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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第三章

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58話 お見合い大作戦

あけましておめでとうございます! 本年もよろしくお願いいたします。

「つっ、付いていったって……お前の見合いだろ……?」

「ほら、緊張するから」

「……ごめんだ」


 名無しはそのまま踵を返して家に帰ろうとした。その名無しの腕にとりすがってリックは懇願した。


「じゃあ、その場にいなくてもいいよ! 一緒に町までついてきてくれ!」

「なんの意味があるんだよ」

「ほら……アルの目から見てどんな女の人に見えたか教えてくれ……頼むよ、友達だろ?」

「友達……」

「そうだよ、友達じゃんかぁ!」


 名無しは困惑した。リックは友達だったのか。というか名無しに友人がいた事はなかった。仲間はいた、という意識はあるが彼らは友人というには物騒な奴らだった。


「友達なら困った時に手を貸してくれるもんだろ」

「そうなのか……?」

「アルに馬を貸したのだって友達だからだぞ!」

「なるほど」


 移動や農作業に重要な馬を借りた恩を返していなかった。農業ではむしろリックに教わるばかりだしな……と名無しは思った。


「町に付いていくだけだぞ。遠くから見るだけで……」

「うん、それでいいよ。ありがとよ、親友!」


 リックの中で名無しの友人レベルが上がったようだ。名無しとリックは数日後に行われる見合いの段取りを打ち合わせて別れた。




「リックのお見合いになんでパパがついて行くのー?」

「友達ならついてこいってさ」

「友達ねー……」

「助けておやり、リックも不安なんじゃろ。しかしリックが見合いとはなぁ……」


 眠る前にベッドで名無しはクロエとヨハンにそう報告した。


「じゃあパパ、町に行くのね?」

「ああ」

「じゃあお手紙出して来て? クロエ、エミリアさんにお手紙書きたいの」

「手紙……か……届くのかな」


 エミリアのいるのは恐らく教会の最深部である。しかし、クロエからの手紙なら教会も警戒はしないかもしれない。


「わかった、出すだけ出してみよう」

「うん!」


 クロエは便せんとペンを取りに行こうとした。


「こら、明日にしな。今日はもう寝る」

「はぁい」

「まだ数日ある。ゆっくり書けばいい」


 そう言いながら、名無しはクロエを寝かしつけた。




「おーい、そろそろ行くぞ」


 馬のいななきが聞こえてきた。リックが家の前についてきたようだ。名無しが扉を開けるといつもよりこざっぱりと身なりを整えたリックが待機していた。


「乗ってくれ」

「ああ」

「あ、パパ手紙。ちゃんと出してきてよ!」


 クロエから手紙を受け取って名無しが荷馬車に乗り込むと、村の出口で村人達が集まっていた。


「リック、気張ってこいよー」

「わかったよ! おっちゃん! こんなところまで付いてこなくてもいいよ!」


 リックはそう言って村を出発した。


「ふう……」

「緊張してるのか」

「そりゃするさ。これを見てくれ」


 リックは名無しに紙を渡した。これはお見合い相手のプロフィールだろうか。


「何々……サラ、二十歳、品行方正で落ち着いていて料理上手……しっかりした家の娘さんなので安心です……」

「遠縁の親戚が寄越したやつだ。……俺もちゃんとしないと……」

「ふうん……」


 名無しはそのまま行った方がいいのに、と思った。結婚という事はずっと一緒に住むことだから繕ったってしょうがない。が、名無しは余計な事はいうまいと黙っていた。


「……着いた」


 町に着いた二人はまず馬車を預けると、頼まれていた手紙を出して待ち合わせの店に向かった。女性客も入れそうな小さな喫茶室だ。畏まらずに若い二人が出会うとしたらこの町ではここしかない。


「じゃ、俺はその向かいの酒場から見てるよ」

「ああ……」


 二人は別れそれぞれ店に入った。


「おう兄さん、何飲む?」

「酒はいい。なんか小腹を満たせるものを」

「ほいほい。坊やは牛乳でも飲むかい」

「ああ」


 すぐに出てきたハムのサンドイッチに手をつけず、名無しはじっと窓際の硝子越しに見えるリックの姿を見つめていた。リックは通り一本隔てた向こう側からも分かるくらいソワソワしていた。やがて薄いグリーンのワンピースを着た女性が店に入り、リックの前に立った。


「なんだ、ちゃんと話せているじゃないか」


 名無しはそこでようやくサンドイッチに手をつけた。もぐもぐとそれを食べながらじっとリックの様子を窺う。リックは真っ赤なっていたがここから相手の顔は見えにくい。


「親父さん、代金ここに置いとく」

「ああ」


 名無しはそっと酒場を出ると、リック達のいる喫茶室に近づいた。隣の店の壁沿いに窓辺に近づく。窓の外に張り付く名無しを道行く人は奇異な目で見ているが、名無しは無視してかすかに聞こえてくる二人の会話に、耳を澄ませた。


「あの、趣味とかあるんですか」

「はっ、趣味……いや特には……」

「そうですか」


 リックはガチガチに固まっていた。相手の女性は特別美人ではない、というか特徴がない感じだ。


「ハーフェンの村はいいとこですよ」

「農作業、私やったことないんですが大丈夫でしょうか」

「え、ああ……今年からはじめた人もいますから」

「そうなんですか」

「ええ、アルっていって……変わった奴ですけど。頑張ってます」


 なんで俺の話をしてるのだろうか。自分の話をしろ、と名無しは目を覆った。


「そうそう、この間の春節祭も盛り上がって」

「はぁ」

「みんなで協力したんですよ」

「そういう事多いんですか?」

「は……? まぁ、農家はみんなで手伝いしあうのが普通ですから」

「私、できるかしら」


 女性の方は農村の暮らしに興味が薄そうに見えた。話が一段落した所でスッと立ち上がった。


「では……そろそろ……」

「あ、そうですね」


 リックは汗を拭いながら席を立った。名無しはそっと酒場の方に移動した。


「今日は……ありがとうございました」

「はい」

「それじゃ、友達が待ってるんで」

「村の方?」

「そうです、ほらそこに」


 リックは酒場の前に腕を組んで立っている名無しを指さした。


「アル!」

「……おう」


 リックに声をかけられたので名無しはスッと手をあげた。その時だった。リックの耳にとんでもない呟きが聞こえてきたのは。


「……かっこいい」

「ん!?」

「あ、なんでもないです」

「そっか、はは……」


 リックは絶対聞き間違えじゃないと何度も噛みしめながら、去って行く見合い相手の背中を見送った。


「終わったか。どうだった?」

「……アル」

「どうした」

「アル~~~~!!」


 リックは涙目で名無しに縋り付いた。名無しはびっくりしながらただそれを見ていた。

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