第5話
7月。
待ちに待った決戦の時。
何があるのかって?それはもちろん・・・・学年末テストに決まってるじゃない!勉強は毎日怠っているわけではない。むしろ毎日部活の後には必ず予習・復習をしている。でも、学年末テストで確実に咲良に勝つためには、いつも以上に勉強しなくては、と思う。
なんだって一位になりたいから!
咲良なんかに負けたくないから!
学校中のアイドルの座を奪い返すのだから!
あ~もう、絶対に勝つんだから!咲良になんて咲良になんて咲良になんて……となんだか最近いつも咲良のことを考えている気がする。恋なんかじゃないわよ!?だってそれはピンク色のふわふわしたもんじゃなくて、黒と紫が混ざったようなおどろおどろしいものなんだから。
頭の中からなんとか雑念を追い払い、机の上の参考書に目を落とす。放課後、教室に残っているのは自分一人。試験前ということで部活も休みだ。しかし、ようやく集中しかけたとき、突然「ワァーー」っと、大きな笑い声や掛け声が聞こえてくる。今日は、部活は休みのはず。よってグラウンドには野球部もサッカー部も陸上部もいないはず。不思議に思って窓から、グラウンドをのぞく。試験後にある球技大会に備えてか、グラウンドには勉強そっちのけで球技大会の練習をしている生徒が目立った。
――勉強もせずによくはしゃげるわね。うるさい。
騒がしさに我慢しきれず勉強を一時中断し、場所を移動しようと机の上を片付ける。
するとこれまた騒がしい声が聞こえてきた。
「香奈ぁ~勉強教えてっ。」
彩だ。教室の扉からひょこりと顔だけだしている。かわいこぶっちゃって。否、はたから見たら彩もすごくかわいいのだ。彩は中学の時から、テスト期間中になるとたとえクラスが違っても必ず私の教えを請いにやってくる。だが、今はそれどころではない。
「いやよ。今回私は本気なの!絶対勝つの!今から図書館行くんだから邪魔しないでよね。」
「まま、そんなこといわない。さ、図書館?行こ行こ!」
「え、ちょっちょっと~~~。」
結局、無理やり背中を押され、彩と二人で図書館に行くことになった。さすがに図書館には勉強している生徒がちらほらいる。参考書を探すもの、ひたすら問題を解くもの、2人組で勉強を教え合っているもの…その中で、室内を見渡して空いてる席を探す。人があまりおらず、窓から差し込む陽が暖かそうな窓側の席を見つけ、そこに腰を下ろすことにした。
「で、教えてほしいとこって?ちゃっちゃと終わらすわよ。」
早く自分の勉強がしたいために彩を急かす。
「はいはぁ~い。えっと、数学の因数分解のとこなんだけど・・・・・・」
それからみっちり2時間。彩がわからない問題は数学に限らず英語や社会にまで渡った。
「ありがとね!香奈!」
くったくのない、悪気のかけらもない、彩の笑顔にどっと疲れが増してくるのがわかる。
「もぉ!7時じゃない!あんたのために何時間使わせんのよ!」
「わるいわるい!今度何かおごるからさっ!じゃ、あたし帰るわ!見たい番組あるし。」
と、自分の問題が片付いたらさっさと帰ってしまった。勝手なやつめ。彩を睨みつけるが、我知らずと振り返ることもなく図書館を後にする。…もういいや。彩の勝手な性格なんて昔からの事。気にしても仕方が無いと気持ちを切り替えて時計を見やる。
「7時か・・・。」
外は少し薄暗くなってきたがまだ十分に明るい。
「もう少し残るか。」
今度こそ自分のための勉強を始めた。




