第65話 おべんとう。
ふと、どうしてこんなことになったのだろう?と考えてしまう。
会長と僕は付き合ったのだ。うん、これは現実である。
しかし、現実ってのは嬉しい事ばかりではないのは確かなのだ。
「で?真也は綾ちゃんとどーなったの?」
要くんの何の容赦もないこの言葉。
本当に空気を読んでほしい……と思うが、要くんはおそらくわざとだろう。
要くんは声を抑えようともせずに、普通の声のトーンで話す。
でも、この時、普通に対応しておけばこんな事には成らなかったのだ。
これは僕の反省点でもある。だけど…だけど……これだけは言わせてほしい。会長…なんつータイミングで僕の教室に来てるんですか…。
「と、藤堂生徒会長!!!」
生徒会長を守る会の会員さんっぽい人が起立をして頭を下げる。
まるで神を崇めるような対応だ。
しかし、会長の目にはそんなの映っていない。
ほんのりと頬を赤く染め、キョロキョロと教室の中を見渡した後、要くんとご飯を食べている僕を見つける。
そして、可愛く手を振るのだ。本当に可愛く。
だけど、今回はその可愛さが怖い…。
「ふ~ん、なるほどねぇ~」
目の前にいる要くんはニヤニヤとすべてを悟ったかのような顔をして笑っている。
他の生徒はいつもと雰囲気の違う会長に戸惑っている。
僕は冷や汗が止まらない。
「ほら、呼んでるよ?綾ちゃんのかれ」
「あーーー!そう、そうですね。忘れてました会長!今日は生徒会室で打ち合わせですね!すみません、今から行きます!!!要くん!ごめん、行ってくるよ!あと、静かに食べようね!!!!」
「くっくくくく、わかったよ。ほら、行ってきなよ」
僕は慌てて食べていたお弁当を仕舞い、ドアの近くに立っている会長の手を取り、全速力で廊下を走っていく。
そして、誰も入ることのできない生徒会室へと逃げ込む。
「ハァ…ハァ…ハァ…しんど…」
「ワンちゃん?どうしたの?」
「どうしたのじゃないですよ…」
膝に手を付いて、息を整えながら会長の方を見る。
「この前言ったでしょ、会長には熱狂的なファンがいるから僕みたいなのが彼氏になったなんて話が出たらタダじゃ済まないって」
「それはそれ。これはこれ。うん、解決だね」
「あんた、俺を殺す気か」
「あはは、それよりも一緒にご飯食べようよ。作ってあげたんだよ、お弁当」
可愛いお弁当袋に包まれた物をカバンの中から出して、見せてくれる。
お弁当袋を持っている会長の手には絆創膏が貼ってあって、一生懸命作ってくれたのだと教えてくれる。
どうしよう…もう倒れそうなぐらい嬉しい……。
「あ、その絆創膏ってもしかして」
「え?あっ…こ、これは…」
「もしかして僕のために?」
普段、料理を作らない会長が僕のために一生懸命、台所に立って作って……あれ?会長って料理できたはずじゃ……
「えっとね、ワンちゃんのために作ろうと思ってて、喜んでくれる姿を思い浮かべてたら、切っちゃって」
会長は絆創膏を貼ってある手を後ろに隠して恥ずかしそうに言う。
その姿を見れるのは僕だけだ。誰にも見せたくない。
それに、本当にこの人を好きになってよかったとさえ思える。
だから、こんな言葉がすらっと出てしまった。
「会長、大好きですよ」




