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最強の暗殺者は田舎でのんびり暮らしたい。邪魔するやつはぶっ倒す。  作者: 高井うしお
第一章

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26話 雌狐たち

「あら、見ない顔ね」


 ジャンヌが値踏みするように名無しを見た。


「紹介するよ。最近村にきたアルだ」

「まぁ……一緒に乾杯しましょ」


 ジャンヌはテーブルに椅子を引き摺ってくるとエールのジョッキを持って来させた。


「それじゃ、カンパーイ」

「……ああ」


 グッとジョッキを傾けるとジャンヌのあらわになっている胸元に、エールのしずくがたれた。


「あーらいけない」

「ジャ、ジャンヌ……」


 見せつけるようにそれを拭うジャンヌを見てリックは顔を赤らめた。


「あんたはリックと知り合いなのか?」

「そうよぉ。じっくり知り合ってるわよぉ」


 そう言いながらジャンヌはリックにしなだれかかる。それを聞いて名無しはなるほど、と思った。娼館ではないが、ここの女給は口説けば体も開くらしい。


「ちょっとジャンヌ、そんな二人も独り占めしてずるいわよ」

「ミカエラ、馬鹿いってないでこっちきたら?」


 ジャンヌが陣取っているテーブルを見て、別の女給も寄ってきた。


「リック……」

「なぁに、多少羽目を外したって分かりゃしないさ」


 リックはそう言いながらジャンヌの膝をくすぐって、手をつねられていた。


「ねぇ、男前さんお名前は?」

「……アル」


 ミカエラという女給に名を聞かれて憮然としながら答えた。ミカエラはそんな名無しの様子などお構いなしにぐいぐいとコルセットに持ち上げられた胸を押しつけてくる。


「……」

「おい、羨ましいな! アル」

「そうか?」

「あらリック。私じゃ不満な訳?」

「そんな訳ないじゃないか」


 ミカエラはどうにか名無しに取り入ろうとしている以外は無害そうだが、そもそも名無しは人に密着される事自体が苦手だ。ただ、リックが楽しそうにしているのでその場に留まっていた。


「ねぇ、あんた結構……見た目によらずがっしりしてるのね」

「アルは王都で護衛をしてたそうだよ」

「あら、だから逞しいのね」


 ミカエラの指がつつ……と名無しの胸板をなぞった。名無しは飛び退きたいのをグッとこらえていた。


「なんだ、アル。酒が減ってないぞ」

「俺はもういい」

「そっか……俺もだいぶ酔ってきたな。部屋に引き上げるか」


 名無しはこくりと頷いた。とっととへばりついているこの女から逃れたい。


「じゃあ、ふふふ。一緒に遊びましょ」

「そ、そうだな。な、アル!?」

「いや俺はいい」


 同意を求めてきたリックに名無しは首を振って答えた。


「大丈夫だって! ここの女達は口も固いぜ?」

「そうよ、口だけは尼さん並みに固いわよ。うふふ」


 その言葉で名無しはふとなぜかエミリアの顔を思い浮かべた。


「結構だ」

「そんな……あ、もしかしてアルは女は初めてか!?」


 頑なな名無しの様子にリックはハッとして小声で聞いて来た。


「……違う」


 名無しは女と寝たことなら一応あった。組織のそういった色事を専門にしていた女に一通りの手ほどきは受けたが、名無しは大して興味を持てなかった。


「え、そうか。あ! じゃあ、もしかして……?」


 リックは名無しを見つめながらそわそわと自分の両腕を掴んだ。


「おい……何を考えてる」

「俺、そういうの偏見ないから!」

「違うぞ」


 名無しはとんでもない勘違いをしたリックを置いて部屋に戻る事にした。


「リックは存分に楽しんだらいい」

「お、おう……」


 そう言い残して名無しは客室のベッドに潜り込んでさっさと寝た。




「いやー、すまんな。昨日はちょっと飲み過ぎたかな」

「気にするな」


 翌朝、妙に顔をつやつやとさせたリックが部屋まで迎えにきた。


「……帰ろうか」

「ああ」


 こうして二人はソリに乗って来た道を引き返した。


「パパー!」


 村に戻るとクロエが名無しに飛びつく。その周りをラロが興奮気味にぐるぐると回っていた。


「ほらクロエ。お土産」

「うわーあ、お菓子! パパありがとう!」


 クロエは大喜びで名無しの首にかじり付いた。


「……ん?」

「どうしたクロエ」

「パパ、なんかお花みたいな匂いがする……?」


 名無しはぎくりとした。クロエが気づいたのは昨日の女給の香水だろう。


「……ちょっと体を流してくるな」

「うん……?」


 不思議そうな顔をしているクロエを置いて、名無しは村の井戸に向かった。そして上半裸になると頭から水をひっかぶった。


「……なにしてるんです?」


 振り返ると水桶を抱えたエミリアが立っていた。冬場に井戸で水浸しになっている名無しを見て驚いた顔をしている。


「……水浴びを……」

「なんで?」

「……酒の匂いが」

「ああ……リックと随分飲んだんですね」

「まあな」


 名無しはシャツを掴むとそれで雑に水滴をぬぐった。そんな名無しをエミリアはじっと見ていた。名無しの引き締まった上半身には無数の小さな傷がある。それは幼い頃からの歴戦の名残であった。


「……どうした?」

「え、あ……すごい傷だと思いまして」


 そう言ってエミリアは自分が半裸の男を凝視していた事に気が付いて頬を赤くして俯いた。


「古傷だ。もう痛みもない」

「そう、ですか」


 名無しはシャツを掴んだまま、素肌に上着を着込んだ。


「はーあ、この寒いのに……自分で水汲んでこいとか」


 そこにやってきたのはリックである。リックは井戸端にいるエミリアと名無しを見つけるとぎくりと足を止めた。


「あー……エミリアさん……」

「あらリック。……ん?」

「どどど……どうしました?」


 リックの体から漂う香水の匂いに気づいたエミリアの顔つきが険しくなる。


「随分、楽しい飲み会だったんですね?」

「俺は女は買ってないぞ」

「お……おいちょっとアルぅ!!」


 晩冬の朝の空に、リックの悲鳴が響き渡った。


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