穏やかな帰宅
スレイプニルに乗って移動している訳だが、想像以上に森が深い。
ヴェルトの背中の森は人の手によって管理されてる事で人が通れる道が出来ていたり、ある程度の間引きが出来ている様に感じるが、この森はそういった人の手によって管理されている感じが全くしない。
「これはまた随分と広大な森だな」
「この大陸の中心部に近付けば近付くほど深くなります。どうやらこの森はなだらかに中心に向かう程くぼみが大きくなるようで、実は海面よりも低いと予想されています」
「そうなんだ。でも森が深すぎてそんな風には見えないな……それじゃ足場が悪いのは木の根とかが問題か?」
「それから落ち葉などもですね。自然と落ちた葉が足元を滑らせる原因になりやすいんです」
「お前達が歩きやすい様に整備しようとか思わないのか?」
「我々にとっては十分歩きやすいので考えたことがありません。それにしても早いですね、この馬。歩きなら既に2日分の距離を歩いていますよ」
「それがスレイプニルの凄い所だからな」
だがこれは樹海と呼ぶにふさわしいほど木々が密集しているので上空から見てもボアたちの棲み処が分かるかどうか非常に不安だ。
それでも俺達は進むしかないのも分かっている。せめて分かりやすい場所があれば違うのだが……
「あの湖の所で降りましょう。あの湖の所に我々の里があります」
分かりやすい目印あったな。
スレイプニル達はその湖に向かって降りる。
里と言った場所のほぼ中心に近いからか、突然馬に乗った人間達が空からやってきた事に里のボアたちは非常に驚いていたがボルクスが居たことで少しだけ警戒心が緩む。
スレイプニル達から降りるとボルクスが里のボアたちに大声で伝える。
「みんな!最長老が言っていた人間を連れて来たぞ!!」
「本当か!」
「本当に最長老が言っていた人間なんだな!?」
「で、誰がその人間なんだ?」
里の人達が寄ってくるが……思っていたよりは人数が少ない。
流石にこれで全員ではないと思うが、色々な所から現れたのは精々数十人ぐらい。里と言うには数千人ぐらいいるんだとばかり思っていたから思っていたよりも少ない。
それでも多くのボアたちに囲まれる正義君が警戒して剣を抜こうとしていたので若葉に止められている。
手っ取り早くするために俺から名乗る。
「俺がドラクゥルだ。その最長老はどこにいる」
俺がそう聞くと、俺よりもブランの方に視線を向けた。
そして何か匂いを嗅ぐ仕草をした後に一回り大きなボアが現れる。
「私はこの里を収めるキング・ボアだ。最長老様が言う人間は君で間違いないんだな」
想像以上に丁寧な言い方をするキング・ボアに俺は答える。
「そうだ。ヘビーに会わせてくれ」
「それではこちらに。ご家族の方もどうぞこちらに」
そう言ってキング・ボアは歩き出したので俺達もその後ろを歩く。ボルクスの案内はここまでの様で、頭を下げていた。
里のボア達から1部強そうなボアたちがキング・ボアの護衛をする。その手には巨大な斧、木を切り倒すまさかりの様な物であり、普通のボアと言っても相当強いのは間違いない。
それにちらっと見たがこの里では畑なども作っている様で根菜類を中心に作っている。あと肉などの匂いはしない。一応アルカディアでは雑食なので肉も魚も何でも食べるがこの里では根菜類が中心らしい。
キング・ボアの後ろを歩いていると、木の根で作られたアーチの下を歩く。
木の根は複雑に絡み合い、かなりの強度を生み出している様で、少し触れてみたが人間の力ごときではびくともしない。
これは凄いなと感じながらアーチの下を右に左に、上に下にを繰り返していると重厚な木の扉が現れた。
「この先に最長老がおります」
「そうか。すぐに入れるのか?」
「はい。少しだけ待って下さい」
