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紅白雪合戦。一般の人達

 大人達が雪合戦で思いっきりはしゃいでいる間、子供達は本当に平和な物だ。

 雪合戦で余った雪を掴んで粉雪の状態で投げ合ったり、ただ単に雪を投げているだけで満足そうな声を上げる。

 そして街の方では冬でも食べれる温かい汁物の出店をやっていたり、今回参加しなかった若い人達が婚活をしていたりする。


 これは俺の提案とかではなく、町の人達が勝手に始めた事なので詳しい事は分からない。

 でも見合い会場の様な物を作り、あるいはステージを作って告白大会をしていたりする。

 それでもしうまくいったらからかいの声や、嫉妬の声が上がる。本気で悔しがっている人も居るが、ほとんどの人は酒を片手にからかっていたり冷やかしたりしている事の方が多いので多分大丈夫だろう。


 中にはボランティアで子供の世話を手伝ってくれるとても若い夫婦の人達が手伝ってくれたりと助かっている。

 彼らが言うには将来子供が出来た時の練習と言って、雪合戦に参加しなかったベテラン夫婦に子供の世話の事を相談したり、心配事を相談している。

 ちなみに俺は主に雪合戦の運営としてあまりその場を離れられなかったが、他のみんなが話してくれる内容に笑顔で頷いていた。


 そして雪合戦会場ではと言うと……


「このダメ親父!!靴下は丸めてかごに入れるなって何度言えば分かるの!!」

「もうちょっと小遣いの量を増やしてくれよ!!これじゃダチと一緒に飲みに行けねぇよ!!」

「だまらっしゃい!!あんたの稼ぎが少ないから節約してるんでしょうが!!」

「あんたまた浮気してるでしょ!!この間若い冒険者の女の子と一緒に居たってお隣の奥さんから聞いたわよ!!」

「あれは新人の女の子で素材の剥ぎ取り方を教えてただけだって!!」

「そろそろ子離れしろよ!!息子が母ちゃんがうるさいって相談しに来るほどだぞ!!」

「そういうあんたはいい加減娘の結婚を認めてやりな!!」


 ………………ご夫婦の黒い部分が駄々洩れになっている会場を見て俺は涙した。

 みなさ~ん。確かに満足するまで戦えとか、無礼講だとか言いましたけど、雪玉投げながら旦那さんに、奥さんに日ごろのうっぷんぶつけ合うのは止めませんか?大きなお子さんならともかく、小さなお子さんには聞いて欲しくなんですよ~。


 それでもまぁまだマシなのはお互いのターゲット、つまり自身の夫や妻限定で戦っている点だろうか?もしここで浮気相手とか嫁姑問題まで出てきたらドロドロだぞ。

 雪合戦から始まる昼ドラ展開……新し過ぎて付いていけねぇ。


『え~っと。みなさ~ん、ご夫婦での決着も重要かもしれませんが、旗の事を忘れないで下さーい。引き分けになっちゃいますよ~』


 そう言っているのだが……しばらく収まりそうにない。

 俺はどうしようっと思っているとノワールとブランがそれぞれ温かい昼飯を持ってきてくれた。

 ノワールは温かいみそ汁、ブランは焼き立てのみそ焼きおにぎりだ。


「ありがとな2人とも。2人はちゃんと食べてるか?」

「父さんに持ってくる前に食べた。後食べていないのは父さんだけだ」

「とりあえずパパの好きなお米とみそ汁ね。もうちょっともらってくる!」


 そう言ってブランは1人で行ってしまった。

 慌てて追いかけようと思ったが、ノワールがそっと指を差す先にはウリエルが居たので彼が護衛なのだろう。

 何もしていないとはいえ、いや、むしろ何もしていないからこそ体が冷えてしまっている。

 他の天使達には危険行為がない様に上空から見張ってもらっているし、俺はこの運営席でみなさんの戦いを見守るだけなので動かない。

 2人からもらった飯をありがたく食べているとノワールは意外な事を言う。


「どうやら各陣営、午前はお互いに夫婦の不満をぶつける様に合わせているそうだ。午後からは攻城戦に変わる」

「そんなとこまで合わせてたのか。もしかして交渉は王様達?」

「恐らくそうだろう。そして兄弟達は後半戦で不満をぶつけ合うらしい」

「子供達の夫婦喧嘩か~。親として普通の喧嘩なら何度も見て来たけど、夫婦喧嘩って聞くとなんか複雑だな~」


 しょっぱい味噌を塗ったおにぎりに長ネギを乗っけて一緒に焼いたみそおにぎりの温かさが冷えた体を癒してくれる。

 そしてみそ汁にはサツマイモやニンジンに大根といった野菜たちがたっぷりと入っていて、薄く切った牛肉も入っている。汁物を胃の中に入れると身体全身がぽかぽかと温かくなっていく。

