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ともすれば君は  作者: 駿河 健
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第4話 執着への自覚

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 一週間のテスト前期間が終わり、ついにテスト一日目。俺は野田やその他サッカー部連中としょっちゅう集まり、遊びの合間になんとか課題を終わらせた。部活が無いのを良いことに何回もカラオケに行き、声はガラガラだ。席替えをしてから二週間も立たないうちに俺たちは再び出席番号順の席に座った。野田が椅子に逆向きに座り、俺の机にまとめノートを広げ赤シートを乗せる。


「えーとここが...解散か。逆に国会が内閣に出来るのが、えっとー」


「内閣不信任決議」


「そう、それ」


毎休憩時間、俺と野田は向かい合せで次に出る重要単語や公式なんかを確認した。他のクラスメイトも、複数人だったりひとりだったりでテスト勉強をしていた。しかし、俺の後ろに座っている彼女は別だった。スマホで漫画を読んでいたのだ。


「余裕だな」


「いやそうじゃなくて、今これ面白くて」


「なるほど」


そんなこんなで三日間のテストが終わり部活も再開され、次の週にテストが返された。だいたいどれもが平均−10点くらいで、赤点は無かった。野田もだいたい同じようなものだったのだが、俺はいくつかの教科で藤原に負けた。 現代文、物理基礎、そして数Aだ。 物理にいたっては彼女は90点を超えている。 納得がいかなかった。 彼女は公式というものを一切覚えていない。俺は覚えた。


「なんで公式無しで解けるんだ」


「図を書いて数字を書き込めば、勘で式を立てられる」


「そんなんほぼ超能力だろ」


「ふふん」


彼女は得意げに言った。だが俺は知っている。彼女は古典の点数が1桁だ。そして数学の最初の小問集合をほぼ落としている。しかし裏面の証明問題は満点に近い。全くわけが分からない。全体を通して見れば、彼女は4つの教科で赤点を取っていた。


そして生徒たちはテストから解き放たれると、一気に文化祭の空気になった。俺のクラス、一年二組は執事喫茶をやる事になった。ちょうどその時、執事のアニメがちょうどこのクラスで流行っていたからだろう。学活の授業でその案が出されると俺や野田、藤原も含めて圧倒的多数の賛成を得て可決された。クラスの代議員が細かい質問や意見を募る。


「全員が、執事になるんですか?」


藤原が質問した。


「ま、まぁ...それで良いよね?執事喫茶だし。女子も男装する形で」


代議員の女子──宮野が言うと、何人かがそれで良いと思う、賛成だ、と言った。


「でも、執事って使用人のトップだからひとりしか居ないはず。下に従僕とか下僕とかがいないと」


藤原がそう言うとクラス中の人が笑った。


「別に良いんじゃんね、執事喫茶なんだし」

「下僕とか誰がやりたがるの〜?」

「また藤原タイムが始まったぞ」

「今はいらねぇよな」


「いや、下僕ってのは日本語に翻訳した時ので、下男って言い方も」


「ちょっと藤原ストップ」


俺が立ち上がって言った。藤原はきょとんとして俺の方を見た。


「役職を増やしたら、衣装が増えて大変だろ?全員執事なのも面白ぇじゃん。それに藤原はどうか分からないけど、皆んな執事がやりたいから。良いだろ?」


「えぇ、でも皆んな執事ってやっぱ違和感が...」


「大丈夫大丈夫。そんな詳しい事知ってて気にするの藤原くらいだから」


そう言うと藤原は得意げな顔になり、また皆んなが笑った。


「分かった。異議無しです」


 藤原が座るとまた会議は進行し始める。野田が小声で「ナイス」と言ってくれた。俺自身なかなかにナイスだったと思う。もう少しでも彼女を喋らせておけば、誰かが彼女に対して辛辣な言葉を送っていただろう。だれがお前の知識のひけらかしを求めるんだ、会議の邪魔だ、黙れと。俺はその阻止に成功したのだ。


 俺は彼女を何一つ理解していなかった。理解したかった。いや、分からない。彼女を理解したいのか、彼女の理解者になりたいのか。そう思い始めた時から、俺は彼女に執着している事をやっと自覚した。

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