工場見学
あとから聞いた話によると、どっかの大陸からはぐれたワイバーンがこの大陸に近付いて来たのでそれを迎撃したっとの事だ。
誰が迎撃したのかなどは聞いていないが、恐らくあの男だろう。
アメリカの元軍人か。いや、元という言葉もおかしいか?俺達と同じく突然この世界に送り込まれたのだから現役の軍人かも知れない。
その後ワイバーンは海に落ちたらしく、被害などはなし。遊園地を含めた他の施設なども無事再開した。
彼の攻撃から察するに戦車やヘリコプターのような乗り込む兵器はもっていないが、逆に言えば手で持つ事が出来る兵器はすべて使用可能とみておくべきかも知れない。
楽観視するよりはマシと思うが、問題はどんなゲームなのか、だ。
対人戦を想定したFPSとかならある程度大丈夫かも知れないが、どっかの宇宙人や巨大な敵の戦闘機を破壊するようなゲームだった場合うちの子達でも大怪我をする可能性があるかも知れない。
ミサイルが出て来たという点でも警戒するべきだろう。
というかそれ以前にうちの子達がどれだけ強いのかいまだに分からないんだよな……
もちろんステータス的な意味では俺はよく知っている。だがそれが戦闘という面でどれだけの力を発揮するのかさっぱり分からない。
神様と言われるだけ、とてつもない力を持っているのはある程度察する事が出来るが……やっぱり基準が分からない。
そんな不安を持ちながらも今日は俺とエル、アレクだけだ。
他のみんなは昨日行った遊園地で乗れなかったアトラクションの残りを乗りに行った。
そして俺はそんな遊園地や娯楽施設から1番遠い場所に居る。そこからさらに地下に行ってまさに秘密基地と呼ぶにふさわしい工場に来ていた。
「これ……クレールの趣味全開だろ」
「しかし意外と効率的な配置でもあるんですよ。掃除とか大変ですけど」
「それに配線とか隠す必要がない分、経費が少し浮くんだよ」
今目の前にある工場は前の世界と同じように機械化、効率化を見せつけられている。
作っている物が具体的になんなのか分かる程ではないが、とにかくとんでもない勢いで次々と機械が製造されている事が分かる。
「ここは工場の最終段階だ、組み立てるだけの状態だからな。ここでは手先の器用なコボルトとかが主に働いてる」
「他のもっと大掛かりな物だと別の者が働いています。少し熱いですが見ていきますか?」
「よろしく頼む」
工場を見ていると確かにコボルト達が小さな手と身体を使って一生懸命に働いている。ネジやナットを使って固定させたり、はんだごてで配線を接合させている。
大変そうな作業だが、コボルト達は笑っていたり、楽しそうに仲間達と話しながら作業しているのであまり大変そうには見えない。
楽しく仕事をしているのであればかなり良い方だ。
そんな光景を見ながら移動し、工場の先に進む。
工場は様々な施設と合併している様で、途中科学者の様な白衣を着たモンスター達も居た。
彼らの種族はスペクター、雄だとタコ型、雌だとイカ型をした雌雄で姿の違うちょっと珍しいタイプだ。
でもまぁ何と言うか……リアルなタコとイカではなく、ちょっとゆるキャラ風と言うか、可愛らしいデザインと言うか、あんまぬめぬめしてない。
歩くための足と普段から使う腕の合計4本以外は腹に巻き付けるようにしているのであまり違和感がないし、怖かったり生理的に受け付けられない姿ではない。
なのに何で種族名スペクターなんだろう?なんか変なの。
「エル様、アレクサンダー様。彼は一体?」
「彼の名はドラクゥル。私達の父だ」
「あ!左様でしたか。これは失礼を。どうぞ心行くまで見学していってください」
「ありがとうございます」
別に俺が人間だからってバカにするような態度もない。意外と友好的な種族だよな。マッドな面もあるけど。
ただ巨大な建造物などを建てる鉄製品を作ったりするのはサイクロップスが行っている。
サイクロップスは単眼のモンスターで巨人ほどではないが平均2メートル前後の巨体を持つ種族だ。意外に聞こえるかもしれないがドワーフの進化先の1つだったりする。
なので鍛冶仕事は得意で主に金属の加工を得意とする。巨体を使った鉄を打つ姿は力強さを感じる。
ちなみにエルの説明によるとここはあえて手作業にしてるという。
鉄を打つ作業も機械化しようとしたが、やはりサイクロップスたちが打つ鉄の方が優秀で様々な要望に応える事が出来るからだそうだ。
その代わりサイクロップスたちの仕事はオーダーメイドで限定であり、大量生産が必要なネジやナットは機械化させたという。ただ現在も1万個に1個だけネジが荒かったり緩かったりと不良品が出てしまうらしいが、1万に1個なら十分ではないだろうか?
