第60話 僕と会長。
後悔しているか?と聞かれればきっと僕は頭を横に振る。
告白したことを後悔しているなんて、相手に失礼だし、自分の気持ちを否定したくない。
それは例え断れても考えは変わらないだろう。
同じ場所に居続けるよりも先に進んだ方が良いに決まっているから。
でも…岩瀬先輩に付いていった事には少し後悔しているかもしれない…。
岩瀬先輩が「ジュースを買ってくるのを忘れた」とわざわざ嘘を吐き、会長の家に僕と会長の2人きりにしたのだ。
この家に入った時にはもう覚悟はできていたけど、まさかこんな早くに出ていくとは思わなかった。
これで、もし僕が振られたらこの後の雰囲気が最悪になることを考えていないのだろうか…。
「………」
「………」
シーンと静まる。
会長は岩瀬先輩が出て行った後、ずっと俯いており、僕も会長を直視できず、辺りに視線を泳がす。
この状況を打開するためには僕が話かけないといけないんだろうけど…話になるネタが見つからない。
それに、女の子の部屋に入ったのは何度かあるけど、こうして好きな人の家に入るのは始めてだ。
会長はやっぱりと言うべきか、それとも意外と言うべきなのか、可愛いぬいぐるみが色んな所に置かれている。
「ぬいぐるみ好きなんですか?」
「……す、好き?!?!」
好きというワードはNGなんだろうか…。
反応が凄い。
「ぬいぐるみです。一杯置いてあるから」
「へ?あ、ああ。うん…そうなんだ」
「へぇ」
「………」
「………」
自分のコミュニケーション力の低さを怨みたい…。
全然会話が進まない…。
今まで会長とはどんな話をしていたんだろう?
どんなことを話して、どんな風に接してたんだっけ?
…ダメだ、何を話そうとしても、最初に浮かぶのは好きだという言葉。
それだけ好きなんだ。僕は、この人の事を。
このどうしようもなくお人好しで、ハイスペックで、皆のアイドルであるこの人の事を。
もう大丈夫。とっくの前に話すことは決まっている。
僕は会長の方に身体を向け、声を掛ける。
もう逃げるのは止めよう。
「会長」
さっきまでとは違う雰囲気で声を掛けると、会長はゆっくりと顔を上げる。
顔が赤く、目は少し不安げな感じ。僕の方が背が高いから少し上目使いになる。
くそ…可愛いすぎる…。
思わず目を背けたくなるぐらい可愛いけど、逃げちゃダメだ。
「僕はあなたの事が好きです。付き合ってくれませんか?」
これで最後。
これでお終いにするんだ。
僕の告白に対して、会長は目を背けようとするがもう逃げ道は作ってあげない。
「僕の我が儘を1つだけ聞いてください。もう逃げないでください。僕はどんな答えも受け入れるつもりです」
「………」
「答えを聞かせてもらえませんか?」
真剣な目で、言葉にできない気持ちを送る。
もう逃げちゃいけないんだ。
僕が会長に告白した時点から、時間は進み始めている。
会長がどれだけあの時の関係を続けたいと思っていても、もう時間は戻らない。
僕が進めてしまったのだから。
だから、例え僕にとって悪い方になるとしても進めなければならない。
これは僕が時を進めてしまったバツなのだから。
「…どうして私なんか」
「なんか、なんて言わないでください。会長の事は少ししか知りませんけど、僕はその会長を好きになったんですから」
「私なんか人に好かれる人間なんかじゃないよ」
「なら僕が初めてですね。会長の事を好きになったのは」
「…私の何が好きなの?こんな人の顔を窺ってばかりの人なんか」
「そうですね。僕もそれは悪いなぁって思ってましたよ?だから怒ったじゃないですか、文化祭の日に。あれ、会長が思っている以上に怒ってましたからね」
「それじゃ私を好きになるのはおかしいよ」
「それでも好きになっちゃったんだからしょうがないでしょ。だって、可愛いんですもん」
僕の言葉で会長はボンッと音がするように顔が更に赤くなる。
その姿すら可愛い。やっぱりこの人を好きになってよかった。
この人のこの顔を見れば見るほど幸せだと感じれるんだから。
「それで答えを聞かせてもらえませんか?僕の事、好きですか?普通ですか?嫌いですか?」
「…………」
僕の問いに会長は少しだけ目を背け、すぐに僕を見てくれる。
そして、ずっとこっちを見てくる。僕も見つめ返す。
どうしよう。なんとなくだけど会長の視線の意味が分かってしまう。
そのせいで心が爆発しそうだ。
自然と笑みが零れてしまう。
「な、なに笑ってるの」
「いいえ。それで?どうなんですか?僕の事好きですか?嫌いですか?」
「……わ、分かってるなら良いでしょ!!」
「何も分からないんです。だって僕は会長ほど賢くないですから」
「じゃどうして笑ってるのさ!」
「さぁ?どうしてでしょう?」
「ワンちゃんのくせに生意気だよ!私は生徒会長なんだから!」
「そうですか。でも、僕は四條学園の生徒会長でも、優等生の会長でも無く、藤堂綾乃っていう人を好きになったので、それは関係ないですね」
ぼんっ!!!
僕に文句を言うために手を上げながら近づいてくる会長に向かって言うと会長の頭から湯気が出るようなぐらい顔が赤くなる。
僕はあと少しで爆発しそうな状態の会長の手を引くと、抵抗するのを忘れたのか僕の腕の中に飛び込んでくる。
「きゃっ!?ちょ、わ、ワンちゃん!」
「会長、僕の事好きですか?」
腕の中にいる会長にだけ聞こえるように呟く。
「だ、だから!は、離してよ!」
「ダメです。質問に答えてください」
「う、うぅぅ……」
「どうなんですか?」
「…す、好きだよ」
「僕もです。会長」
顔を赤くしている会長は可愛い。
そして、こんなにも愛おしい。
嬉しい気持ちを抑え込むことができず、思わずギュっと会長を抱きしめてしまう。
「わ、わんちゃん」
「会長」
「な、なに?」
「大好きです。僕を副会長にしてくれてありがとうございます」
今までずっとそばに居てくれていた会長。
1人で何でもできてしまう会長。
天下無敵な会長。
我が儘な会長。
人に頼らない会長。
全部、僕にとって愛おしい会長だ。
ギュッと抱きしめている力を緩め、会長の顔を僕の方に向けてもらう。
会長の瞳に僕の顔が映る。会長が目を瞑る。
あの時はハプニングだった。でも、今回はハプニングじゃない。
僕は言葉では伝えきれない、僕の中にある会長に対する想いが伝わるように口を合わせた。
おつかれさまでした。
あともう少しお付き合いくださいね(笑)




