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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第二章

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47話 二人の『アル』

「はい、毎度ありーっ」

「はいどうも」


 お手入れ用の軟膏を買ったエミリアに他の土産物屋からも声がかかった。


「聖都訪問の記念のカップにお皿もあるよ!」

「名物聖都土産のプチケーキのセット!」


 それらの品物を聞いて名無しとエミリアは顔を見合わせた。


「エミリア、聖都にはまだついてないよな」

「……うーん、ユニオールからの物品の出し入れには結構規制がかかりますから……ここで買った方が楽ちんなんでしょうね」

「……あまり聖都と関係ないものもあるみたいだが」

「ふふふ……商魂たくましいですね」


 エミリアは活気ある街の様子に微笑んだ。エミリアは周囲を見回している名無しに話しかけた。


「クロエちゃんにお土産は何か買うのですか?」

「……帰りにしようと思う。荷物になるし」

「うーん、じゃあこれとかは?」


 エミリアは土産物屋の店先にあった聖都の紋章をモチーフにしたリボンを手に取った。


「アルは忘れてそのまま帰りそうですもの」

「……む、そうか?」

「これなら荷物にならないですし。そうだ、お世話になったし私が買います」


 エミリアはそのままリボンを持って会計に向かった。すると店員がエミリアに聞いて来た。


「お嬢さん、リボンもいいけどメダルは買いましたか?」

「え?」

「ありがたーい聖句とユニオールの中央教会の像をあしらった定番の土産物ですよー」

「えっと……それは……」


 自分はその教会に帰るんだが、とエミリアは心の中で思った。すると、隣にいた名無しがその小さなメダルを手にした。


「それは俺が買おう。エミリアの土産に」

「お返しのつもりですか? いいですって」

「はいはいご両人、二つ買えば解決、解決! ね?」


 一瞬揉め合った二人に店員はそう声をかけた。


「サービスで裏面に名前を彫ってあげますからね? お二人の名前は?」

「エ、エミリアです……」

「……アルフレッド」

「はいはい、では『エミリアからアルフレッドへ』と『アルフレッドからエミリアへ』ね!」


 勢いのいい店員に押し切られる形で二人は記念メダルを買う事になってしまい、再び違いに顔を見合わせた。


「はいできた! 今日の記念に大事に持っておくといいよ!」

「……どうも」


 メダルを受け取った名無しは微妙な面持ちでエミリアに片方のメダルを渡した。エミリアは急に気恥ずかしくなってそれを受け取りながら落ち着きなく周囲を見渡した。


「ところでライアンとフレドリックはどこにいったんでしょう」

「ああ、そういえば……」


 その時、通りの向こうからライアンとフレドリックがやってくるのが見えた。


「なんではぐれてるんだ? アル、エミリア!」

「……なにか買ったのか?」

「ああ。これを買った」


 ライアンは嬉しそうにカップを差し出した。いかにも土産物の量産品のカップだ。


「ふうん……」

「底にローダックの国旗とユニオールの紋章が描かれてる。おもしろい」


 それはとても王族が使うべき食器ではなかったが、ライアンは満足そうだった。


「少し疲れた。休憩がてら何か食べよう」

「はいはい」


 一行はどこか軽食と飲み物を出してくれそうな店を探して再び移動をはじめた。エミリアは包みから先程のメダルを出して手にのせた。そしてその裏に刻まれた文字を小さく呟く。


「アルフォンスからエミリアへ……」

「なにやってる、行くぞエミリア! アル!」

「は、はい!!」




「……アル……」


 低くくぐもった呻き声が、暗い室内にやけに響いた。締め切られた窓は厚いカーテンに覆われよどんだ空気が籠もっている。


「……アル」

「その呼び方、やめてくださいませんか。もう子供じゃないんですから……兄上(・・)

「何をしにきたのだ……アーロイス」

「何って見舞いですよ。病の兄を見舞うのは当然じゃないですか?」


 苦しげな息を吐き、寝台に横たわるのはこの国の第一王子ロドリックだった。そしてその寝台の前に据えられた椅子に座っているのはこの兄に代わり王太子となったアーロイスであった。

 アーロイスは不機嫌そうに投げ出した足を組み直した。


「兄上もついてない……ライアンが療養先で失踪したかと思えばご自身も病に倒れられるとは」

「……アル。お前は……」

「……お大事に。では」


 アーロイスは席を立った。そして自室へ戻り、窓を開いた。アーロイスの部屋で待機していた大臣のフェレールは外の光の眩しさに少し目を細めた。


「……息が詰まる」

「いかがでしたが、ロドリック様のご様子は」

「フェレール、たいしたものだな。病人そのものだった。典医の回復魔法も効かないそうだ」

「古き呪術の法だそうで……」

「兄上はあのまま生かさず殺さずで構わん。さがれ」

「はっ……」


 フェレールが退出し、一人となったアーロイスはため息を吐いた。


「ライアン……か……どこに行ったのか……」


 アーロイスはライアンを赤子の頃から知っている。何事も飲み込みの早い、聡明な子供だった。欠点と言えば自尊心が高すぎるきらいがあったが、やがて王位に就くことを考えればそれもまた美点だった。


「……それでも摘まなくてはならない。邪魔な芽となるものは……」


 アーロイスは窓の外を眺めた。その下には庭園が広がっている。かつてそこで兄夫婦と生まれたてのライアンと一時を過ごした白い東屋も見える。アーロイスは王位の為にそういったものを捨て去り、臆病さを慎重さに変えて進むしかなかった。

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