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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第十一章】異端者

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第99話 二度目の冬

 季節は巡り、冬になった。


 こっちの世界で経験する二度目の冬だ。

 去年の今頃なにをしていたかといえば、ヴォーディアット侯爵家に閉じ込められていたラウラを連れ去って逃げていた頃である。

 一年しか経っていないけど、ずいぶん昔のことのような気がする。


 人肌が恋しくなる季節のそんな今日この頃、ふと、鍋が食べたくなったので、僕とラウラはさくっと日本に戻ってコタツに入りながら寄せ鍋を食べている。


 やっぱり冬といえば、コタツと鍋が鉄板だ。


 こっちの世界と向こうの世界の四季が巡る周期は連動しているようだ。

 そういえば前回戻ってきたときも冬だった。アイザムの気候と比べると日本の方が寒く感じる。

 実際にアイザムでは滅多に雪は降らないらしい。


 僕が「寒い寒い」と呟いていると、ラウラに「リタニアスの方が日本よりずっと寒い」と返された。


 確かにリタニアス王国は西方大陸の北に位置しているし、実際に寒かった。これから雪がたくさん降ってどかっと積もるのだろう。


 そして、チーム《極刀》のマスコットキャラがいないことにお気付きだろうか。

 本当は三人で鍋をつつきたかったのだが、アルトはインプの里の跡目争いでそれどころではなくなり、一緒に来ることは叶わなかった。


 美少女たちに挟まれながら年越しのカウントダウンをするという夢が叶わなかったのが残念で仕方ない。


 僕はデスピアに襲われたあの夜から、3人でくんずほぐれつ、ラウラとくんずほぐれつ、アルトとくんずほぐれつの最高に幸せな日々を過ごしてきた。

 幸せすぎて、もうすぐ死ぬんじゃないかと思えるほど幸せな毎日を謳歌おうかしている。


 アルトの帰還を待ち焦がれながら僕は、ラウラとコタツでまったりして自堕落な生活を数日間、満喫してから再び現実に戻ってきたのだった。


 異世界を現実と呼ぶくらい僕はすでにこの世界の人間になっている。


 あらためて言葉にすると、なかなか感慨深いものがある。

 元の世界は僕の中では拠点基地のような扱いになっている。たまに戻って英気を養い、当面の家賃や光熱費を払って、実家に戻って親に顔を見せるというのが一通りのルーティンだ。


 反対に異世界での暮らしにそういったルーティンは存在しない。日々目まぐるしく変化する環境の対応に追われる毎日を送っている。


 ああ、そうだ。どうでもいいことだからうっかり流してしまいそうになったが、《極刀》ローラが準勇者に指名されてしまった。与えられた二つ名はそのまま《極刀》だ。

 以前から打診はあって何度も断っていたけど、聖都の最高神官の野郎が勝手に民衆に向けて発表しやがった。

 以来、教会から指令書が送られてくるようになったけど、すべて暖炉に薪と一緒にべている。

 あんな奴らの言いなりになるなんて僕は御免だ。もちろんイザヤやデスピアを否定する訳ではない。



 さて、ここからが本題だ。

 僕らが日本から戻ってきて早々に新たなイベントが発生していた。

 前回の魔王軍大規模転移から三カ月、《天蝎宮》レアレス・スコルピオ率いる魔王軍が北方大陸を渡って攻めてきたと知らせを受けたのは、新年を迎えて三日と経たないときだった。


 人族同士なら冬の戦争は避けるが、魔族はそんなことお構いなしだ。ついでにヤツらには新年や正月という概念もないらしい。社畜精神万歳の働き者で困ってしまう。


 すぐにリタニアス王国へ向かおうと準備していた最中さなかだった。僕の家に駆け込んできた受付嬢から驚愕の事実が告げられる。


 なんとアイザムとリタニアス王国の中間地点にあるラスゴ渓谷付近に、魔王軍の別動隊が突如として転移してきやがったのだ。

 

 別動隊が転移してきた場所は、位置的にクリーゼさんの家があった辺りである。


 なぜその場所なのか、もっとカインに近い場所、言ってしまえば聖都の城壁の内側に転移してしまえばいいはずだ。

 これは推測にすぎないが、大規模転移魔法は座標指定に難があるとみて間違いない。魔法は未完成で軍隊規模となると任意の場所に転移させることができないのではないか。

 また、魔法の連続使用もできないのではないか。


 どちらにしても魔王軍から同時に攻められているのは変わらない。リタニアス王国とアイザムは分断されてしまった。

 

 さらに前回よりも展開が速かった。別動隊はあっという間に編成を完了させて南下を始める。

 カプニアの町を蹂躙した後、数日でアイザムに侵攻してくるのは間違いない。



 ヤツらの狙いは聖都カインにある古代遺跡、超級召喚陣の破壊である。

 聖都が魔族に占領されて召喚陣が破壊されれば、次の勇者が呼び出せなくなる。すなわち聖都の陥落は人類の敗北を意味する。


 アイザム冒険者ギルドは魔王軍出現の知らせを受けて即座に周辺国および周辺ギルドに応援を要請した。しかし、応援要請を受けてから援軍が到着するまで、どんなに早くても五日はかかる。


 魔王軍は昼夜を問わず進軍を続けている。行軍速度から考えて明日にはカプニアに入り、三日後にはアイザムに到達する見込みだ。


 リタニアス王国で《天蝎宮》の軍勢を迎え撃つ準勇者イザヤ・ブレイガルは当然動けない。

 もうひとりの準勇者、デスピアが駆けつけてくれれば――、いや、召喚陣を守護する彼女は聖都カインを離れられない。


 開戦までに援軍は期待できない。アイザムにある戦力で別動隊を迎え撃つしかない。可能な限り時間を稼ぎ、帝国領の騎士団が到着するまで魔王軍を足止めできれば勝算はある。


 アイザム冒険者ギルドではギルマスが慌ただしく迎撃部隊の編制準備に当たっていた。

 シルバーランクの中堅冒険者が大多数を占めるアイザムのギルドでさえ、魔王軍の魔人兵士と対等に戦える人間は少数だ。


 必然的に迷宮を探索したメンバーが中心になってくるのだが、ゴールド級冒険者 《蛇咬スネークバイト》の連中は、命あっての物種という考え方を基礎としている。

 たとえ参戦してくれたとしてもリーダーのヤコブは諜報活動で直接的な戦闘には参加しないだろうし、他のメンバーはヤコブに依存している傾向があるため、積極的には戦線に加わってくれないだろう。


 アイザムで唯一のプラチナ級冒険者だった《白夜》は現在、リタニアス王国にいる。


 つまるところ、主力は僕ら《極刀》だけだ。




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