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今日から君と待ち合わせ  作者: あやぺん


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32/93

発覚と追撃

 箏曲(そうきょく)部二年は仲良しですとアピールするために、昼休みに集まるようになった。

 場所は昼に人が少ないD組を選び、とりとめのないお喋りを楽しんでいる。


 今日は一朗君が大会に出場するので、朝からソワソワしてならない。

 午前中の勉強時間はわりと上の空で、お昼の時間も連絡がないスマホをチラチラ見たりして落ち着かなかった。

 午後からの部活時間では、それなりに集中できたけど、たまに「どうかな?」と考えていた。

 部活が終わってスマホを確認したら、Letl(レテル)にトークはなかったけど着信があった。

 折り返したら、わりと早く応答してくれて、「優勝しました」と言われた。

 狙っていると言っていた優勝ができたとはとても喜ばしいことだ。


「うわぁ、おめでとうございます」


「別のものって言っていた優勝祝いはなににしようかなぁ、なんて」


「欲しいものがありますか?」


「何にしようって言ったけどもう決まってて、明日、一緒に夕飯だからそれ。そのつもりで誘いました」


 明日、一朗君は大会翌日で部活がお休みなので、それを利用してバレー部の練習に付き合う。

 海鳴は成績が悪いと部活をさせてくれないので勉強がメインで、バレー部への協力は二時間程度。

 私の部活が終わるのを勉強しながら待つから、夕飯を一緒にどうかと誘われていたけど、それが優勝祝いをしてもらうための布石だったとは。


「お祝いしますね」


「話せればいいので。休みの日も会えるのかぁ。すごいな」


 今の台詞は「嬉しい」という意味な気がして、私こそ明日も会えるなんてすごいと思っていると心の中で呟く。

 彼はこれから学校に戻り、軽いミーティングをして解散だそうだ。

 実は今、学校のバスに乗っているということで通話終了。

 電話は終わったけど、「おめでとうって言われて嬉しいです」というトークが送られてきた。

 落ち着かないし、今は自分が出場するコンクールの練習を優先させているので、居残り練習はせず、自宅で自主練予定だったからそのまま一人で帰った。

 今日は両親も祖母も不在なので、地元駅からはバスを利用する。

 

 錦町駅にあるお店に寄って、スポーツタオルとメッセージカードを購入。

 喜んでくれるかなという不安はほんのわずかで、きっと嬉しいと言って笑ってくれるだろうと口元を綻ばせる。

 もしも一朗君が大会で良い成績をおさめたらどうするかを前から考えていたので、買い物にそんなに時間はかからなかった。

 家に到着すると、親も祖母もいないようで誰も出迎えて出迎えてくれる気配がない。

 と、思ったら弟が居間の方から顔を出して、「おかえり。動画撮影したいんだけど」と告げた。


「えー。この間も撮影したでしょう?」


「この間って、二週間も前だから」


 今から私服に着替えるのも、動画に映して良い服を考えるのも面倒で、計画性がないと文句を言うと、「服のことは問題ないし、俺は忙しい」と反論された。


「私だって忙しいよ」


「学校の部活の往復だけなのに、どこが忙しいんだ」


「りっ君の部活は毎日じゃないから、私よりも暇でしょう?」


「俺は動画編集と脚本作りと絵の練習と作曲で忙しいんだ。働いていない琴と違って」


 (りつ)は動画収入があるからたまに偉そうな態度をとる。


「学生は勉強と部活が仕事なの。それに、私だってりっ君の動画出演料という稼ぎがあるもん」


「はいはい。琴も働いていますねー。さらに働け」


「もうっ! こんな風に言うならもう出演しないから」


 一朗君のお祝いを考えていい気分だったのに台無し。

 「ごめん」と謝られたけど、(りつ)は生意気さを直した方がいいから無視した。

 

