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何故正義君と

「俺の名はボルクスと言います。この度は最長老の命令でドラクゥルという方を探しに人里に来た次第です」


 ボルクスと名乗ったボアはそう言った。

 ただやっぱり彼は周りに色んな人がいるせいか落ち着かなさそうにしている。まぁ知り合いがいるといってもこんなに居るとは思わないよな。精々数人ぐらいだと思うだろ。

 そしてこの場には何故か正義君も居る。


「なんで来たの?」

「おじさんが言ってたじゃないですか。色んな人の話を聞いて自分で決めるしかないって。だからおじさんの話を聞いて魔物の人がどんな風に生きてるのかこの際聞いておこうと思って」

「そうかよ。ならせめて黙って聞いてろよ、絶対邪魔すんな」

「は~い」


 返事はちゃんとできるんだよな。

 まぁいざ邪魔をするような事をさせたら他の人に止めてもらおう。


「それで、お前達ボアの最長老が俺に何の用だ?」

「あ、はい。最長老や私達は森を撹拌かくはんする役割を行っています。それでほとんど寝てばかりの最長老が急に目を覚ましてドラクゥルという人間を探し出してこいと言われたのでここに来ました」

「具体的に何かして欲しいとかじゃなくて?」

「特にそういった指示は受けていません。ただ見付けて連れてくるようにと」


 どうやら本当にそれだけのようだ。

 そうなると聞いて早いのはその最長老の名前だ。最低でも名前持ちならどの子なのか分かるだろう。


「それじゃ最長老の名前は」

「ヘビーです」


 その名前を聞いて俺は驚いた。

 ヘビー、種族はベヒモスと言う超巨大な猪だ。体長は100メートルであり、等間隔に足が合計10本ある。

 それ以外はただの猪だが、デカ過ぎて住む場所に困るはずだ。あいつがこの大陸で生きてたとはな……


「それじゃヘビーやお前達がやっている森の撹拌も当然と言えば当然か……」

「おじさん。森の撹拌って?」

「オーク・ボア達の習性と生態に関係してくるんだが、彼らは森の土を掘り返して木の根を食べたり、幼虫なんかを食べて生きてる。その時に森の土を掘り返す事で森の栄養が均等に行き渡るんだ。数が増え過ぎるとそれはそれで問題だが、町の人達の様子を見る限りそういった事もなさそうだしな」

「俺達の生態にも詳しい。やはり最長老が言う方はあなたの様ですね、是非1度我々の村にお越しいただけないでしょうか」


 そう言ってボルクスは頭を下げる。

 でも俺達は船で来ている訳であり、もしここで船の時間に乗り遅れた場合は次の上陸日まで船を待ち続けなければならない。

 その事を少し考えていると、ライトさんは言う。


「上陸日である期間は今日を含めて5日間です。その間でしたら自由に行動できますよ」

「5日間か。その間にヘビーに会う事は出来るか?」

「最長老が居る場所までは人間だと歩いて3日はかかります。夜も歩けば問題ありませんが……それは無理ですよね」

「いや、多分大丈夫だな。馬で移動する事は出来るか?」

「それは非常に難しいです。この大陸は中心部に進めば進むほど森が深くなります。木の根などが邪魔をして馬では通れないかと」

「問題ない、空を行く。たまにはスレイプニル達にも運動させないとな。直線距離で行くならどれぐらいだ?」

「それでしたら翌日の昼には着くかと。しかし本当に――」

「だから空を行くから問題ないって。ちょっと行ってくる」

「あ!私も行く!!」


 俺がスレイプニルを呼んでいこうとする前にブランが俺にしがみ付いた。

 スレイプニルは5体いるので1体はボルクスを乗せて、もう1体は俺が乗るからあと3人は行ける。と言うかブランは軽いから俺と一緒に行けるだろう。

 そう思っていると意外な奴が手を上げた。


「それなら僕も連れていってください。僕もその最長老という相手に会ってみたいです」


 正義君が手を上げた。


「え、マジ?俺と行動を一緒にする以前にそっちの王様と一緒に居なくて大丈夫なのか?」

「そっちは大丈夫ですよ。元々僕1人で上陸しましたし、王様達は他のお仕事があるからっと言って上陸期間は別行動をしているんです」

「それでも一緒に居ていいのか?他の魔物とかに急に襲い掛からない?」

「僕だって見てみたいんですよ、僕の知らない物を」

「は~。それじゃ俺の言う事は絶対だからな。魔物相手だからってすぐに相手を殺そうとするなよ、それが守れるのであれば連れて行ってやる」


 なんだか言っても聞かなそうだな~っと思ったので約束だけは確実に守ってもらう。

 俺の言葉に頷く正義君に、正義君の手綱を握れそうなのは……


「若葉、悪いが一緒に来てくれ。勇者君のお守り頼む」

「え!?私ですか!!私戦闘能力皆無なのに勇者君のお守りって、暴れそうになったら止めろって事ですよね!!」

「そういう意味合いもあるけど基本的には勝手にどっか行ったりしない様に見張ってるだけでいいから、ゆる~く行こう」

「絶対口では簡単に言っても本当はハードな仕事だこれ」

「帰って来たら好きなもん実物で支給するから、あの船の中にあるお高い店で服でもアクセサリーでも何でも買ってあげるから」

「お金で解決しようとしないで下さいよ……はぁ。でも分かりました。社長命令っという事でついていきます」


 若葉も渋々という感じで着いて来てもらう。

 他のみんなはここに残るようで一緒に行くとは言わなかったのでスレイプニルは4体で大丈夫そうだ。


「若葉、正義君は一緒のスレイプニルに乗ってくれ。ボルクスは馬に乗れるか?」

「乗った事はありません。それ以前に俺が乗っても大丈夫なんですか?」

「大丈夫だと思うよ、スケベでもAランクだから。あと若葉は正義君を一緒に乗せてやってくれ」

「分かりました。それじゃ正義君、一緒に乗って」

「えっと……これ普通の魔物じゃないよね?足8本もある馬なんて初めて見たし」


 スケベは余計だと2体鳴いた。どうやら彼らはペガサスからの進化した個体だったらしい。

 突然8本も足のある馬が登場して、さらに俺達が乗った事で地元の人も観光客も驚いているが一々気にしていては身が持たないのでさっさと行く。


「それじゃ上陸日が終わる前には帰ってくるから!」

「一応気を付けてな」

「……いってらっしゃい」

「無事に帰ってくる事を祈る」

「お気をつけて」

「お兄さんいってらっしゃい!」

「それじゃ行くぞ、スレイプニル」


 みんなから声をかけられた後、スレイプニル達はいなないた後走り出した。

 爆走するスレイプニル達は途中から地面から足が離れ始め、完全に空を飛ぶとボルクスが悲鳴を上げた。初めての人は叫ぶのまでが一緒のようだ。

 そしてそれは正義君も一緒だった様で。


「と、飛んでる!馬が空飛んでる!!」

「正義君落ち着いて!本当に落っこちちゃいそうだから!!」


 中々に騒がしい小旅行になりそうだ。

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