そんな工場見学中に2人のサイクロップスがやってきた。
1人はまだまだ若そうなサイクロップスの女の子、もう1人はたっぷりと白いひげを持って車いすに座っているサイクロップスの老人。
俺はそのサイクロップスの老人を見てもしかしてと思って声をかける。
「もしかして……メイカー?」
「ほっほっほ、お久しぶりです父よ。生きている間にお会いできてよかったですわい」
「マジでメイカーか!!お前、すっかり爺さんだな~」
「当然ですわい。あれから2000年生きておればわしだって流石に老いるもの。ちなみにこの子は儂のひ孫じゃ」
「ひ、ひ孫の瞳です!初めまして!!」
ガッチガチに緊張したメイカーのひ孫が頭を下げる。
俺はそんな様子を見てついエルに聞いてしまう。
「なぁエル。どうして俺の孫やひ孫たちはいっつもこんな感じでガッチガチに緊張するんだ?」
「当然でしょう。私達の事ですら尊敬している者達が多いのに、その生みの親である父上が現れれば神も等しく感じます」
「だな。最初の頃だって俺達は神じゃないって言ってるのに聞き入れてくれなくてよ、それを都合がいいと感じたクレールの全部押し付けた。そこからクレールが神として振る舞うようになったわけだが、そんなクレールや俺達の父親となればそりゃ緊張するって」
「神様の父親か。そのフレーズをホワイトフェザー以外で聞くとは思ってなかった」
こうしてメイカーとそのひ孫の瞳ちゃんが仲間に加わった。
そして昼になると社員食堂に行って一緒に飯を食う。
ただその間も他のモンスター達から離れながら様子をうかがっている視線を感じていたが、エルやアレクサンダー、メイカーが居るのだから仕方ないだろう。
メイカーは随分前に引退して技術顧問、もしくはご意見番と呼ばれてこの工場の重鎮として存在しているらしい。
そんな彼らがまとまって話をしていれば何事かと思うのは自然な事だろう。ただ瞳ちゃんだけが小さくなっているのは申し訳ないと思う。
「エル、アレクサンダー、メイカー。お前達に確認しておきたい事がある」
真剣に聞くと3人は真面目な表情をして背筋を伸ばす。
少し空気がピシッとなったと思うと俺は話しかける。
「この間俺はワイバーンを迎撃したと思われる俺と同郷と思われる男を見た。そして問題はその武器、再現可能か」
その事を聞くと更に空気が固まった。
ある者は震え、ある者はじっと様子を見る。
周囲の様子を感じながら質問すると、エルはため息をついてから答えた。
「……最初の頃は再現しようとしました。クレールもそういった派手な武器が好きですし、人魚やコボルト達に持たせるのもいいかと感じ、作りましたが断念しました」
「断念?作れたんじゃないのか?」
「作れました。現在も黒色火薬の製法も、ニトログリセリンの製法も存在しますが意味を成しません。精々ダイナマイトを作るための材料程度の認識です。まぁ1部の者は諦めずに武器の開発を行っていますが、我々には無駄な物です」
「無駄、か。なんでそう判断した」
「儂らはそれぞれ種族が違う。体格はともかくとして、指の大きさや長さ、そういった物が一致しておらんから作っても使える種族は限られてしまうんじゃよ。最初こそ非力なコボルト達に武装させる目的で作ったが、武器と言えるのは精々長距離用スタンガンじゃな。火薬を利用した火器ではコボルト達ではその反動に耐えきれなかったんじゃ。それで火力を小さくすれば武器とは呼べないものになってしまったしの」
