48 新しい三つのパン
リルハさんが教えてくれたのは、クリームパン、ジャムパン、チョコパンの三種類だった。なんだかんだで記憶のどこかにはリルハさんもあったようだ。
今回は、リルハさんの記憶が完全に正しかった。
一切の回り道なく、しっかりパンを召喚できた。食べる前から三つとも出してやったぐらいだ。
=====
ご注文の品をお送りいたします。
料理名:クリームパン
はっきり言って、なかなか主役にはなれないんですが、このチープな味を食べると、童心にかえったりしませんか? 親のつけてるテレビを見ながら、クリームパンかじってた小学生の頃を思い出します。
=====
=====
ご注文の品をお送りいたします。
料理名:ジャムパン
ジャムは大昔からありますが、こんな使い方をしたパンはヨーロッパにはありませんでした。多分、「あん」を包むという概念がなかったせいでしょうか。あと、やわらかなパンでないと包めませんから。
=====
=====
ご注文の品をお送りいたします。
料理名:チョコパン
たまにパン屋さんでなぜかチョコパンだけ、上にキャラクターの顔が描いてあったりしませんでしたか? 某パンのヒーローの顔がなぜかチョコパンに描かれてました。そのキャラの顔にチョコ入ってないだろと思ったものでした。あと、猫のロボットの顔が描いてる店もありました。
=====
なんか、説明が思い出語りっぽい。
しかし――いざ、ならべてみると、少しばかり空しい。
「全然、わかんない。すべて一緒に見える」
レトから厳しい指摘が飛んだ。おっしゃるとおりなので、そこは反論の言葉もない。
「ですよねえ。これ、シャッフルしたらまったくわかりませんよ。むしろ、どれがジャムパンでしたっけ?」
サンハーヤも、じぃ~っと、いかにもやわらかそうなパンを一つ一つ検分している。
「しまった。適当に置いたので、ジャムパンがどれか判断できん……」
悩んでもわかるわけもないので、リルハさんの提案で全部、半分にカットすることにした。
ちょっと黄色がかった白色のやつがクリームパン、黒いのがチョコパン、赤いのがジャムパンだ。
「チョコパンのチョコって何? レトは知らない」
「うん、俺も知らない。多分、俺の世界にはまだないものじゃないか?」
「名前を出した私が言うのもアレなんですけど……色の見た目からして、あまり食欲をそそりませんね……」
リルハさんが顔をしかめている。嫌な色だよな、これ……。インクみたいな色だ。
「そして、ジャムパンは、これ、イチゴジャムですかね。ジャムを入れすぎな気もしますけど」
たしかにこんなにたっぷり入れてるパンはあんまりないかな。普通はパンの上に塗るものだもんな。
「私はこの世界の新参者ですけど、ここのパンはジャムを練りこんだものはあったかもしれませんけど、こういうタイプのパンはないですね」
リルハさんも食べたことはないからな。
「ま~、まずは食べてみないことにはわかりませんからね。まずはクリームパンから」
サンハーヤが口に入れる。こういう時、本当に抵抗なく、さっといけるよな。パンだから問題ないとは思うけど。
「あっ、こう来ましたか。こう来ましたか~」
「説明が全然わからん」
これでわかったら逆にすごいぞ。
「知らない人と出会ったけど、ああ、この人と友達になっても絶対安心だって感じる時、あるじゃないですか。ああいう感じです。善良な人の味です。たしかに朝なら、これでいいですよね」
やっぱりまったくわからないので自分でも食べてみる。
「なんとなく、わかる!」
斬新な味でもなんでもないのだけど、大きく外すことも絶対ない、この安定感。この手堅さ。
「神の発言にしては庶民的すぎるかもしれませんが、小腹がすいた時、こういうの家にあるとうれしいですね」
「食欲ない朝でもこれなら食べれそう」
クリームパンについてはわかった。
次はジャムパンをサンハーヤがぱくりと口に入れていた。これは一番味の想像がつく。
「安そうなフォルムなのに、ジャムがたっぷり入ってるせいで贅沢をしてる気持ちになりますね。それと、これは重要なことなのですが、手がべたつくことがありません」
「それ、重要かと思うけど、たしかに外でジャムを使うのってできないもんな」
これなら、ダンジョンの中でもかじれるのではないか。冒険者に売るとなると、かなり大きいかもしれない。
「ふにゃふにゃのパンにジャムがよく合う。悪くない」
パンにジャムが合わないわけはないので、これはとくに心配はなかった。
さて、問題は最後のチョコパンだ。どんな味なんだ? 色が色だけに想像がつきづらい。
しかし、やっぱりサンハーヤは平気でぱくついた。
この勇気は評価しないといけないと思う。召喚した本人でも、これはためらう。
「お菓子ですよ! 絶対にこれはパンじゃなくてお菓子ですよ! 見たことないジャンルのお菓子ですって!」
「サンハーヤ、声大きい。レトの耳、変になりそう……」
実際、さっきより二倍ぐらいの音量だった。
「いや、ほんとにお菓子なんですよ、これ! 口の中、べたべたしますけど、いやなべたべた感じゃないんです。むしろ、もっとべたべたにしろって味なんですよ!」
どことなくいやらしい表現だなと思いながら、俺も一口。
まったく食べたことない食品なので混乱した。
これはクリームの一種だと思うのだけど、どことなく重い。しかし、それがやわらかいパンにはさまれることで、重さをちょうど緩和している。
そして、いつまでも舐め続けていたいような、ほどよい甘さ。
「いけるぞ、これ! これは絶対売れる!」
「これはお子さんも喜ぶんじゃないですか? 神の世界でも売れますよ!」
「レト、もう一つ食べたい」
チョコ、なんかわからんが、新しい食べ物に出会えたことを喜びたい。




