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第66話 生徒会の中心で愛をさけばれる?

 

「もうね、私とワンちゃんの関係を発表しちゃおうよ」


 外もそろそろ暗くなり始めた放課後。

 特にすることの無い生徒会室で僕と会長はテーブルを挟んで向かい合わせに座りながら「今日は何があった」みたいな会話をしていた。

 そして、僕が空になったコーヒーを入れ直して、口に含もうとしている時、会長が言ったのだ。


「えっと…、どういうことですか?」

「私とワンちゃんが付き合ったって皆に言っちゃうの」

「…僕に死ねと?」


 そんな事をすれば…僕は苛められはしないだろうが今までとは比にならない殺気を込めた視線を浴びせられるだろう。


「大丈夫、ワンちゃんならイケるよ!」

「いやいやいやいや、いけませんよ。僕そんなに強くないですよ」

「大丈夫!イケる!」

「イケません!」

「イケる!」

「イケません!」

「イケる!」

「イケません」

「いけ」

「それ以上言うと怒りますよ。というか、どうしてそんなことを急に言いだしたんですか?」


 どうせ、岩瀬先輩との会話の中で誘導されたんだろうけど…。

 もしかしたら、万が一、会長の考えかもしれないので、話を聞く。


「えっと、奈央が…」

「やっぱり…」

「その、皆に言ったほうがワンちゃんが他の子に取られないって…」

「僕が誰に取られるんですか?」

「他の女の子に…」

「………」


 なんだろう…、心がぽかぽかしてくる。

 会長は本当に不安なんだろうけど、その顔がすでに可愛い。

 この人は自分の容姿を分かってるんだろうか?こんな可愛い彼女を捨てるなんて無いだろうに。


「大丈夫ですよ。そんなことしなくても」

「どうして?ワンちゃん、皆に優しいから」

「そうですか?別にそんなつもりは無いですけど」

「ワンちゃん、気が付いてないと思うけど。2年生の女の子に人気あるんだよ」

「あ~なんか聞きました。嬉しいですね」

「ほ、ほら!嬉しいんだ!そうやって私は」


 会長はもう泣きそうな顔をして僕の方を見てくる。

 あれ~…、会長ってこんな人だったっけ…。

 でも、こういう姿を見せてくれているということは僕の事を完全に信頼してくれているのだろう。

 というか、こんなに僕の事を彼氏と見ててくれているのが嬉しい。


 僕は椅子から立ち上がり、会長の座っている所へ向かう。

 そして、床に膝を付き、会長と同じ目線に合わせる。


「会長は僕が居なくなるの嫌ですか?」

「い、嫌…だけど…ワンちゃんが私の、その…彼氏が嫌なら」

「それじゃ会長は僕の彼女、嫌ですか?」

「い、嫌なわけないじゃない!」

「どうしてですか?」

「だ、その…」

「くくっ。僕も今の会長と同じ気持ちですよ」

「…ワンちゃん、ズルい」

「会長だけにですよ。僕が意地悪するのは」

「うぅ…」

「でも、会長の意見も尊重しましょうか。会長が誰かに取られるかもしれませんもんね」

「そ、そんなこと絶対にないよ!!!」

「さ~どうだか?もしかしたら会長の心を掴んじゃう人が現れるかもしれませんよ」


 そんな人が居たら僕は…間違いなく会長がその人に会わないようにしてしまうだろうけど……。


「ワンちゃん以外にそんな人いない!私は…私は、ワンちゃんの事…が……」

「僕の事が?」


 会長の顔が徐々に赤くなっていく。

 そして、僕が会長に何を言わせようとしてたのかに気が付いたらしい。


「僕の事がなんですか?」

「う、う、うぅ…やっぱり意地悪だ!もう良い!大好きだからね!ワンちゃん!だーーいすきだからね!わんちゃん!」


 自棄になった会長は生徒会室、いや、外にも聞こえるように大きな声で叫ぶ。

 それも何度もだ。

 今の時間帯的に部活を終えて帰ろうとしている生徒が一杯だろうから、これはヤバい。

 会長もその事を分かってて言ってるのかもしれない。

 そして、こういう事態が大好きな人が……。


「ちょ、ちょっと!分かりました!分かりましたから、止めてください!」

「大っ好きだからね!ワンちゃん!」

「ったく、君たちバカップルは何を神聖なる生徒会室で愛を叫んでるのさ。叫んでいいのは世界の中心だけだよ」

「な、なおっ!?」

「だから、止めてって言ったのに……」


 岩瀬先輩がニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべながら生徒会室の中に入ってくる。

 さっき、影が窓に映っていたから、さっきまでの事を全部盗み聞きしていたんだろう。

 僕は大きなため息を吐き、肩を落とす。そして、岩瀬先輩に苛められ、僕に助けを求める会長を眺めながらコーヒーを入れ直した。


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