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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第三章

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64話 新聞

「パパ、リックが迎えに来たよ!」

「ああ。今行く」


 リックは今日も見合いである。再び同行を頼まれた名無しは心底それになんの意味も見いだせなかったが、何度も頼み込まれてしかたなく了承した。

 だが、あらぬ噂の餌食になるのと前回のようなトラブルは勘弁だと名無しは思ってクロエと一緒に行く事にした。クロエは久し振りの町へのお出かけにご機嫌である。


「よう、アル。これ見てくれよ」

「なに……石鹸に磨き粉にマスタード、大きめのボタン……?」

「俺の見合いなのにお使い押しつけてきやがった。なに考えているんだか」


 どうせ今回も駄目なんだ、と顔を覆うリックを横目に名無しはさっさと馬車に乗りこんだ。


「いつも通りの調子でしゃべれば大丈夫だよ!」

「……うう、また胃が痛い」


 よりにもよってクロエに慰められながら、リックは胃をさすった。


「俺達は町で時間つぶしてるから買い物はまかせとけ」

「ああ……」


 そんなおしゃべりをしながら馬車に乗り込む。


「そんなに見合いが嫌なら断ったらどうなんだ?」


 名無しがずっと思っていた事を口にすると、リックはため息をついて愚痴を吐いた。


「俺は跡取りだから……。しっかり所帯を持って農地を豊かにしないと」

「……そうか」

「妹はメイド奉公に出てるんだ。俺がしっかりしないと、嫁に出してやれないし」


 家族というのはそういう厄介な部分もあるのだな、と名無しが思った。そうこうしているうちに町に着いた。


「じゃ、後で様子を見にくる」

「うん……」


 しょんぼりと不安そうなリックを置いて、クロエと一緒に商店を回る。


「パパ、リックはどうしてあんなにもじもじしちゃうのかな?」

「俺達とは重圧が違うんだろ」


 名無しはクロエやヨハンやラロが元気でいてくれればいいくらいしか考えてないし、畑を大きくしようとか家畜を飼おうとかまで考えていなかった。


「……家を継ぐ、ね」


 与えられる豊かさと引き替えの引き継ぐ物の責任と重圧……家すらなかった名無しには思いも寄らない発想だった。

 名無しはふと国を継ぐはずだったライアンの事を思った。悲壮な程の決意を胸にしたあの少年は今どうしているだろう。


「はい、磨き粉はこれ。石鹸は……」


 名無しが考え事をしている横で雑貨屋でクロエは商品を選んでいる。もう買い物も手慣れたものだ。


「あっ、パパ。新聞……」

「ん?」


 それは雑貨屋の会計前に置かれた新聞だった。その見出しは『聖女様の就任』と書かれていた。


「これ、エミリアさんだよね」

「ああ……そうだ」


 名無しはその新聞を買った。店を出て広げて早速記事を読む。


「パパ読んでー」

「うん……『無事、聖女マチルダの困難をなぞった巡礼を終えたエミリアはこの度儀式を終え聖女の位を得た。ユニオールの街は喝采に溢れた。聖女エミリアはこれから人々の平和と安寧に尽くすと語った』……」

「どういう事?」

「旅と儀式が終わったから聖女になったってさ」

「そっかー。エミリアさん頑張り屋さんだね」

「ああ……そうだな」


 名無しはそんなエミリアにずっと少しの危うさを感じていた。聖女となった事でそれは変わるのだろうか。

 北東の方向、聖都ユニオールの方向を見つめながら名無しはそっと新聞を閉じた。




「エミリア様、この間の新聞記事見ました?」

「ええ、ちょっと挿絵が大袈裟よね」

「そんな事ないですよ。素敵に描いて貰っているじゃないですか」


 エミリアはまだ幼さの残るお付きの尼僧、カーラの様子に苦笑した。


「これから各国の重鎮がエミリア様の拝謁にこられるのですよね……すごいです……」

「緊張しますね……」


 エミリアは高名な宗教家や国の代表格と挨拶と歓談を控えている事が憂鬱だった。これも聖女の仕事なのだから、と自分に言い聞かせながら。


「上手くやれるかしら」

「大丈夫ですよ、エミリア様は美しくて物腰も上品で……私は商家の生まれだから落ち着きが無いってまだ言われます」

「私も商家の生まれよ?」

「そうなんですか!? じゃあ私もいつか……」

「ふふ、頑張ってね。カーラは優秀なのだから」


 そのカーラの姿にエミリアはいつかの自分を重ねて見た。優美ですっくとした立ち姿で自分の前に現れた当時の聖女様。その憧れが今は現実のものとなったのだ。


「……」

「エミリア様?」

「……祈りの時間です。行きましょう」


 エミリアは不安を振り払うように祈祷所に向かった。



 ――一方、ローダック王国の議会では大事件が起きていた。


「まさか陛下まで病に倒れられるとは……」

「しかし認めない訳にはいくまい」

「何をおっしゃる、アーロイス殿下は正当なる王太子。なんの問題もありませんぞ」


 国王が倒れた。これはフェレール大臣の仕向けた呪術師によるものだったが、それを知るものはアーロイスとフェレールしか知らない。


「結論。ローダック王国の王国司法議会の議決として国王陛下の公務が不可能と判断し、その権限を一時的にアーロイス王太子に委任することをここに承認する」


 その結果を聞いたアーロイスはこみ上げる笑みを堪えるのに必死であった。


「誠心誠意、父上の代理を務めまする」


 そしてここに摂政王太子アーロイスが誕生したのである。それは、瞬く間に国中に、そして国外に知れ渡った。市井の人々はただただ驚き、諸外国は静観の構えをしめした。


「あっさりだな」

「油断はなりません。まずは体制をしっかり固めませんと」

「……わかっておる。無粋者め。ふふ……今くらいはこの美酒を味合わせてくれ」


 アーロイスはワインを傾けながらフェレールに微笑みかけた。フェレールは実の父を陥れても平然としているその冷たい氷の様な微笑に少し背中が寒くなったのだった。


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