誤算
アビスブルーに戻ってリビングのソファーでぐた~っとしていると無言でクレールがやってきた。
「クレールただいま」
そうクレールに言ったがクレールは無表情のまま俺の膝の上に座って抱き付いた。
クレールがこうする時はかなり落ち込んでいる時にやる行動だ。だから俺は何に落ち込んでいるのか聞いてみる。
「どうした?」
「……やられた」
「やられた?」
「ホーリーランドの国王にやられたの!!うちにいるリアム・フォートレスを引き抜かれたの!!」
その内容に俺はかなり驚いた。それは俺だけではなくノワールにヴェルト、ブランもかなり驚いている。
それにクレールが普段の落ち着いた言い方をしないという事はそれだけ動揺しているという意味でもあるし、非常に不味い事態というだ。
「この事ライトさんは知ってるのか?」
「はい……他国の王を完全に舐めていました。私の油断が招いた事態です。申し訳ありません」
1度叫んだからか、クレールは落ち着いて普段の口調に戻る。それでも俺の事をコアラのようにしがみ付いたままだが。
この事を少し考えて明らかに異常な戦力が1つの国に集中している事に危機感を覚える。
ノワールもその事を考えて今まで以上に厳しい表情をする。
「父よ、これは非常に危険な状態だぞ」
「分かってる。思いっ切り戦闘系チートプレイヤーが1つの国に集中してるんだ。こうなる事を知ってたら無理にでも正義君をこっち側に引き込んでおくべきだったな」
「それはそれで難しいだろう。まだあの少年は自身の中で答えが出ていない。それなのに無理に少年をこちら側に引き込めばどうなるか分からない。だが言い方を変えればこれで人数的には五分と言える」
「こっちに来たチートプレイヤーの数は5人。最後の1人がどこにいるのか分からない以上争奪戦だな。まぁ俺達の場合は自分達から攻撃する訳ではないからちょっと違う気がするけど」
問題は最後の1人の性格とどんなゲーム内容かだ。
とりあえずここで1度整理しておく。
まず俺のゲーム能力はシュミレーションで、この『アルカディア』という育成ゲーム。
次に若葉のゲーム能力はアドベンチャーで、ゲームタイトルは聞いていないが話を聞く限り侵入系と謎解きがメインのようだ。
次の正義君のゲーム能力はおそらくRPGで、王道の勇者が魔王を倒す感じだろう。
そして最後にリアムという男のゲーム能力はシューティングで、おそらくFPSの類だろう。
俺の場合は俺自身に一切の戦闘能力はない代わりに子供達、つまり俺が育てたモンスター達が異常ともいえる戦闘能力を持っている。特にブラン達、つまりSSSランクモンスタークラスは神と呼ばれるほどのチート性能。
俺の場合は子供達を育てて身を守るしかない。でもそれ以上に俺個人の子供に対する情が深すぎるせいで足を引っ張っている様な気がする。
正義君の能力に関してはノワールとブラドの方が詳しいだろう。そしてSSランクモンスターであるブラド、つまり真祖のランクなら正義君を倒せると言っていたのでSSランクなら確実という所だろう。
ただそれは今の状態でレベルがMAXである事を想定した場合だ。
仮に他の魔物などを倒す事で経験値を得て、レベルアップが出来るというのであればどこまで強くなるのか分からない。
リアムというアメリカの軍人に関しては、おそらくレベルがあるとしてもどちらかというとプレイヤースキルの方が重要視されると思う。
だからこちらの問題はどれだけの種類の兵器を持っているのか、玉切れは存在するのか、近距離戦闘用の装備は所持しているのかどうか、相手の手札をすべて使用させないと非常に危険だ。
隠し玉として自爆覚悟の超強力兵器とか持っていたら目も当てられない。
「……この旅行が終わったらゴブリン帝国に行くぞ」
「ゴブリン帝国にか?より強力なモンスターを育成すれば――」
「そんなごり押しだけで勝てるような相手ならいいんだけどな。とりあえず本気で戦う事になった場合こちらも手数は1つでも多い方がいい。出来るだけそういう事が起きない様に進ませていくつもりではあるが、ホーリーランドがどう動くのか分からない。ただ単にホワイトフェザーの加護がなくなったからその補給程度ならいいが、この世界から見て異常な戦力が集中している現状を見て、俺達も本気を出さざるを得ないのかも知れない」
「パパ。もしかしてそれって……」
ブランの不安そうな表情で何が聞きたいのかは分かる。
でも安心して欲しい。本当にそんな事にならないように俺は最善を尽くす。
だから俺は笑ってブランの頭を撫でる。
「それだけは回避する。この世界を救う方法は分からないが、これもまたバラバラになった家族をもう1度あの家に帰らせるのが目的なんだ。それだけは絶対に成し遂げる。それ以外に興味はないよ」
まだ不安そうな表情をするブランだが、俺がそんな下らない事をする気がない事を知ったからか、少しだけホッとした様な表情をする。
だがノワールとクレールに関しては俺の目を真っ直ぐ見て、真剣な表情をする。
その瞳の強さの意味を俺は知っている。でも俺はノワールとクレールの力に頼るつもりはない。
その時は本当に、SSSランクモンスターの脅威という物がこの世界に広がってしまう事は避けたい。
そう自分の中で決めていると、若葉が不安そうな表情で、ビクビクとしながら俺に聞こうとする。
「あのドラクゥルさん私――」
「若葉は普通の女の子なんだから無理する事はない。いつも通りでいいんだよ」
「…………」
若葉はそれでも何か言いたげだったが、最後は黙った。
若葉のゲーム能力を詳しく知っている訳ではないが、それでもあの戦いたくないっと言う言葉は嘘だとは思えない。
だから戦えない者は素直に戦う必要はない。俺自身戦えないのだから、他の戦えない人に無理に戦えと言うつもりはない。
こういう時本当に俺は悔しいのだ。
子供達は戦えて、俺自身は戦えないので後ろで隠れている事しか出来ない。あまりにも情けない。
俺は拳を強く作ってからゆっくりと掌を開く。
こうやって気分を落ち着かせるのは本気でキレている時だけだ。
「とにかく、ゴブリン帝国にゴブタが今も生きてるとは限らない。というか多分寿命迎えてる方が可能性が高い。だから交渉が出来るかどうかすら分からないが一応行って魂だけでも帰って来させる。その後は……まだ見つかってないルージュとクラルテを見付ける。多分まだ行っていない六大大国のどこかにいると思う。だからゴブリン帝国の後はその2国を巡るぞ」
「ルージュはともかく、クラルテに関しては難しいだろうな。あの気紛れが神の座に居るとは思えん」
「クラルテお兄ちゃんは自由人だからね……」
「……む~」
「私、クラルテお兄様だけは好きになれません」
……散々な言われようだな、クラルテ。まぁ確かにSSSランクの中で1番軽いというか、チャラいというか、自由気ままというか……生真面目なノワールや厳格なクレールとは気が合わないだろうな。
そしてあいつは1つの所にいるのは苦手だからな……ブランみたいに大人しくしてるかどうかも疑わしい。
うん。あいつは最後にしよう。ルージュの方が見つけやすいような気がしてきた。
「それじゃ旅行が終わったらゴブリン帝国に向かう。その後は他の大国でルージュとクラルテを探す。今の内にゆっくり休んでおけよ」
最悪の事態。
それが起きないように親である俺が頑張るのは当然なのだから。