「か〜み〜さ〜ま〜。頼む、なっ?」


 夢の国のキャラクターの真似をされて、ちょっと笑ってしまった。声も言い方もそっくりだったので。

 それにしつこく、「今日がいい、お願い」「頼む」とまとわりつくので、仕方がないとため息を吐きながら了承した。


「いやっふぅ! 準備はできているからよろしく!」


 律は引きこもり気味で太陽が好きではなく、暗いところが好きだというのに、性格は明るくて元気という不思議さがある。

 人見知り気味で学校などでは大人しいけれど、家族や親しい友人の前では正反対だ。

 姉弟だけど、顔も性格も似ていないとよく言われる。

 二歳差の律は成長期真っ最中で、今年ついに背も追い抜かされた。

 今日は浴衣を着るよう指定があり、祖母に頼んで居間に用意してもらったとのことだった。


 居間の隅に浴衣セットが置かれていたので、それを持って自室に行き、制服から浴衣に着替えて律の作業部屋へ向かう。

 台本と演奏する曲の譜面を読んだところ、今日弾くのは律の新曲だった。

 配信予定のMVを見せてもらい、夏に向けて和風でホラーっぽい作品だと説明を受けた。

 中学三年生の律は多才で立派な配信者。ファンも多い。

 多才というより凝り性で、引きこもり気味で趣味にまっしぐら。

 小学校三年生くらいから、大好きな歌手を真似し始め、気がついたらこうなっていた。


「琴の音channelは頭打ちというか、入り口が狭いから、俺でブーストをかけようかなって」


「|観てくれるのはきっとそうが好きとか、気になった人くらいだもんね。前に姉弟売りはありって言ってたからそれ?」


「そう。(そう)だけに」


「つまんないよ」


「うっせ」


 というわけで、今日は若い人にも(そう)を聴いたり弾いて欲しいという願いを込めて作られた『琴の音channel』と、律のメインチャンネルである『総合音楽家「Ritu」』に配信する動画を撮るそうだ。

 律の方は『新作予告』で、私の方は『弟に頼まれて初見で弾いてみた』というタイトルだが同じ内容。

 家の中だとここが一番雰囲気があるという縁側に撮影準備をしてあるということで移動。

 準備も手伝わされる時があるが、今日は弾くだけのようで助かる。 

 首なし女子の動画にはしたくないからと、おたふくのお面を渡された。

 私の方の動画では、いつものように顔より下の画角にするけど、律の方では全身が映るようにするそうだ。


「カメラが増えているのはそれ?」


「そう。収入で増やした」


 カメラの角度などを再チェックするというので、小道具が散りばめられた中にある座布団で、体育座りをしながら譜読みをして待機する。


「これ、原曲から編曲してあるね」


「原曲はさっき一回聴いただけで、その楽譜はまだ弾いてないのに分かるのか?」


「まぁね。編曲はまたお父さん?」


「そう」


(そう)だけに」


「あはは。つまんねーって言ったくせに」


「プロを無料でこき使って、いい身分ですねぇ」


 出演も演奏も良いけれど、疲れて帰ってきていきなり撮影となると、少しばかり文句を言いたくなる。

 撮影の計画性が乏しいところは律の悪いところだ。 作品作りなどは計画的なのに、なぜなのだろう。

 以前「やる気とかあるんだ」と言っていたが、この道でプロになるのなら、いや、セミプロなら、やる気がなくても計画的に実行する必要があると思う。

 そのくらいのことは、自営業の父やバリバリ働いている母も言っていそうなので、何も言わずにいる。


「たぬき顔の平凡ブスが性格ブスになったら、一生彼氏ができないからな」


「そうですねー」


 彼氏はもういるし、照れてくれるから、彼にとって私はブスではないし、性格も悪くないと思われている。私の容姿と性格が普通だという文句は言わずに、ただ聞き流す。

 一発撮りをしたい。間違えても構わないが、あまりにも不出来なのは困るということで、軽く弾いてみて、楽譜をめくってもらうタイミングを考え、律が楽譜をめくる練習もした。

