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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第三章

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81話 知将イライアス

「ハム、チーズ、ワイン……あと……」

「お使いとはご苦労だな」

「わっ」


 フレドリックは後ろから話しかけられて思わず荷物を取り落とした。


「ア、アル……!?」

「よかった、すぐに見つかった」


 一応潜伏しているのだから容易に見つかってはならないのだけどなぁ、とフレドリックは内心思いながら名無しを見た。


「まだこの街にいたんだな」

「あ……ああ」


 その街は名無しが記者相手にアーロイスのことを話した街だった。正確には彼らは一度、イライアスの領地にいき、聖都に行ってここに戻って来たのだが。


「どうしたんだ……お前から来るなんて」

「ちょっと相談がある」


 珍しく名無しが思い詰めた顔をしているのを見て、フレドリックは不思議に思った。


「まあいい、宿に行こう」


 そう行って名無しをつれてフレドリックは潜伏先の宿に向かった。


「お……?」

「あ!」


 そこにいたイライアスとサイラスは名無しの顔を見て声を上げた。


「どうも……」

「どうしたんだ、あんた。俺達に関わるの嫌がってなかったか」

「……実は」


 イライアスの問いかけに、名無しは村に起こった事件のあらましを伝えた。


「それで今は……?」

「街道とそばの草地にありったけウサギの罠をしかけておけって言ってある」

「ははは! それはいい」


 町から村までは一本道だ。そこにウサギの罠があったら馬は通れない。歩いて行っても進みにくい。そんなことをしているうちに日が暮れるだろう。


「時間かせぎだ……本気になって衛兵がやってきたらおしまいだ」

「……だろうな。俺は今までいつもひとりで戦ってきた。だから……戦の知識がないんだ」

「それで我々を頼ってきたと……?」


 そう言われて名無しは黙って頷いた。イライアスはふむ……と考え込んだ。


「戦か……辺境の村の反乱が一つ……」

「なに考えてる、イライアス。アルの村が大変なんだぞ。ここは兵法のひとつも伝授して」


 脇で聞いていたフレドリックがそう言うと、イライアスは舌を出した。


「ばーか」

「なっ、な、な……」

「田舎の小規模の反乱なんてすぐに潰されて終わりさ。それよりもその村が生き延びる方法を俺は考えて居るんだ」


 イライアスはそう言いながら、壁に貼ったローダック王国とその周辺の地図を見つめた。


「しかし……これまで失政らしきことすらしなかったアーロイスがねぇ……」

「気の緩みですかな」

「ああ、俺とサイラスが死んで安心したんじゃないか、あの優等生くんは」

「あんた達……何を言ってんだ?」


 訳が分からない名無しがそう言うと、イライアスはしまったという顔をした。


「いやね、俺達アーロイスに目をつけられて呪い殺されそうになったって訳。で、中央教会で聖女様に直して貰ったんだけどちょうどいいから死んでることにしたのさ」

「聖女……エミリアか?」

「アル、そうだ。彼女は門前払いをくらいそうだったところを助けてくれた……」


 フレドリックはあの時のことを思い出して、感謝の念がまたわき起こった。彼女がいなければどうなっていたことか。


「元気だったか」

「あ、ああ……」

「肩身はせまそうだったけどな」

「イライアス!」

「……それでも、お前達を助けに走ったか。エミリアらしい」


 薄く笑っている名無しを見て、イライアスはおや、と思った。


「信頼してるんだな。あの聖女様を」

「……まあな。それより……」

「分かった、ちゃんと考えるさ……うん、あの記者にこのことは広めてもらおう。アーロイスへの評判落としの第一弾だ」


 イライアスは指揮者のように手を振って、今度は名無しを指差した。


「あんた、芝居はできるか」

「あ……?」


 名無しは一瞬村祭りの小芝居のことが脳裏に浮かんだ。違う、イライアスが言いたいのは多分そういうことではない。


「必要なら」

「そうか、じゃあな、立ち退きの件は一旦受けろ。村人みんなで芝居をするんだ」

「みんなで……?」

「ああ、土地を明け渡すのは『月の民』だろう。彼らは狩りはしても農耕は知らない。おまけに」


 イライアスは再び壁の地図に目をやった。


「各地に散らばっている。お前達の立退きが決まって、やってくるのは少人数さ

「それを殺す……?」

「殺すこたないだろ。やつらは絶対に畑を持てあます」

「うむ……」


 実際持てあましまくった名無しは頷いた。


「そこでだ。彼らの代わりに農作業をする人間がいるだろう?」

「……あ」

「そうだ。一時的に彼らに雇われればいい。それで生活はほとんど元通りだ。一時的にだけどな」

「なるほど……」

「俺達は正義の記者くんにこの話をして、とても横暴な事件が起きたと吹聴してまわる」


 その時、イライアスの頭の中のパズルがかちっとはまった。


「待て、なんでアーロイスが『月の民』に土地を与えるんだ?」

「褒美じゃないのか、なんかの」

「……そうだよな、アル」


 イライアスは名無しを手招くと、その耳元で囁いた。


「『月の民』はアーロイスの悪巧みに荷担している。……させられているのかもしれん。彼らの話をよく聞いてくれないか」

「……それが今回の授業料か」

「そうだね」


 イライアスは名無しにそう言われて二カッと笑った。


***


「なんか……すまん」


 名無しが宿を出ると、後から追いかけてきたフレドリックが頭を下げた。


「なんでフレドリックが謝るんだ」

「いや、結局役人をやっつける方法ではなかったし……あの、イライアスの言い方もひどいと」

「……俺は割と好きだけどな。あんたにない能力がイライアスにはある」

「そうなんだけどな……」

「まあでも。一時しのぎには変わりないか……」


 名無しがそう呟くと、フレドリックはドンと胸を叩いた。


「それは任せろ、我々がアーロイスを倒したら元通りにするから!」

「……ああ、期待している」


 名無しはフレドリックの真っ直ぐな目を見て口の端を上げた。


「じゃあ、大芝居をかましてくるわ」

「ああ! また会おう」


 名無しは馬に乗り、ハーフェンの村を目指し街道を急いだ。


「イライアスね……ちょっとあんたに似ている気がする……バード……」


 そう一人呟きながら。


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