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一瞬の邂逅

 遊園地でお好み焼きという奇妙なスタートから始まった訳だが、味は悪くなく確かにお好み焼きだった。

 魚の味がするといってもあとから振り掛けたかつお節や青のりのうま味だけなので、王様達も抵抗感なく食べてくれた。

 元々生で食べるという習慣がないだけで魚その物が嫌いという訳じゃないんだろう。

 あえて問題が起きたとすれば、猫舌の王様がなかなか食べれなかった事ぐらい。あとは火の通り加減が分からなくて何度も焼いたぐらいか。


 その後はみんなでアトラクションを楽しみまくる。

 食べた直後に激しいアトラクションはキツイので穏やかなメリーゴーランドとか見て楽しむ感じのアトラクションで腹ごなしをしてから激しいアトラクションに乗る。

 みんなでキャーキャー悲鳴を上げながら遊園地を楽しむなんてどれぐらいぶりだろう。

 俺が子供の頃以来だから……十何年前ぐらい?適当だけど。


「パパ大丈夫?」

「大丈夫だ。少しはしゃぎ過ぎただけだ」


 年がいなく絶叫系を連続で乗ったせいで体力が限界に来たんだろう。今も心臓がバクバクしているし、少し落ち着けばまた動けるはずだ。


「それより次はどれに乗る?あとのってない絶叫系は――」

「パパ、1ヶ月もあるんだからそんな急いで回る必要ないんだから落ち着こう。ね」

「いや、でもせっかくみんなで旅行に来たのに俺のせいで足を止めるのは……」

「回れなかった分はまた来ればいいだけなんだから、今は休んでて。ライトお姉ちゃん、私達が飲み物買ってくるからパパの事見張っててね」

「わ、分かりました」


 そう言って何故か俺とライトさんを残してみんなでジュースを買いに行ってしまった。

 いや、ブランだけだと不安なのは俺も同じだけどさ、みんなで行く事なくね?王様達はレオもジュースが飲みたいと言うから一緒に行ったのは分かるけどさ。

 こうしてなぜか2人で待つ事になってしまった俺とライトさん。この状況に戸惑っているのは俺だけではなく、ライトさんも戸惑っている。

 ただこのまま黙っているのもあれなので、とりあえず謝罪しておく。


「何と言うか……すみません。付き合わせちゃって」

「いえいえ、疲れたら休むのは当然です。むしろこちらが気付かずに申し訳ありません」

「でもこれは子供達と一緒に遊べてはしゃいでたんで、仕方ありませんよ」


 そう言った後お互いに笑い、会話が途絶えた。

 ど、どうしようこれ。よく考えてみるとこうしてただ2人でいるのって今まで無かったんじゃないか?

 2人で話す時は大抵何かしらの目的とかがあった訳だし、こうして何の話題もなくただおしゃべりするだけっていうのは初めてじゃないか?

 こういう時どんな話をすればいいんだろうと考えていると、ライトさんが言う。


「……ブラン様は本当に明るくなられました」

「え?そうなんですか?」

「はい。以前お伝えしたでしょう、時々夜泣きをしていたと」


 確かにその話は聞いていた。

 ずっと前から寂しさから夜泣きを何度もしていたと。

 でも何でその話を突然話始めるんだ?


「ドラクゥル様にお会いできるようになってからブラン様は毎日楽しそうにしています。たまにこちらで眠る事もありますが、その時は一切夜泣きはなく、安心しきった表情でお眠りになります。私達には出来なかった事をドラクゥル様は成し遂げているのです。ありがとうございます」


 表情はいつも通りだが、寂しさの他にふがいなさのような感情を感じる。

 それに対して俺が答えられる事と言えば、これぐらいしかない。


「でも俺がいない2000年間ずっとブラン達のそばにいてくれたんですよね。本当にありがとうございますっとしか言えませんが、本当に感謝しています」

「ですが私達ではやはり親代わりにはなれませんでした。どれだけ一緒に居ても、どれだけ慰めても。もちろん完全に親の代わりになれるとは思っていません。ですがやはり……かなわないなっと思ってしまいまして」


 やっべ、この会話重すぎる。

 2000年と言う長い時間の間、ブラン達の事を守ってきてくれたのにどう感謝を伝えればいいのか分からない。

 こういう時は無理やりにでも話題を変えるべきなんだろうが……全く思いつかない!!

