表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生贄になった俺のけしからん二週間  作者: 荒川 晶
第六話 反乱軍と戦争
33/51

反乱軍と戦争 その7

 セイントを横目で見やる。奴は何も言わない。


「戦いたければ、自分の信じる物のために戦えよ。お前らのいう信じる物ってなんだ。女のプライドか。男のプライドか。はたまた鍵か? そんな物のために命張ってんのか」


 静けさが辺りを包んだ。だが、その静けさも束の間だった。


『くだらない』


 セイントがやっと言葉を発する。

 その一言で俺は眉間に皺を寄せた。


「くだらない、だと? 命を捨てるんだぞ。何がくだらないんだ」

『くだらないものはくだらない。お前達地球人も所詮人間だ。我らのような、高貴な存在でもないくせに』


 身動きせず、ただその言葉を聞いていた。すると、あゆむが黙って銃を手にとりだす。


「何があっても、セイント、私達反乱軍はお前を許さない」


 彼女は一発、それをセイントに向けて放った。セイントには痛くも痒くもないだろうが、これでいい。

さあ、始まるぞ。


「おい!! そこの女! 今何をした!」


 男が刀のようなものを抜いて前に出た。それをあゆむに突きつける。


「お前らもそれでいいのか! 勝手に反乱軍に好きに言わせといてよ!」


 その男の一言で男達は刀を、女達は銃を手に取る。


「いいわけないわ!」


 戦争を起こすこと自体は、良い気分ではないが、これはいつもとは違う。革命だ。男女でいがみ合って戦うのではなくて、守るべき物のために戦う。これが地球人流の戦いの仕方だ。


「俺らだって、こんな機械に命を張るお前らとは仲良くなれない!」


 男側の反乱軍も刀を抜く。同時に女子は銃を手に取った。


「やれ!!」


 戦争が、始まった――






『戦争が始まったら、勇人はすぐに戦場から離脱。すぐにセイントに向かって。混乱の中では簡単にはセイントも貴方に手を出しては来ないと思う。ううん、むしろ、そのまま生かして後から重い罰をかせようとすると思う。とにかく勇人はセイントからなんでもいいから秘密を聞きだしてきてほしい』


 俺はゆきなに言われた事を思い出しながら、人の間をすり抜けていった。どうか、皆生きていてくれ。そう願って。

 信者共の間を縫って、どうにかしてセイントの脇の隙間に逃げ込んだ。あっちこっちで気合いの声や叫び声が聞こえてくる。耳を塞ぎたくなる衝動を抑えて、俺はセイントの裏側へと回った。

 裏側には何もなく、ただあるのは、人が一人入れるだけのドアのようなものが二つ。そう、ここから生贄は入っていき、遺伝子を提供するらしい。そのドアの隙間に、短剣を差し込んだ。そして無理矢理こじ開けようとしたのだが、突如としてその扉は自動的に開いた。セイントだ。

 入ってやろうじゃねえか。

 重い扉を開けて中に入ると、そこには白い壁で囲まれた空間があった。空間の真ん中には横になるための台が二つ。恐らく男女が横になる場所だ。


『そこの台に横になれ。地球人よ』


 命令口調のそれにいらつきながらも言われるがままに横になる。扉は完全にロックされてしまってもうこいつの言う事を聞くしかないからだ。

 横になると同時に、俺は手足を拘束された。クソ。やっぱり横になるんじゃなかった。

 頭の方から何やらヘルメットのようなものが出てきて、俺の頭と目にかぶさるように装着される。これから一体何が起きるってんだ。


「何をしようってんだよ」


 そう俺が呟いた、その時だった。


「前島勇人」


 俺の目の前に、正しくはヘルメットに写し出された数人の人間の姿に、俺は目をぱちぱちとさせる。いやに立体的に映るのでこれが現実じゃないかと思うほどにリアルだ。


「誰だお前」

「私達は、セイントの生みの親、とでも言っておこうか」


 一番前に立っていた、白く長髪の目つきの鋭い背高のっぽは口を開く。


「お前がセイントの……」

「時間がないので手短に話させてもらうよ」


 俺の言葉を遮ってのっぽは勝手に語り始めた。いけすかねえな……。


「私達がセイントを通して前島勇人と話せる時間はわずか数分しかないのでね。悪く思わないでくれ」


 いけすかない、と思ったがいやに礼儀正しいそれに俺は首を傾げる。本当にこいつらはセイントの生みの親なのか?


「一気に話すから君もそれについてきてくれ」


 のっぽは一つずつ、的確に、でも滑るような口調で俺に語りかけてきた――






 聞けば聞くほど、俺は自分の目を、いや自分の耳を疑いそうになった。

 ――なんだって?


「そういうことだ。私達には時間がない。そろそろ、『貴族』達が気付きはじめる。君と話してられるのも、最後だ。何か一つだけ、質問を受け付けよう」


 俺は混乱する中、必死に冷静を保とうとした。そうしないといけなかったからだ。一つだけ、一つだけだ。


「この世界を、終わらせる方法はないのか」


 これしかない、俺はそう思った。

 のっぽは、しばし黙ると、「あるにはある」と告げてくる。


「だがそれは君には難しい話になる」

「なんでもいい教えてくれ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