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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第三章

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57話 宴の終わり

「はあ……はあ……クレン派の奴らめ!」


 舞台に上がり、聖人リアンに扮したリックは中々の迫真の演技である。


「おかげで深手を負ってしまった……私はもう駄目かもしれない」


 息荒く、がくりと膝をつくリック。チラリとガウンをめくって観客の村人に傷跡を見せる。そこにはソーセージがぶら下がっていた。くすくすと笑い声が起こる。


「も、もし……」


 そこに反対側からにゅっと名無しが顔を出した。おしろいを塗ったその顔に一瞬観客は静まり返り、次の瞬間大笑いが起きた。


「あれ、アルよね?」

「ぶぶぶっ、あの顔……っ」


 名無しが神妙な顔をしているのが余計におかしかったのか引き攣ったように笑っている者もいる。


「なにやってんの、アル! 出てきて次の台詞!」

「あ……」


 リックが小声名無しを促した。名無しは慌てて舞台に上がった。ワンピース姿のその格好にまた笑い声が起こる。


「似合ってるぞーっ」


 早速ヤジが飛ぶ。名無しはその声に早速次の台詞が分からなくなった。


「アル、坊様だ」

「あ! お坊様! どうされました!」

「そこの方、怪我をして息も絶え絶えです……どうか助けてください」

「分かりました」


 名無しはリックをお姫様でも運ぶように横抱きにした。あっさり持ち上げられたリックを見て観客はまた笑う。


「たくましいーっ」


 なぜかおかみさん方の黄色い声を浴びながら二人は退場した。そして追手達の演技が舞台上で始まる。


「アル……ひやひやさせんなよ」

「む、すまん」


 軽くリックに謝っている間にすぐに再び二人の出番がやってくる。


「わー、あなたのおかげでずいぶん具合がよくなりました!」

「まー! それはよかった! ですわ!」


 名無しのあまりの棒読みに予期せぬ笑いが起きる。名無しはへんな汗が背中を流れていくのを感じていた。


「それではお礼にあなたに神の話をしてあげましょう」

「いいえ結構です! 私は人殺しの娼婦。救う神などありません!」

「いえ、神はそんなあなたも見捨てません」

「お坊様、どうすれば私は救われますか!?」

「アル……ちょっと声張りすぎ……えー。これからは人の為に生きるのです。あなたが奪ってきた以上のものを人に与えるのです」


 リックは真っ赤になって台詞を怒鳴る名無しに呆れながら台詞を返した。やがて舞台は娼婦アリシャの独白に変わった。


「ああ、リアン様は神は私を救ってくださると言う! だけど本当かしら! そうだ! リアン様を誘惑してみよう! 娼婦の私の誘惑に負けないリアン様の言う事なら信じられる!」


 そして名無しの扮するアリシャは眠るリアンの元に向かう。アリシャがリアンに口づけするふりをしようとかがみ込んだ時だった。


「うわっ」

「ええっ」


 本当なら、アリシャの動きを察知したリアンがそれを止め、諭すというシーンだった。ところが長いスカートに足を取られた名無しがそのまま倒れ込んできた。ごちーん! と二人のおでこがぶつかる。


「ぎゃーっ!」

「わはははははは!」


 客席から悲鳴と笑い声。リックは名無しを睨み付けた。


「なーにやってんだ! アル……アリシャ!」

「す……すまん。あーえっと、神様の事は信じます……?」

「それでよし!」


 二人はアクシデントを起こしながらも強引にシーンを続ける。そしてすっかり動けるようになったリアンがまた旅に出る日が来た。


「リアン様、これから私は人の為に生きます」

「ああ、達者で」


 そこに追手がやってきた。アリシャはローブを纏いリアンのフリをして引きつける。


「リアン様、人から奪い続けた私が与えるものは私の命です!」


 そう言って岩の舞台装置から名無しが姿を消すと、客席から鼻をすする音が聞こえてきた。無事に逃れたリアンは南の地に着きそこで新しい教会を建てる。


「ああ、ここにも神の救いがきました」

「南の地の民よ。聞くがいい。神の為に死んだ尊い女性がいたのだ」


 リックの最後の台詞が終わり、村の聖人劇の幕は閉じた。割れんばかりの拍手が湧き上がった。


「お、終わった……」


 名無しは言い様のない疲労感に襲われて膝に手をついた。


「ほら、挨拶しなきゃ」


 再び舞台上に現れた演者に拍手の音が降りかかる。


「……リック達による聖人劇でした。今年はまぁ……マシ……良かったのではないでしょうか」


 司祭様からもそう言ってもらった。今年はまだまともに見て貰えたみたいである。


「パパーっ!」

「クロエ」

「ぷぷっ。そのお顔! パパもやるじゃん!」

「はは……」


 名無しはとっととおしろいを落とそうと教会の中に入った。


「おい、化粧を取りたい」

「はいはい」


 元の農民の服に戻った名無しはリックに肩を叩かれた。


「おい石頭」

「だからごめんって」

「よく頑張った! いえい!」


 リックは名無しをがっしりハグした。


「じゃあ来年からはアルが中心で頼むな」

「……はっ!?」


 リックの突然の言葉に名無しは呆然とした。


「お、俺はこういうのは向いて無い……と……」

「だってさ、俺結婚するんだもん。来年はそれどころじゃないかもしれないしさ」

「へっ!?」

「……だ・か・ら! 結婚!」


 リックが結婚なんて名無しは初耳である。


「え? いつ?」

「いやー、それは分からないけど。だってこれから見合いだからさ」

「見合い……」

「いやぁ、緊張するなー」


 名無しは大いに戸惑っていた。見合いもまだなのに結婚後の事を考えているのか……? と。しかしよく考えてきたら身の回りに結婚するような人間も今までいなかったのでよく分からなかった。


「そういうもんなのか……?」

「あっ、そうだアル着いてきてくれよ」

「俺が……?」


 リックは軽い感じでそう言ってニコニコ笑っている。名無しはなんだか面倒な事にまた巻き込まれているのでは、と口の端をひくひくさせていた。


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