アビスブルーへ!!
王様にこの事を伝えると苦笑いで返された。
何でだろうと思っていると当然のように言う。
「神が3柱にその父君が行くとなれば、他の王族達などあまりにも滑稽でな」
そうかね?まぁ確かに王様とかに比べると神様の方が偉いのかな?
そう思いながらも王様は俺達の事を客人として招く事をアビスブルー宛の手紙を書いて送ってくれた。
ちなみにアビスブルーに行くまでは基本的に王様達と共に行動する。その理由は王様達が俺達の身元を保証するという内容と、俺という存在の誇示のためだそうだ。
ちなみにヴラド達は普通に馬車で行くらしい。ただ少し悪戯をする前の子供の様な笑みを浮かべていたのは気になるが。
とりあえず金とかは初回の人はアビスブルーに乗る直前に支払うらしい。1番いいコースだから金がかかるのはお土産や売店などだけだと王様が言うので服だけでも良いとの事。
流石に初めて行く所をうのみにするのも怖いので歯ブラシとかタオルとかちょっとした物も持っていっておく。
そしてうちの子達の反応を見ると。
まずブランは完全に旅行に行く前のハイテンションな子供状態。
お気に入りのぬいぐるみを持って行くか行かないか悩んでいたり、ちょっとでも可愛い服を選んだりしている。
ノワールは慣れた感じで必要最低限の物を旅行鞄に詰めていく。俺が歯ブラシとか詰めていると備え付けの物があるから良いと言われた。
ヴェルトは……詰めた物がほぼない。カバンに入れたのは綺麗な若葉色のドレスと普通の服だけ。たった2着で良いの?
若葉に関しては……混乱気味。何度もキャリーケースに入れたり出したりを繰り返して、これはやっぱり要らない、やっぱり要るっという感じで繰り返す。
誰がどんな気持ちで過ごそうが時間は流れる。
一足先にヴラド達がデュラハンが操る馬車に乗ってアビスブルーに向かった。
その2日後に王様達と一緒にアビスブルーに向かった。
「ところで普通に思ったんですけど、王様がバカンスで遠出そのものは別に良いと思いますけど、国を長く空けて大丈夫なんですか?」
「問題ない様に引き継ぎはしっかりとして来た。それに今回は短い1ヶ月コース。遊び尽くすには時間があまりにも少ない」
「そんなにですか」
「それに商業区や製造工場などで商談もありますから、ただ遊びに行くというのも違いますから。それに今回はドラクゥル様もご関係していますのよ」
「俺ですか?アビスブルーで俺と関係……」
子供達が居るかも知れないっという理由だけで行く訳だから、他の用事なんて思いつかない。
何だろうと考えていると女王様は上品に笑いながら教えてくれた。
「誓いのバラの事ですよ。この大陸ではドラクゥル様が見つけた開花方法は特許として認められましたが、我々とあまり関係のない他の大陸でもそうなのかと聞かれると分かりません。ですので現在の特許は仮が付いてしまいます。その仮を失くす場所こそがアビスブルーの特許申請所なのです」
「アビスブルーに特許申請する所があったんですね」
「ええ。特許の申請は妾が行いますがよろしいですか」
「はい。お願いします」
そんな会話をした後はレオがアビスブルーの遊具施設とでこんな物があるとか、ブランや若葉とも一緒に遊びたいからどこかで1度一緒に遊びたいとの提案をされた。
俺は構わないのでもちろんうんと言った。聞く限り遊園地の様な所や、レジャー施設に近い物も多くあるようで一緒に遊ぶのもいいだろう。
――
そう思いながら1週間後、思っていたよりも時間がかかったのは護衛の人達と一緒に移動していたからだ。
護衛の人達は最低限といっても王様を守るためだから1000人もいる。
1000人と言うのは他の国の王族に対してこれぐらいうちは強いんだぞ!っというアピールでもあるらしい。なので最低でも1000人連れて行かないとダメだそうだ。
数は戦力。なんて言葉は聞くけど、うちの子達は雑魚が何千いようが無双できる気がするんだよね。やっぱ親として過大評価し過ぎなのかな?
