命短しって寿命的な意味じゃないことを祈る件25
「さ、サラフさんは、いい人で……何度も助けてくれたし、泣いてたら慰めてくれたし、色々教えてくれたし……だから、サラフさんは恩人で」
「たかが恩返しで自分が死んだら意味ねえだろうが」
「たかがじゃないもん! サラフさん、この世界で1番大事なのに、いなくなったらどうやって生きていけばいいんですか!」
勢いで言い返してから、ハッと気が付いた。
なんかあの、今、ちょっと恥ずかしいことを言ってしまったような気がする。
「………っていう……………」
沈黙が重い。
恥ずかしいので、失礼します、と呟いてから、私は仰向けのまま掛け布団の内側に滑り込んだ。掛け布団に擦れて前髪が上がる。暗い掛け布団の中はポカポカだ。しばらくじっとしていたら掛け布団が動く気配がして、私は慌てて掛け布団を掴む。
「おい」
「……」
持ち上げられる掛け布団を引っ張って抵抗してみたけれど、いかんせん、力の差が大きすぎる。じわじわと腕ごと持ち上げられて、サラフさんの顔が見えてきた。作戦変更して布団を手放し、素早くうつ伏せになることにする。
しかし阻止された。
「何もがいてんだ」
「……」
「こっち見ろ」
サラフさんの手によって肩を掴まれ、仰向けに逆戻りする。せっかくエネルギーを使って動いたのに、徒労に終わってしまった。寝返りをうっただけなのにちょっと息切れしそうでつらい。せめてもの反抗として口を閉じ目もぎゅっと瞑っているけれど、状況が分かりにくくなってむしろ悪手な気がする。だってなんかサラフさんの気配が近い気がするんですけど。ベッドが軋んだ気がするんですけど。
しばらくそのままで固まっていると、上から溜息が聞こえてきた。
そっと目を開けてみると、サラフさんが至近距離にいた。ていうか、真上にいる。手を枕の両側に付いて、覆い被さるような状態になっていた。
なんか近いんですけど。私が貝になっていた間になぜ。
恥ずかしいので目線がオロオロ動くものの、サラフさんの表情が殺し屋の顔から普通の怖い顔に戻っていることに気が付いた。
どうやら、怒りのバロメーター数値が下がったようだ。なんでかわからないけどよかった。恥ずかしい距離だけどよかった。
「んな簡単に死なねえよ」
「……」
「いいか、次はねえ。勝手に突っ走る前に言え」
「ハイ」
「もしうっかりで死んだりしたらどうなるかわかってるだろうな」
え……死……? 二重の死……?
うっかり死んだ後にやってくる激おこのサラフさん(棍棒付き)、なんか想像できてしまったので、私は激しく頷きながら「モウシマセン」と答えた。
待ち受ける死後の死は怖いけども、サラフさんが簡単に死なないと言ってくれたので、私はビビりながらも安心するという稀な心境に陥った。
サラフさんなら、本当に何十人から襲われようが勝っちゃうかもしれない。そうじゃなかったとしても、死なないと言ってくれたことが私を安心させるためみたいでなんかちょっと嬉しかった。
「あの、サラフさんは大丈夫でしたか? 怪我とか」
「見ての通りだ」
「あのとき、火事みたいなのが見えて……お屋敷が燃えてたんだったらどうしようってすごく怖かったです」
「屋敷は燃えた」
「エッ?!」
ホッとした気持ちで聞いたらいきなりの大事件だった。
「えっも、燃えたって、こ、こここが?」
「落ち着け。燃えたのはホール周辺だけだ。もう塞いである」
「えぇ……でも、え、燃えたとか」
「想定内だ。屋敷に人数を割かせるために劣勢と見せかけて総攻撃させた」
「エエェ……」
「そもそも俺目当てのやつは王城に待機してたから、ここに来たのは雑魚だけだ」
私からするとお屋敷燃やしてくる時点で全然雑魚じゃないんですけど、サラフさんにとっては雑魚のようだ。ここを守っていた人たちも、大きな怪我もなく適当に敵を引きつけて適当に退治したらしい。よかった。
「あの、サラフさん、私がラフィツニフに襲われてたときに助けてくれましたよね? あのあとは大丈夫でしたか? お堀の向こうにいっぱいフードの人たちがいて、あのとき橋が下ろされかけてたから……」
「ああ」
サラフさんはこともなげに頷き、そしてさらっと言った。
「壊しといた」
「……」
……壊しといたって、橋を? お堀を? はたまたローブの集団を?
「そ、そうですか」
「ああ」
「ご無事でよかったです……」
まあ、ローブの集団だったとしてもあれだよね。そもそも仕掛けてきたのがあちらだしね。私も矢を放たれたりしましたしね。
あまりにも当然のように言われたので、私も気にしないことにした。ローブさんたちドンマイ。