正義君と若葉が少し疲れた様子で俺達に追い付くと、キング・ボアは大きな声で言う。
「最長老様!ドラクゥルという男を連れてきました!!」
そう叫ぶと扉が開いた。
開かれた先には白毛のボア達が10体存在した。ボア達が座る場所は蓮の花のような形をしており、手前から奥に行くにつれて高い位置に座っている。
どのボアも年老いており、加齢によって白髪になってしまったのは想像に難しくない。
そんなボア達の後ろに、1体だけ超巨大な猪の顔があった。
かなり真っ白になってしまった超巨大なボアの正体こそがベヒモス。つまり俺の子供のヘビーだ。
顔を死んだ巨大な木のくぼみを使って枕のように顎を置いており、目元が長い毛のせいで瞳は完全に見えない。それでも目だと分かる所には目ヤニがこびりついていた。
俺はそんな様子を見てさっそく口に出す。
「いくら年取ってのんびりしてるといっても、目ヤニぐらいは取った方がいいんじゃないか?ヘビー」
ヘビーはゆっくりとした動きではあるが、鼻の穴を大きくして息を吸い込んだ。
それだけで若葉と正義君は吸い込まれそうになり、身体が浮いたが俺が2人を捕まえて吸い込まれないようにする。
そしてヘビーがゆっくりと息を口から吐き出すと、古い苔のような臭いの口臭を吐き出しながら言った。
『お久しぶりですの、父上。儂の事をまだお覚えとは思いませんでしたわい』
「お前にとっては2000年経ってるのかも知れないが、俺がこの世界に来たのはつい最近だ。迎えに来るのが遅れて悪かったな」
『そう悪いせいでもありませんでしたわい。確かに最初の100年ぐらいは騒がしかったが、すぐに落ち着いて、今では隠居暮らしじゃからの』
「白髪だけじゃなくて口調もすっかり爺さんになっちまって。ここに居るブランとかはまだ若いっていうのに、すっかり爺さんだな」
『ほっほっほ。仕方がありますまい。この大陸で早2000年、儂にとっては十分年を食った気がするのでな』
「それで、俺を呼んでどうした?何か面倒事か?」
『そうではないですじゃ。ただ儂らの故郷に帰る事が出来るのであれば、そこに帰ろうと思っただけじゃ。出来るかの?』
「出来るよ。俺はお前達家族を迎えに来たんだ。アルカディアに帰ってきてくれるというのであれば大歓迎だ」
『ほうかほうか。それでは引退するとしよう。子らよ、儂の後釜を無理に決める事はない。全ては時のままに』
「承知いたしました。最長老様、今までありがとうございました」
ヘビーと同じぐらい真っ白になったボア達があぐらのまま頭を下げた。
俺は早速ヘビーにアルカディアへの出入りを許可し、穴を空けてアルカディアに向かって歩いていった。
それだけで大きな地鳴りが起きるが誰も何も言わない。そしてヘビーが完全にアルカディアに入ると一番偉い白髪のボアがキングに言う。
「キングよ、これより命を下す。最長老様はあるべき場所に帰った。これにより我々の手でこの大陸を守らなければならない。その使命、心に刻め」
「は!」
「そしてそちらに居る最長老様の父君たちに歓迎の宴を用意せよ」
「承知しました」
あれ?ヘビーをアルカディアに帰しただけなのに何故か歓迎を受ける事になった。
まぁ1日ぐらいなら大丈夫かな?っという事で歓迎を受けるのだった。
種族 ベヒモス
名前 ヘビー・ドラクゥル
ランク SS
超巨大な猪型モンスター。10本の足があるのが特徴的。
身体を守る体毛は岩のように固く、1本1本が太くて長い。本来は土と同色の色をしているがヘビーの場合は老化により真っ白になっている。
ベヒモスは泳ぎも得意であり、大陸から大陸に渡り歩きながら世界中の大地の栄養を均等に均す役割を持つ。それ故にヴェルトとはまた違った方法で世界の自然を管理していると言える。