そう思いながらホワイトフェザーの港町に到着。
そこには結構な人の数が居た。
「超高級リゾートに行くのに意外と人数いるな」
「ほとんどの者は見送るだけだ。我が兵達と同様に護衛をしてきただけの者もいる」
「それじゃこの中に乗船?するのは少しだけですか」
「そうだ。そして貴殿がその言葉を間違っていないか考えるのも分かる」
そんな会話をしていると周りからの視線が俺に注目されていた。
「金の準備は十分か」
「流石に金がないのに乗ろうとはしませんよ。王様が保証人になってくれるんですから、泥を塗る様な真似は出来ませんよ」
何だろうと思いながらも俺は金を払う場所を探してみるが……見当たらない。
どこで払えばいいんだろうと思っていると、どよめきが起こった。
何だろうと思っていると見知った人たちが居た。
「あ、ライトさんだ」
「…………」
王様が複雑そうな表情を浮かべた。
何でだろうと思っていると、ライトさんは笑みを浮かべて俺の前に現れた。多くのお偉いさんを連れて。
「お久しぶりですドラクゥル様。ようやくホワイトフェザーにお戻りになったのに、次はアビスブルーですか」
「いや~すみません。うちの子がいるかも知れないという話があるので」
そこだけそっと言うと予想通りという表情をした。
「なるほど、それならば仕方がありませんね。レグルス王もお久しぶりです」
「白夜教会の教皇様、お久しぶりです。彼、ドラクゥル殿とお知り合いで?」
「はい。去年の感謝祭の時に知り合いました。彼のおかげで感謝祭は大盛況に終わりました」
「なるほど。そのような経歴があったのですね」
そんな事一言も言ってなかったじゃないかと王様は視線だけで非難する。
でも人に言う様な物じゃないし、行ったところで信じないと思うぞ。普通の人は。それに大盛況と言っても肉配っただけだし。
「これはこれは、白夜教の教皇様。ご機嫌麗しゅう」
そう言って乱入してきたのはヴラドだ。
他の貴族や王族と思われる人達はヴラドの登場に恐れおののいていた。
ゆっくりと来たのか、それともわざとか、デュラハンが操る馬車に乗って現れた。
デュラハンは馬を操る所から降りて扉を開けるとヴラドは直ぐに馬車を降り、続いてカーミラとエリザベートも降りる。
デュラハン達は3人が降りると穴を空けてアルカディアに帰っていく。
俺はそれを見送っている間にライトさんとヴラドの視線がバチバチとぶつかり合っている様に見える。
「これはパープルスモックのヴラド様。お久しぶりです」
「ええ。先の行くあの仲介、ありがとうございました。しかし……もう少し飼い犬の躾をなさった方がよろしいのでは?」
「言ってくれますね。それならそちらもいつまでも霧の中に隠れず、貿易でなさったらどうでしょう?もしくは白夜教の教会を建てるとか」
「申し訳ありませんが、あなた方の光は眩し過ぎる。もう少し影に生きる者達に優しい光であればよいのですが」
そう言い合ってなんだかおっかない雰囲気を出す。
え、あの2人そんなに仲悪いの?混ぜるな危険の2人だった?
俺は視線で王様に質問を投げかけると王様はそっと教えてくれる。
「あの2人は犬猿の仲と言う奴だ。色々と皮肉った舌戦は有名だぞ」
なるほど。仲が悪い事は理解した。
そう思っているとブランが2人の間に割って入る。
「ライトお姉ちゃん。これから旅行だからそういうの止めよ。お兄ちゃんもね」
……何だろう。ブランも普段と違ってかなり策士的な表情を見せた気がする。そりゃ2000年も生きてればそういう考えも出来るようになるのかも知れないが……パパ凄く複雑。
「……ハク様の言葉に免じてこの場ではやめておきましょう」
「ふん。幼子に入られては興も乗らぬ」
そう言ってあっさりとどこかに行ってしまった。
牽制のつもりか?でもあまり本気っぽくなかったし、ただ嫌味を言いに来ただけ?でも俺の目の前で?