 撮影を開始して、終わり間際に私のスマホが鳴り響いた。

 この曲は一朗君だと思わず手を止めてスマホを見たら、律に「マナーモードにするか電源を切っておけ」と怒られた。

 これは怒られても仕方がない。


「ったく。はい、どう……「もしもし、琴音ちゃん?」


 スマホを取ってくれたのは良いけれど、なんで勝手に応答するの⁈

一朗君の声が私のスマホから聞こえてきて、律は驚いたような顔で固まった。


「もしもし? んー、通話開始ってなってるけどな」


 しんと静まり返った部屋に、一朗君の声が響く。


「もしもし、誰ですか?」


 「なんで律が私のスマホを使うの!」と心の中で叫びながら立ち上がったら、久々に正座で演奏をしたから、しびれでよろめいてしまった。

 律がスマホをスピーカーモードにしたので、一朗君の声がさらに良く聞こえる。


「えっと、そちらこそ誰ですか?」


「彼氏」


「ちょっと、りっ君! 誤解されるようなことを言わないで!」


 二股だと思われてフラれたら許さないと律に近寄ろうとしたけど、し、しびれが……。


「あー、えっと、彼氏は俺なんだけど、君も彼氏? まさか。ふざけか冗談ですか?」


「冗談で弟です。琴、一年田中さんって表示されていたのにカモフラージュか。彼氏がいたんだな」


「あらぁ、琴音。あなた、彼氏ができたの?」


 母の声がしたから振り返る。いつの間にか帰宅していたようだ。


「……おかえりなさい」


「こんばんは、彼氏君。琴音の母です〜」


 律に近寄っていった、母が笑顔で一朗君に話しかけた。


「か、海鳴高校二年、剣道部の田中一朗です! は、初めましてお母さん。いや、お母様。相澤さんにお世話になっています」


「こちらこそ娘がお世話になっています。田中君は海鳴生なんですね」


「は、はい!」


「良かったら今度、一緒にお食事でも。ご挨拶させて下さい」


「は、は、はい! 挨拶します!」


 逆の立場なら、今の一朗君のように慌てふためく声を出しそう。


「ご都合は娘を通してうかがいますね」


「俺も行きます」


 内弁慶気味の律は小さめで低い声を出した。


「ちょっと、りっ君は来なくていいよ」


「自分だけ美味いものを食べようなんて許さないから」


「あはは。りっ君さんは食べることが嫌いじゃないってことですね。甘いものはどうですか? 好きですか? 苦手ですか?」


「りっ君さんは変なので律で。手土産ってことですか? 甘いものもしょっぱいものも好きです」


「祖父が和菓子屋なので何か見繕っておきます」


「団子がいいっす」


 律の声は遠慮がちだけど図々しいな。


「妹の趣味が料理やお菓子作りで、マカロンの蓋? 皮? クリームを挟んでない状態のものがあって、友達とどうぞってくれたんです」


 一朗君は、それを私は食べるか聞くために電話したそうだ。

 

「律さんも食べますか?」


「あざす」


「それなら量を増やしてもらいます。お母様も良ければ。じゃあ、あの、皆さん、おやすみなさい」


 緊張なのか、一朗君は私に話しかけずに通話を終了させた。


「琴音〜。いつからなの? 写真はある? 海鳴生なら安心ね」


 母に頬をつつかれた。


「恥ずかしいから言わないし見せない」


「あらあら、真っ赤」


「これはお父さんのせい」


「ツンツンしないの」


 律が母に「撮影するから出てってくれ」と言い、さらに私には「早く準備しろ」と上から目線で告げた。


「撮影するから座って。今度はスマホの電源を落とせ」


「はーい」


「見学してもいい?」と母が律に笑いかけたけど、律はいつものように「ダメ」と断って、母を部屋から追い出した。

 何も無かったというような態度の律に促されて、再度撮影を実施。

 撮影後、お腹が減ったと台所へ行ったら、祖母も帰宅していて、母と二人で料理をしていた。

 

「いじめはなさそうだし、彼氏ができたなら嫌でしょう」


 祖母が話を切り出し、「もう私たちがLetl(レテル)を見られないようにしましょう」と提案してくれた。

 母も「そうですね」と賛同してくれたため、私のスマホはプライバシーの意味で自由になった。

 彼氏の名誉を傷つけないよう気をつけること、スマホの使用制限や夜に預けるというルールも撤廃された。

「琴音はしっかり者で自己管理ができているから、そろそろ良いと思っていた」と言っていた。

 まさか、こんなにも急に24時間スマホを自由に使え、両親や祖母が私のLetl(レテル)を見られなくなる日が来るとは。

 唯一残ったルールは、GPS機能の使用だけ。


 夕食後、さっそく一朗君のアカウント名を『一年田中さん』から『一朗君』に変更。

 二人のトーク画面の背景も、スカイタワーデートの時に撮った彼の写真に変えた。

「思ったより疲れて眠いからおやすみ」というメッセージとスタンプが届いていたため、一朗君へのスマホ解放宣言は明日に持ち越すことにする。

 

 明日は一緒に登校して、放課後はデートだぁとニヤニヤしていたら、驚いたことに天宮さんからLetl(レテル)がきた。

 『同じ部活の子に教えてもらった』『藤野君に聞いてくれました?』という内容。

 いくら同級生でも、アカウントを勝手に教えるのもそれを頼むのも悪いことなのに……。

 そう文句を言ったら、あの勝気そうな天宮さんと揉めそうなので、明日、みんなに相談してからにしようと決めて、返事をしないで眠った。

 

 その日の夢は、一朗君に「お話ししたいです」と頼んだあの日に、「無理です」と断られるというもの。

 目が覚めた時に泣いていて、「理由くらい聞きたいよね……」と考え、藤野君に聞くだけ聞いてから、どうするか悩もうと決めた。

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