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世の中物騒だと覚えることがたくさんある件1

「——?!」

「やっと起きたか」


 なになに何ですか。何が起こったんですか。

 寝起き1秒で私の心臓はフル稼働を始めた。


 なんかあの、サラフさんがめっちゃ近いんですけど。

 視界の半分以上を占領している。ちょっと長めの金髪な前髪も、男らしく整った眉も、凹凸がしっかりした鼻筋も、意外と長いまつ毛も、そしていつでも目を引く青くて綺麗な目も、薄めの唇も、羨ましいほど荒れてない褐色の肌も、眺め放題だった。

 眉が寄って、青い目が細くなる。


「おい、聞いてんのか」


 訝しげな声に、私は何度も頷いた。言葉が出なかったのは、なんか喋ったら息がかかりそうな距離だったからである。

 ちゃんと反応があったからか、サラフさんが立ち上がった。ソファに寝転んでいる私をしゃがんで観察していたようだ。慌てて体を起こす。人様の部屋のソファで寝転がった上に、しかも居眠りまでしてしまうとは。


「すすすすみません寝てました」

「だろうな」


 とりあえず頭を下げると、膝に布が載っている。薄くて軽い毛布だ。

 エッ毛布とか私が寝たときにはなかったんですけど。

 もしかしてサラフさんが掛けてくれたんですかっていうかいつ掛けたんですかどこにあったやつですか打首ですか。


「起きねえから死んだかと思ったじゃねえか」 

「い、生きてました」

「そろそろ夕飯だ」


 私と喋りながら、サラフさんはテーブルの方へと向かう。2本だけロウソクの火が点いていた豪華な燭台が、全て灯されて明るく光る。そしてついでに天井から吊るされているシャンデリアも灯りがついて部屋はパッと明るくなった。明るくなったので気が付いたけど、随分と部屋が暗かったようだ。寝る前は夕日で明るかったのに。

 振り返って窓を見ると、もう夜だった。ガラスに部屋の光が反射して外はよく見えない。


「……えっ?!」

「なんだ」


 寝起きでぼーっとしてたせいか、うっかりスルーしてしまうところだった。


「あの、い、いま、アレどうやって点けたんですか?」


 アレとは、シャンデリアである。

 私はもちろん、背の高いサラフさんでも、ジャンプしてようやく一番下の方に触れられるくらいの高さにあるシャンデリアである。


 さっき普通にスイッチ入れた感じで明るくなったけど、あのシャンデリアはおしゃれカフェとかで見る電球タイプのやつじゃない。クリスタル的な飾りの間にある受け皿に、本物の蝋燭がたくさん載っているのだ。

 普通なら、脚立とか持ってきて、ひとつずつ点けるはずだ。でもサラフさんは脚立どころか、手を伸ばす動作さえしていなかった。

 マジックにしても鮮やかすぎる。


「普通に点けた」

「いや全然普通じゃないです」


 思わず即答してしまった。サラフさんは私のツッコミを咎めることなく、シャンデリアを見上げる。するとフッと部屋が暗くなった。テーブルの上のロウソク群だけが光を放っている。それからまた灯りが戻る。


「……あの、今、ものすごい勢いでロウソクを吹き消した……とか?」

「流石に無理だろ」

「ですよね」


 サラフさんの大声は迫力があったので肺活量は多そうだけれど、下からシャンデリアの明かりを一瞬で吹き消せるほどではないはずだ。そして仮に消せたとしても、再び点く理由がわからない。昔ジョークグッズで火の消えないロウソクを立てて誕生日サプライズをしたことがあるけれど、まさかここではそれが標準装備なのだろうか。いやそれだと最初に点灯した理由が説明できない。

 眼力かな……と考えていて思い付いた。


「あ、もしかして、呪力を使ってやってるんですか?」

「ああ」

「へえ、トイレ以外にも使えるって便利ですね。離れてても使えるんですか?」

「力量による」


 呪力が強いと、それに比例して遠隔操作ができるようになるらしい。どういう仕組みなのかわからないけれど、なんかすごい。

 呪力はトイレの開閉方法から考えて魔法っぽいものかなと思っていたけれど、超能力に近いのかもしれなかった。


「あの、私にもできますか?」

「お前は使えねえんじゃねえのか……ああ、ガヨが付けたのか」


 私の左手のひらには、黒いマークがついている。ガヨさんが分けてくれた呪力が残っているという証拠らしい。私自身の呪力とかそういうのは全くわからないけれど、これがあるということは呪力自体はあるという証拠だ。

 火を灯せるとかなんかかっこいいからやってみたい。期待を込めて見上げていると、サラフさんが頷いた。青い目がテーブルの上を見ると、ロウソクが1本風もないのに消えた。


「やってみろ」

「ハイ……あの……どういう感じにやったらいいんでしょうか」

「手をかざして呪力を使え」


 説明がざっくりすぎるんですが。

 ひとまず言われた通り、消えたロウソクの芯に手を近付けてみる。他のロウソクからの熱が伝わってきた。


「そのまま集中して火をつけろ」


 もしかしなくてもサラフさん、呪力を使うことが当たり前すぎて、呪力を使う説明ができない人なのでは。一番説明してほしいところが全然説明されていない。集中するって、ロウソクを眺めてればいいですか。つけろってどうやるんですか。呪力ってどうやって発揮するんですか。


 じっと見下ろされながら、私は頑張ってロウソクに集中してみる。

 トイレに繋がる隠し扉は、左手を壁の左上部分にあてると開く。そのときにちょっと手のひらがムズムズするけれど、私はただ手のひらをあてているだけなのでどうやったら呪力を使えるのかわからないのだ。


 せめてあのムズムズが感じられたら何かわかるかもしれないけど……ムズムズ……ムズムズ……

 燃えて黒くなったロウソクの芯を眺めながらムムムと念じるけれど、特に何の変化も感じない。救いを求めてサラフさんを見上げると、じろっと私を見たサラフさんが、蝋燭にかざしている手に軽く触れた。

 指が手の甲に触れるかどうかくらいのものだったけれど、その瞬間、手のひらに輪ゴムを転がしたような感覚が走った。同時に芯の先がほんの少し明るくなる。


「あっ」






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― 新着の感想 ―
[良い点] なにこれ甘酸っぱい……!ふふふ(マフィアだけど) [一言] マフィア顔にときめくという新感覚を味わっています。ありがとうございます!
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