第10話
「香奈ってば!」
「えっ!?な、何!?」
肩を何度か叩いたところでようやく彩が隣にいたことを思い出す。
「見とれるほどかっこよかった?咲良君。」
「うえぇっ!?そんなんじゃないわよ!もおっ!」
目を細めてにやける彩がうっとうしく、顔を思い切りそらした。ウソだ。・・・見とれていた。確かに咲良はかっこよかった。点の殆んどは咲良が決めていた。3Pシュートも何本か決めていた。そのたびに女子からは黄色い悲鳴が上がっていて、最初はいらいらしてたんだけど、いつの間にか引き込まれていた。流れるような動きに、ポイントを決めたときの無邪気な笑顔や、仲間たちとのハイタッチ・・・。全ての咲良の動きに目が釘付けになってしまう。
悔しい。
悔しい悔しい悔しい。
咲良は本当に人を惹きつける魅力を持っているようだ。それを認めざるをえないのがどうしようもなく悔しいのだ。
「悔しい!」
「えっ?ちょっと香奈!試合最後まで見てかないの?ちょっとぉ・・・。」
悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい…
唇をギュっとかみしめながら廊下をずんずんと進む。「どこ行くの」という友達の声すらも無視して足を動かす。いつの間にかたどりついた先は弓道場だった。気を静めようと、目をつむって正座をする。
あいつの動きひとつひとつを目で追ってしまうなんて・・・胸の奥が苦しくなるなんて・・・
まるで・・・私が咲良にこ、ここコここぃしてるみたいじゃない!
――違うわよ。
これは恋なんかじゃないわ!
断固として違うわよ。ほら、どきどきするのはあれよ!不整脈よ!疲れてるんだわ、私。
それからしばらく、いくら精神統一しようと思っても心に浮かぶのは咲良の姿ばかりだった。
・・・でも、まぁちょっとは・・・ほんのちょっとよ?
ちょっとはかっこよかったし、咲良がどうしてもっていうんなら考えてあげてもいいかも。
結局試合は、1組の勝利に終わった。
香奈がいなくなったことに気づいた2組の男子はいっきに意気消沈。あれよあれよと点を取られ、点差が広がりそのままタイムアウト。1組はそのまま順調に勝ち進み、優勝まであと一歩のところで3年生チームに負けてしまった。
しかし、このバスケの試合により咲良の人気はさらに上昇。一部にしかいなかった上級生のファンもいっきに増えた。
ちなみに、香奈の試合はというと、バレー一回戦敗退。弓道以外運動オンチの香奈は全く活躍できず。一部の男子には「かわいい」「親近感がわいた」と人気がさらに上がったのだがこの事実を本人は知らない。




