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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第三章

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63話 祝いの鐘

「お待ちください、アーロイス殿下!」

「なんだフェレール……私の意見には反対か」


 昼だというのにカーテンを閉め切った暗い部屋でアーロイスは寝椅子にゆったりと座っていた。


「あ……その……しかし、やり過ぎかと」

「お前にもいい話だと思うぞ。父上は壮健だ。私に王位がやってくるのとお前の寿命とどっちが先かわからぬぞ」


 フェレール大臣はその言葉に口を濁らせた。そもそも第二王子を担いだのは、自分の代での出世に限度を感じたからだ。子の代に引き継ごうというのが元々の狙いだ。だが……もし自分が今の王の元では叶わない宰相になれるとしたら。


「しかしそんな王が急死などしたら、諸外国から不審に思われましょう」

「なに……心配はいらん。父上にはちょっと眠っていて貰えばいいのだ。兄上と同じ様に」

「それは」

「そう、父上が政務不履行の状態になれば……私は、摂政王太子となる」

「……」

「そうなれば権限は王とほぼ同じ……。どうだフェレール。悪巧みは何もお前のものという訳ではないぞ」


 フェレールはにやっと笑った。


「殿下のお心がそう決まってらっしゃるなら、私は何もいいますまい……では私は仕度がありますので」

「ああ、頼む」


 王子の居室から退出しながら、フェレールは頭の中でこの権力の変化で自分の側に着く者達がどれほど居るか、と計算していた。


「……ふ」


 その姿を見送りながら、アーロイスは表情を無くして寝椅子に肩肘をついていた。


***


「むーん」


 フレドリックはまた届いた書簡を開いていた。高官から遠縁の貴族まであらゆる所に手紙を出した。引退した老騎士に返信が返ってくるのは全体の三分の一くらいであろうか。


「はい」


 考え込んでいたフレドリックはノックの音に顔を上げた。


「どうぞ、空いております」

「不用心ですよ」


 ガチャッと扉を開いて入って来たのは細身の老紳士であった。その顔を見てフレドリックは目をむいた。


「イライアス……!?」

「そうだ、手こずっているようだなフレドリック!」


 白髪交じりの金髪に明るい緑の瞳。快活な印象の彼は、サイズのあってない机にかじり付いているフレドリックを見てにやっと笑った。


「どうしてここが分かった」

「なに、ユニオールの町でガタイのでかい老人がうろうろしていないか聞いて回っただけさ」

「むう……」


 フレドリックは潜伏に向いて無いのかと落ち込んだ。そんな彼の背中をばしばし叩いた。


「ははは、安心しろ。ここに来るまでに四人のご老人をびっくりさせてきてしまった」

「お前……」

「さぁ、フレドリック。悪いニュースと良いニュース、どちらから聞く?」

「……では悪い方を」


 フレドリックがそう答えると、イライアスは声を落として囁いた。


「うん、分かった。……ロドリック殿下が病に倒れられた」

「なんとっ……」


 フレドリックは思わず椅子を蹴倒して立ち上がった。


「不自然だろ? 殿下は健康だった。ところがある日を境に床につくようになった。御典医も回復魔術師もお手上げさ……」

「それは第二王子派の仕業か」

「だと思うが……証拠が無い。ライアン様を真っ先に逃がしたロドリック殿下の目は確かだった」

「……で、良いニュースは?」


 フレドリックは怒りとやるせない気持ちをぐっと堪えながらイライアスに聞いた。


「うん、それはね。現王の縁戚にして元外務大臣イライアス・ファリントンがここに来た、という事だね!」

「……」

「なんだい、その顔」


 イライアスは不満そうなフレドリックの鼻をつまんだ。


「第二王子の立太子に強硬に反対し、職を辞した私が来たのだよ……。どうせ助力嘆願の時点で躓いているんだろう」

「ぐぅ……」

「いいんだ。人には向き不向きってものがある」


 イライアスはフレドリックの手元の書簡に目を落とした。


「ふんふん……。この男爵は温泉で療養したいと……リュッケルンの街まで来るつもりかな」

「それくらいは私にも……」

「ではこれは?」


 イライアスは指先に灯火の魔法を行使して別の手紙をあぶった。すると文字が浮き出てくる。


「あぶり出し……」

「うん、あとこっちは……ほら、便せんが二枚重ねになってる」


 イライアスは笑顔でフレドリックを振り返った。


「どうだい、どっちも引退した老いぼれだが……一旦国をひっくり返してみるかね?」

「もとよりそのつもりだ」


 フレドリックはイライアスに手を伸ばした。イライアスもその手を強く握った。

 ――その時、中央教会の鐘ががらんがらんと大きく鳴り響いた。


「……聖女様の就任の鐘だ」

「ああ、儀式の困難を乗り越えられたのか」


 街の中も、教会の僧侶達もその音を聞いて頭を垂れた。

 教会最奥の特別な礼拝堂には大教主がエミリアの前に跪いていた。


「エミリア様」

「はい」

「貴女は神より聖女の位を賜れました。この世の平和と安寧の為に、その身を尽くされることを皆喜んでおります」

「……はい」


 それからエミリアは白い聖女のガウンに身を包み、お付きの尼僧達に囲まれて中央教会の尖塔に昇った。


「聖女様!」


 エミリアはその上から一帯を見渡した。とうとう、夢で会った聖女となった。


「なんだかまだ実感がないわ」

「エミリア様は数々の困難を乗り越えられた立派な聖女様です。自信をお持ち下さいませ」

「……」


 エミリアは、そっと服の上から胸元に隠したメダルを握りしめた。


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