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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第三章

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59話 反省会

「……で、俺が悪かった……のか?」

「そこまでは言ってないだろ」


 とは言え、明らかにぶすくれているリックである。あのお見合い相手のつぶやきはしっかり名無しの耳にも届いていた。ここはいつかリックと泊まった宿の下の居酒屋兼食堂だ。


「どっちにしろ、あの人に農家のかみさんがつとまるかどうか」

「うん、それはちょっと思った……」


 村のおかみさん連中はパワフルだ。別に一日二日でああなった訳ではないだろうが。名無しはくいっとエールを飲んだ。


「は~あ~、どっかにいい人がいないかな……」


 リックのため息がまだ昼間でがら空きの店内に響いた。リックはもう四杯目のエールである。


「あら、ここにいるわよ」

「へっ……ああ、ジャンヌ……」

「なーに、そのしけた顔」

「うるさい、俺は傷心してんだよっ」


 馬鹿でかいため息に近寄ってきたのはここの女給のジャンヌである。机につっぷしたリックを見てジャンヌは名無しを見た。


「なにがあったの?」

「……見合い相手とうまく行かなかったんだ」

「アルッ!」

「まぁ、そうなの」

「そうだよっ、緊張してうまく話せなかった上に向こうもなんか乗り気じゃなくて、あげくに……アルに一目惚れしやがったっ!」


 リックは一息に鬱憤を吐き出した。そしてエールを一気に飲み干す。


「おかわりっ!」

「はいはい……ちょっとミカエラ、エール持って来て! それでこんな荒れてるのね」

「悪いか!?」

「いいえ。でもあたしとは普通に喋ってるじゃない」

「……そういやそうだな」

「きっと相性が悪かったのよ。リックはいい男よ」


 そういってジャンヌは色っぽくに笑った。


「はーい、お代わり。あらアルさんも今日は来てるのね」


 その時、ミカエラがエールのジョッキを持って現れた。そして当然のように名無しの隣に座った。


「……ふん。あのサラってやつアルに惚れても無駄さ、なぁ」

「ん……?」

「だってアルは面食いなのさ」

「何言ってんだ」

「まぁそうなの!?」


 リックが酒に顔を赤らめながら吐き捨てるように言った内容に女達は目を輝かせた。そんな彼女らに名無しは小さく首を振った。


「いやさ、だって。エミリアさんえらい美人じゃないか!」

「エミリアはそういうのとは違うだろ……」

「「誰よ、エミリアって!!」」


 キーン……と女達の黄色い声が鼓膜を刺した。


「リック、いい加減にしないとここに置いて帰るぞ。それで村のおかみさんにあることないこと話してやる」

「う……俺、ちょっとトイレいってくる……」

「ミカエラ、ついてってやってちょうだい」

「えーあたしー?」


 トイレに向かうリックに、ぶつくさいいながらミカエラが付き添いに行った。


「ごめんな」

「え、なにが?」

「こんな話聞かせてさ。あんた……リックと寝てるんだろ」

「そんなの」


 ジャンヌはふっと笑った。


「……仕事よ」

「そっか、ならいいんだ。今日は駄目だったかもしれないけどリックはまた見合いするだろうしさ」

「そう……所帯を持ったら、あんまりこういう所にこれないかしら」

「どうだろうな。泊まりがけは難しいかもな」

「そう……」


 その時、トイレに行っていたリックが戻ってきた。


「んもーっ、この酔っ払い重い!」


 ミカエラが肩にリックを担いで帰ってきた。


「あーら」

「……しょうがないな。今日は泊まるか?」

「えっ、大丈夫なの」

「いいさ別に一日くらい。……どうだ、ミカエラ」

「へ、私? ……やだーぁ! ジャンヌー! 私面食いさんに誘われちゃったぁ」


 ミカエラは名無しの腕にくっついた。名無しは苦笑いしながらもそれを振り払おうとはしなかった。


「しかたないわね」

「んんー! ジャンヌ……?」

「立ちなさいよ、酔っ払い。まだ日もあるのに。……とにかく部屋で休ませるわ」


 ジャンヌはため息をつきながらリックを椅子から立たせた。


「アルー! 今度こそ内緒なー」


 ふらつきながらもリックはジャンヌに手を引かれて上の階に移動していった。


「ねぇ、私たちもいきましょうよ」

「ああ……」


 名無しもミカエラに案内されて部屋に向かった。


「じゃあ……」


 スルスルと服を脱ごうとするミカエラに対し、名無しは手でそれを止めた。


「待った」

「なによ」

「俺はお前と話したかったんだ」

「話……なーんだ。話だけでも料金は貰うわよ?」


 ミカエラは急に横柄な態度になってはだけた肩を直した。


「ジャンヌは……リックをどう思ってる? ただの客か?」

「姉さんはねぇ……本当の本当に気に入ったのしか相手にしないのよ。親父さんはいい顔しないけど。でも一番人気だから誰も文句言えないの」

「……ジャンヌはそれでいいのか」

「どうしろっていうのよ。宿屋のいかがわしい女給やってた女を嫁にする気?」

「それのどこが悪い」


 さっきのやり取り。リックは自然にジャンヌとやり取りしていた。ジャンヌもリックを心から気遣っているように見えた。そう口にした名無しをミカエラは馬鹿にしたように鼻をならした。


「リックが良くても周りは許さないでしょ。分かったような事言わないでよ」

「……すまん」

「リックはいい人だけど……けっこうちゃんとした家でしょ」

「だが別に貴族相手って訳じゃない」

「そうね……どっちにしろ姉さんが決める事だわ」


 ミカエラはそこまで言うと今度はじっと名無しを見た。


「……なんだ」

「あんた、ちょっと感じ変わったわね」

「そうか?」

「うん。もっと周りに無関心だと思っていたのに。……さっきのエミリアって人のせいかな?」


 にやっと笑ったミカエラを見て、名無しはこの間までの旅を思い返した。バードを手にかけて冷たく震える名無しにずっと寄り添ってくれたエミリア。あれから何かがあきらかに変わった。


「まぁ……そうかもしれない」

「いい人なのね。ちゃんと口説いてる?」

「口説くもなにも……相手は尼さんだ。リックはからかってるだけだよ」


 名無しがそう言うと、ミカエラははーっとため息をついた。


「あんたも厄介な女に惚れたのねぇ」

「そういうんじゃ……」


 名無しがそう言いかけると、ミカエラが笑って首に手を回してきた。


「慰めてあげようか?」

「……結構だ」

「ふーん」


 それから名無しはリックの酒だかなんだかが抜けるまでミカエラのちょっかいをかわしながらごろごろとして過ごした。


「……すまん」

「ああ……」


 やっぱり妙にすっきりした顔のリックをつれてこの日は遅くなったものの村に向かう事ができた。


「俺……ちゃんと結婚できるのかなぁ」

「できるんじゃないか?」


 パカパカと馬の足音だけが響く夜道を二人は行く。


「次に見合いも協力してやるから。……友達だからな」

「うん……ははは」


 酒と香水の匂いにまみれて、二人は家へと帰った。リックの見合いの失敗とその後どこかで鬱憤晴らしをしたという噂は翌朝には村中に広がった。


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