「それにこの国は観光都市だ。他国から金を持った王族や貴族達のリゾートとして発展させてきた分爆発物は出来るだけ使用しない方向に決めたんだ。爆発すればうるさいし、流れ弾が当たればそれだけで大問題になる。それなら水中の魚雷なら大丈夫じゃないかと思ったが、結局当たって魔物を迎撃できても水しぶきが起こる。だから結局俺達が直接戦った方が早いのさ。長距離攻撃に関しては魔法を使えばいいし、近接戦で負けるほど俺達はひ弱じゃないしな」
なるほど。だから作れるけど使ってない、か。
確かにここは観光地である事が最大の収入源だろうから、それに打撃を与えないようにするためには仕方のない選択なのかも知れない。
火器は基本的に火薬を爆発させて使用するのだから、当然火力を上げれば爆発音もうるさくなる。自衛隊とかの射撃訓練でヘッドホンみたいなのをしているのが分かりやすいだろう。とにかくうるさい。
そしてこの世界には魔法が存在する。
もしくはこの子達が使えると言った方が正しいのかも知れないが、あまり音を出さずに、火器と同様の威力があるのであればそちらを使うのは自然だ。それにもっと言えば魔法という物は知られていても、火器は知られていないのだから秘匿する必要もない。
小説やマンガでよくある現代科学による異世界無双なんてあるが、大抵悪い奴らが魔法を使わずに使える素晴らしい武器として使用しようとするシーンがあるが、観光都市では秘匿するのは難しいだろう。
隠さないといけない物より広く知られている物で戦う方がやりやすいのは自然な判断だ。まぁそれでも兵器の製法を消さずに残してあるというのは保険なんだろう。
「なるほどな。色々納得した。でもぶっちゃけどうなんだ?仮にあの男がマシンガンを向けたらお前ら倒されない自信あるの?」
「その事なんじゃが……あ奴の武器は異常じゃ。遮蔽物があろうがなかろうが貫通してくる。儂らが作ってきた武器よりも性能が良い事は認めるが、科学の力だけでは再現する事は無理じゃな」
「だな。あれは異常だ。しかも弾切れを起こしてもリロードするだけで実際に弾を込めている様子はない。魔法を付与しているとしてもこの世界にあんな付与が出来る奴がいるのか?」
「ですが対応策がない訳ではありません。銃弾の軌道その物はきちんと物理法則に従っていますから、素直に避けるか、風の魔法で軌道を逸らす事が出来るだろうっとの化学班からの見解です」
銃弾の軌道その物は変わらないっか。
ある程度こちらで考えておかないとダメだな。風関係となるとあの気紛れ連中が役に立つかもしれないが……本当に気紛れだからな~。やる気ないと言って手伝わない可能性の方が高い。
「とりあえず教えてくれてありがとうな。この国に兵器の類がないって事は分かった」
「本当に確認したかった事はあの男の武装についてでしょう?こちらでも詳しく調べておきます。この間のミサイルは報告されていませんでしたから」
エルは真面目だな。
さて、対策は俺も考えておきますか。
種族 サイクロップス
名前 メイカー
ランク Aランク
単眼の巨人。鍛冶が非常に得意。彼らの先祖は直接神から鍛冶を習い、その腕を伝承させている。
単眼であるために少々遠近感が弱いのが玉に瑕。そのため乗り物などに酔いやすい。
魔法を使う事は出来るが戦闘系の魔法は得意ではなく、どちらかと言うと防御系の魔法が得意。鍛冶を行う際の熱や毒性の強い気体から身を守るためである。
魔法の力が強いかどうかは目玉の大きさで決まる。目玉が大きければ大きいほど魔法の適性が高く、小さいほど魔法の適性が低い。
そのため目が小さい者はコンプレックスを持ちやすい。