 悩んでいる間に無理矢理絞り出した質問がこれ。


「ライトさんはブランと一緒に居てどれぐらい時間が経ちますか?」

「そうですね……12年は仕えていたでしょうか。先代の教皇様が亡くなられ、次の教皇を選ぶときになぜか私が選ばれました。その時の私はまだ16歳でした」

「……失礼で今さらですが、お年を聞いても?」

「今は28ですよ、今年で29歳になります。完全に行き遅れてしまいました」


 いや~この世界の事は知らないけど、やっぱクリスマスケーキの世界だったかもしれない。

 俺の世界だったら30代で結婚を真面目に考えるぐらいだろ、この世界の結婚する年齢早いな。


「まだまだ結婚しようと思えば結婚できると思いますよ。ライトさん美人ですし」

「ありがとうございます。お世辞でもうれしいです」

「お世辞のつもりはないんですけどね……」


 やっぱり遅すぎるのもあれだが、早過ぎるのもあれだな。結婚適齢期って国や地域によって変わるのは仕方ないけど、ライトさんみたいに美人な人が行き遅れってありえね~。


「ちなみにドラクゥル様は?」

「今年で21です。まぁ元の世界では、ですけど」

「思っていたよりもお若いんですね。てっきりブラン様達の御父上ですから、もっと年上だとばかり思ってばかりいました」

「まぁ血の繋がっている方の家族からも老け顔だってよく言われていたので周りからは驚かれる事の方が多かったですけど」


 今が老け顔なら将来年をとっても同じ顔じゃね?っというのが自論だが、老け顔でも年を取ればもっと老け顔になるのかね?


「そうだったんですか。すみません。失礼な勘違いをしていて」

「別に気にしてませんよ。いつも周りから言われている事なので、それに将来はカッコいいおじさんになりたいと思っているので老け顔でも問題ありません」

「ふふ、何ですかその夢。ふふ」


 お上品に笑うな~。

 俺の周りでそんな風に笑うのは……結構いるな。

 特にお嬢様系の子供達。


「……先代の教皇様が亡くなられた後、次の教皇を選ぶ際になぜか私がブラン様に選ばれました。それまではこれから先もシスターとして生きていくんだろうな~っという漠然とした物しか想像した事がなかったので驚きました。その後は教皇としてふさわしくなるための教育が始まり、現在に至ります」

「教皇としてふさわしい教育って何ですか?帝王学的な何かですか?」

「簡単に言いますと……国の歴史や祝詞の暗唱、政治的なやり取りなど様々な事を覚えました。あとはブラン様の嫌な事と嫌いな事は何か、などですね」

「マジで凄いですね。16歳からそういった勉強をずっとって」

「他の大司教様達にも手伝っていただきましたから。それにブラン様も癒しになりました。まるで子犬か子猫のように甘えてきて、ふふふ」


 思い出し笑いをするライトさんはとても若く感じる。ぶっちゃけ俺とそんなに年が離れていない感じがする。

 俺がライトさんの事をじっと見ていると、ライトさんは顔を赤くする。


「す、すみません。はしたなかったですよね」

「いえ、可愛らしかったですよ」

「あ、あまり年上をからかわないで下さい!!」


 そんな風に年上だって言われる事は最近なかったな。

 なんて思っていると突然かなり耳に響くうるさい音が鳴った。

 何だろうと思っていると敷地内の音声が鳴り響く。


『申し訳ありません。現在国の上空にワイバーンが飛来して来ました。お客様はお近くの建物の中に避難してください。繰り返します。現在国の上空に――』


 どうやら魔物が国の上空をうろついているようだ。


 ワイバーン。Cランクモンスター。

 他のゲームとかだとドラゴン扱いされるが、アルカディアでは空飛ぶトカゲという方が表現的に正しい。

 皮膜を傷付ければ飛べなくなるし、炎を吐き出す事もない。噛み付くか尻尾で殴るかのどっちかしかないただの爬虫類。


 でもこの世界ではどうやら強い部類に入っている様だ。

 この放送も危険だからこそこうして警戒を促しているんだろう。


「ドラクゥル様。近くの建物に避難しましょう。職員の方が避難誘導をしていますのでその指示に従っていれば問題ありません」

「分かりました。そうしましょう」


 ブラン達の場合は……遭遇しても大丈夫だろうが人の状態で変な気を起こさないかどうかの方が心配だ。クレールと他の巨人達を信じてワイバーンを迎撃するか、追い払うのを待って――

 っと考えている間に何か発射するような音が聞こえた。ペットボトルロケットが発射される音に非常に似ており、その発射したと思われる建物の上には1人の男性が居た。


 その男性は2メートル近い大男で俺の様に軟弱ではなく、しっかりと筋肉の付いた多分人間だ。巨人ではないと思う。

 どこかの海外映画の軍人の様な迷彩の服を着て、ヘルメットもかぶっている。タバコではなく葉巻を咥え、どこか遠くを睨む。

 その肩には筒状の物を担いでおり、そこから何か発射させたことが分かる。

 そして遠くで爆発音。

 ライトさんはその爆音に驚いていたが、俺は爆発音よりも武器を発射させたと思われる男に注目していた。


 男は武器を肩から降ろすと俺の視線に気が付いていたようで自然とこちらに視線を向けた。

 俺と彼の視線はぶつかり、彼は少しだけ俺に不思議そうな表情を見せたかと思うと、どこかに消えた。


 多分今の男が俺や若葉、正義と同じ異世界からゲームの力を持ってやってきた男。

 クレールが言っていたアメリカの軍人。

 何となくだが、彼と仲良くなれるとは思えなかった。

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