがゴールド級の冒険者チームだったこともあり、アイザムに残ったのはミスリルの《極刀》が一組、ゴールドが《蛇咬》を含めた三組、残りはシルバーとブロンズである。

 

 しかしながら、残ったのはこの土地で生まれ育ってきた者たち、愛着を持つ者たちだ。リタニアス王国が攻められたときと違って今回は自分たちが住む街である。

 多くの冒険者が迎撃部隊への参加を表明し、ノックスやネフも参加すると言っていた。


 そして、この街を守ろうとしているのは冒険者だけではない。アイザムの警護を担当する漁業組合の若い衆も迎撃部隊に加わることが決まっている。彼らは「俺の生まれた街を魔族なんかに渡してたまるか」と口々に声をあげて勇んでいた。


 集結した戦力は千二百と数十人。

 受付嬢の話では敵側の戦力は約五百。これまでと違って魔獣を中心とした編成であり、それだけに機動力がある。

 魔人族とやり合うには敵の五倍の兵力が必要というのが通説だが、こちらには一騎当千の準勇者がいて、五倍とはいかないが二倍以上の兵力がある――、なんて楽観視する声もちらほら聞こえてくる。


 しかし、部隊を率いているはゾディアックである可能性が高い。

 金牛宮は僕の魔法でなんとか勝てたが、白羊宮はラウラたちがいなかったら危なかった。五百程度の魔獣の軍勢なら僕とラウラだけでも問題なく排除できるけど、今回のゾディアックが特殊スキルを持っていればどうなるか分からない。


「戦いに絶対はないべ!」


 コウレス平原からアイザムに戻るまでの道中でイザヤが何度も口にしていた言葉だ。あの強さを誇る彼が言うのだ。僕らが油断する訳にはいかない。


 だから僕は考えた。


 アイザム迎撃部隊と魔王軍がぶつかる前に、被害を最小限に抑えるためにも僕とラウラで待ち構えて先手を打つ。

 リタニアス王国でそうしたようにアウトレンジから狙撃して少しでも向こうの戦力を削れるだけ削る。


 いや、それともいっそ逃げてしまうか……、日本に。こんな絶望的な状況で僕が戦う必要はないんだ。ラウラさえ連れてきてしまえば、この世界がどうなっても――……、なんて思ってもいないことをわざと考えてみたりする。


 かつての僕ならば、そうしていたかもしれない。


 この世界にはアルトがいる。カノンちゃんがいる。ミレアがいる。ギルドの仲間がいる。クリーゼさんの息子だってまだ見つけ出せていない。


 それだけでも僕にはこの世界を守る理由がある。せめて僕は僕の手の届く範囲を守るんだ。




 その夜、僕はベッドでラウラを抱きしめながら作戦を打ち明けた。

 

 僕らは迎撃部隊には加わらず、先行してカディアの丘で敵を待ち構える。そこからならアステラ平原を進軍してくる魔王軍を見下ろすことができて狙撃し放題だ。


「ギルドマスターには?」


 僕の胸の中でラウラは言った。


「伝えた。ギルマスも同意してくれたよ。だけどギルマスからは『《極刀》は部隊の精神的支柱だから先行していることは伝えない』と言われた。姿が見えないって騒ぎになったら逃げたと思われて士気が下がるから『別命を与えてある』ということにするそうだ」 


「そうか」


「ラウラ……、僕たちは死に行く訳じゃない」


「ああ……」


「大将を討って撤退させられるのならそれで良し。大将を討てなくても可能な限り戦力を削った後、街に戻ってそこで態勢を整えてみんなと一緒に戦う」


 僕は自分に言い聞かせるように言った。


「ユウ……、震えているのか?」


「ああ、武者震いって言いたいけど、怖い……怖いんだ……。本当はキミを安全な場所に置いていきたい……、だけど一人じゃ怖くて足がすくんでしまうかもしれない。なんて僕はダメなヤツなんだ……、こういうときってカッコよく一人で戦地に向かうもんだろ?」


 僕は自嘲じちょう気味に笑った。


 不思議だ。数年前の僕は自殺しようとしていたのに……。自ら命を終わらせようとしていたのに……、その僕が死ぬことを怖がっている。

 守るものがあるから、守りたい人がいるから死を恐れる。それが同時に自分が生きている証であることを教えてくれるんだ。


「……じいちゃんは、すごいな……。こんな恐怖と毎回戦っていたんだ……。僕にはとても勇者なんて務まらないよ……」


「大丈夫、何も心配はいらない。ユウのことは私が守るから」


 ラウラは僕の腰に手を回して、頬にキスをしてくれた。




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