最終話 パンじゃなさそうなパン
俺たちのパン事業も軌道に乗り、「オルフェ食堂」はパンも定食も出す人気店として王都だけでなく、全国で知られるようになった。
パンの種類も増えて、最近だと昼の部に店内で注文する客もいる。といっても、アンパンなんかは食事という感じじゃないから、特定のものだけが出ているけど。
「牛丼と、それとカレーパン一つな!」
また、注文が入る声が聞こえてきた。
そう、あのあとカレーパンなるものがメニューに加わったのだ。
ちなみにこれはリルハさんが思い出したものじゃない。
ある日、レトが夕食中、こう言い出したのだ。
「このカレーってパンにつけてもおいしそう」
たしかにカレーライスとして出現していたので、ライスとあわせる必然性があるように思っていたが、カレーそのものはソースだからパンにつけることもできる。
それで試してみたら、問題なくおいしかった。
「これ、いいですね! まかない裏メニューみたいでいいですね! 背徳感すらあります!」
サンハーヤの言う背徳感というのは明らかにおかしいが、カレーにパンがおいしいのは間違いない。
「あの、オルフェさん、もしかしてなんですけど、カレーパンっていう料理、あるんじゃないですかね?」
そこでサンハーヤが思いついたようにこう言った。
「えっ? でも、パンに入ってるの、甘い系統のものばかりだろ。ジャムとかチョコとかそういうのだったし」
「甘いカレーが入ってるかもしれないじゃないですか」
甘いカレーを想像して、口の中に変な味が広がりそうになった。イチゴ味っぽいカレーとかきついぞ。
で、ダメ元で召喚したら、出てしまったのだ。
とはいえ、フォルムが明らかにこれまでとまったく違う。
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ご注文の品をお送りいたします。
料理名:カレーパン
一説にはピロシキからヒントを得たとかいった話もあります。日本を代表する惣菜パンになりましたね。ちなみに、パンを揚げるという文化は本来ヨーロッパにはなかったようなので、中国の揚げパンの発想かもしれません。ピロシキ的なものも祖先は同じかもしれませんね。というか、調理法的にパンではないですね。
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「これ、どこがパンなの?」
「レトの言うこと、わかる。これ、パンって呼ぶのか?」
とにかく俺たちはそのカレーパンをかじってみた。中にカレーが入ってることはだいたいわかってたし。
食べた瞬間、これは絶対にメニューに加えようということで意見が一致した。
むしろ、これまでのパンでは足りてなかったボリューム感を完璧に満たしてくれているとさえ言える。
こうして、即座に朝のメニューにも、昼のメニューにも加えられ、爆発的にヒットしているというわけだ。
昨日も、「二百個くれ」と軍から依頼があった。仕事終わりの軍の慰労で配給するのだという。たしかにパン程度なら輸送できるレベルだしな。
もはや、「オルフェ食堂」は完全に王都のお店として定着した。
「オルフェさん、カレーと牛丼です!」
「味噌ラーメン、しょうゆラーメン」
「ぜんざい二つ来ました!」
おっと、ぼうっとしていると、また注文がどんどん入った。
飲食店って長くやるのは難しいっていうけど、このお店の場合はなんとでもなりそうだな。そう冒険者たちでいっぱいの店を見て、俺は思った。
俺たちはまだまだ食堂でやっていくぞ。
今回でお話は最終回といたします。端的に言うとネタが尽きました……。本編はこれでおしまいですが、次回はあとがきを更新できればと思っております。