色々疑問は尽きないが、とにかく止まったようで何より。
また後で会っておくか。
「ところでライトさんはハクの見送りですか?」
とりあえず話を戻す。それからライトさんに合わせてブランの事をハクと呼んでおく。
ピリピリとした雰囲気を消しておきたいという意味もある。
そう聞くとライトさんはいたずらっ子のような笑みを浮かべながら答える。
「いえ、私もアビスブルーに参ります」
「え、ライトさんも?観光ですか」
「アビスブルーの王に御呼ばれされまして、客人として招かれたのです。ですから完全にお仕事ですね」
その言葉にムッとしたのはブランだ。
「それならパパと一緒じゃなければみんなと一緒に行けたのに……」
「ハク様。残念ですが同行できる者は護衛の者達だけです。旅行ではないのですよ」
「何となく分かるけど~それでもタダで観光都市に行けるのはずるいの!」
子供っぽい言い方にライトさんも頬を緩ませる。
そして周りはさらに俺が何者なのか探るような視線と勘繰る会話が途切れ途切れに聞こえた。流石に内容は分からないけど。
気軽に話す俺とライトさんとブラン、緊張する王様一家、我関せずのうちの子供達、とにかく気配を消してやり過ごそうとする若葉。
主に俺とライトさん、ブランと王様が話しをしているとバカデカい船がやってきた。もうその船だけで十分豪華客船じゃない?っと聞きたくなるような立派な船だ。
そしてそれに乗っている人もかなりデカい。3メートルはあるギリギリ人間と呼べるようなサイズ。スポーツマンの様な分厚い筋肉、そして海で焼けたのか黒い肌。そして腰布に肩当のような部分的な装備はワイルドさを強調させている。
その人達が船から降りて周りを見渡してから言う。
「本日はアビスブルーにお越しいただきありがとうございます。まずは新規のお客様、ドラクゥル様ご一行はおられますか」
そう言われたので俺はライトさんと王様に先に行くと手を振って笑みだけを浮かべる。
ライトさんは頭を下げ、王様も頷いて先に行けと言う。
俺達は堂々と声を出した人の前に行く。若葉はノワールの後ろに隠れてるけど。
「俺がドラクゥルだ」
「ようこそいらっしゃいました。早速で申し訳ありませんが、代金をこの場で支払っていただきます」
「分かった」
そう言って俺は大金が入った袋をアイテムとして取り出す。すると船から小さな子犬の様なモンスターが現れる。
彼らはおそらくコボルトだ。ドワーフやグレムリンの様に鍛冶や機械いじりに強いモンスターとしてアルカディアには存在している。
彼らは小さな体を機敏に動かしながら、何かを調べる道具を取り出した。
それは銃のような形をしていたが、どちらかと言うと直接体に触れずに体温を計る事が出来る体温計のような形だ。
それを代金が入った袋に向かって引き金を引くと、ピピッと軽快な音が鳴る。
「全部本物だよ!」
「でも1人分だけ!!」
「ああ。この場で全員分か。それじゃあと4袋」
俺がそう言いながら袋をコボルトの前に出すと、コボルト達は全て調べてデカい人に向かって大声をあげた。
「全員分問題なし!」
「“当たり”はないよ!」
その言葉を聞いたデッカイ人は丁寧に頭を下げながら何故か謝罪した。
「申し訳ありませんでした。時折り“当たり”ばかりを持ってくるお客様がおられますので、その防止としてこのような事をさせていただいてます」
「当たりって?」
「偽金です。数枚混ぜてお支払いしようとする不埒なお客様もおりますので、もしそのような事をした場合には乗船拒否をさせていただいてます」
「まぁ当然か。偽金掴ませる様な真似する奴はお断りだな。それで俺達は乗っていいんだな」
「もちろんでございます。どうぞお乗りください」
こうして俺達は無事に乗船できたのである。
そしてその後のお客に関しては俺の様に金をその場で支払う人とはいなかった。
何でだろうと思っていると王様とライトさんが教えてくれる。
「あれは初回の客にだけ行うパフォーマンスだ。偽金が入らない様にするという意味もあるが、もしあの場で偽金を使っていたら信用を失わせるという脅しでもある」
「今後はこのような事はありませんよ。先にアビスブルー宛にお金を払う事になりますから。それでも偽金が使われていないかどうかは調べられているようですが」
「なるほど。つまり俺は先制パンチくらったわけだ」
そう表現すると2人は苦笑いをしたが、これで無事アビスブルーに行ける。
それまではのんびり船の旅を楽しもう。
種族 コボルト
ランク D
小型犬がそのままに足歩行しているような姿のモンスター。服装は主にツナギに工具をしまっておけるベルトを着用している。ベルトの工具はその仕事によって大きく変わる。
主な工具はドライバーにノミ、カナヅチや釘が入った袋が多い。
彼らは特別力がある訳ではないが、小さな細工や同じ物を作る技術が凄い。ねじや釘を大量生産したり、ナイフやフォークの様な日用品に美しい細工を施す事が得意。