 そしてみそおにぎりと一緒に食べるとみその風味がガツンと来て心地いい。


「だがたまにはこういう場も必要なのだろう。不満をぶつけ合う場所が必要なのは大切だ」

「パープルスモックでも似た様な感じの事あったのか?」

「決闘制度だな。時に剣で、時にチェスで争った物だ」

「ノワールに挑んだ吸血鬼はいたか?」

「最初の頃だけだがな。すぐに本来の姿を見せ、自慢の魔法も牙による吸血も出来ないと知ると平伏した」


 そりゃクリスタルみたいな鱗を相手に噛めた所で肉まで届かないだろうよ。

 それだけノワールの鱗は分厚い。

 ブランとヴェルトなら一縷の望みはあるか?結界をかいくぐったり、分厚い皮膚を傷付ける事が出来るのであればの話だけど。


「それじゃ午前中は不満のぶつけ合い大会か。あまり子供に聞かせたくないな」

「気にしすぎなくていい。それよりもそろそろ正午だ。ホラガイの準備をさせておく」

「頼んだ」


 ホラガイが鳴ると昼休憩の合図。本来であればラッパを吹く天使に今回はホラガイにして吹いてもらう。

 少ししてブランが追加の昼飯、串肉やフランクフルトを持ってきてくれた所でホラガイが鳴った。

 音に反応して最前線で戦っていた夫婦たちは意外とすぐに雪玉を投げ合う事をやめ、最初に比べると少し穏やかな表情をしている夫婦が多かった。


『お昼休憩に入ります。今の内にご飯を食べに行ってください。1時間後に再開しますので食べ過ぎにはご注意ください』


 さっきまでの殺気立った雰囲気はどこに行ったのやら、自分達の子供を見付けて一緒に食べに行く姿はどこにでもいる普通の家族だ。

 いや、元々彼らは全員普通の家族か。普通だからこそ不満が溜まり、たまには吐き出したくなる。

 うん。よく考えてみると普通の事じゃないか。


「さて、我々も食事に来たがお隣よろしいかな?」


 そう言ったのは王様。王様の手には様々な串肉を指の間に挟んでおり、隣にいる女王様とレオは汁物を持っている。


「どうぞどうぞ。好きに座って下さい」

「失礼する」


 こうして俺達家族と、王様達は軽く話をしながら現状を確認する。


「俺から見ると序盤はちょっと不安でしたが、これから本格的に城攻めに?」

「そのように打ち合わせている。城で精神統一をしている冬将軍たちも納得していただいた。あえて言うなら、共に参加したブラド殿とヨハネ様が戦々恐々としている事か。午前中、常に何か問題を起こしていなかったか確認し合っていた」

「あ~。それは確かに。カーミラとヴァルゴの方から誘われた形だもんな。不安になるのも仕方ないかと」

「その真相を確かめるためにも我が兵達には無理をする事はないと通達している。長らく戦がなかったのだ、急に動いては事を仕損じる」

「問題は8時間で勝利を掴まなければならない事。たった8時間で城に侵入し、旗を探すというのは至難。さらに旗を守るのはお互いの最高戦力であると仮定するのが定石。あまりにも時間がありません」

「ではそちらの旗がどこにあるか教えてもらってもいいか?」

「あらあら。そのような事を仰っては冬の女王のお怒りに触れてしまいますわ」


 そう言って軽くかわす女王様。王様もこんな事で内情を教えてくれるとは思ってなかったようであっさりと引く。

 そして俺は念を押すよう言う。


「どうにかそっちでも調整してくれよ。この大会の本腰はあの夫婦の決着を付けさせる事なんだからな。個人的には元の鞘に納まってほしいとは思ってるけど」

「我々が出来るのはそこまでに行く道しるべを作るところまで。その先はあの夫婦の問題。我々にはどうする事も出来ん」

「そうですね。あのお三方の意思次第ですわね」


 こうして嵐の前の静けさと言っていい昼休みはあっさりと過ぎ去り、午後に突入したのだった。


 ――


 午後の様子をダイジェストで紹介させてもらう。

 まず午後の前半は午前の様に目的の相手を倒すのではなく、一般の人達は城に向かって突進する。邪魔な相手を躱したり、雪玉で軽く攻撃して視界を塞いだりする事で前に進み続ける。

 彼らの目的は城の構造を知る事や、トラップがないか確認する事だったが、序盤で大きな違いをいきなり見せつけられる。


 まず冬将軍ひきいる白組事男性陣の城は一本道にする事で女性陣を一点に集めて攻撃すると言う感じ。

 ナダレ達ひきいる紅組事女性陣の城は一本道にする事はないがトラップが非常に多い。白一色と言う錯覚が起きやすい状況を作り出し、落とし穴で男性達を消していく。

 女性達は雪玉を浴びさせられて寒さでリタイア。男性達は落とし穴から抜け出す事が出来ずにリタイヤする者が多かった。


 これが始まったばかりなのだから恐ろしい。

 中盤になって動いたのはヴラドだ。吸血鬼の魔眼を使って落とし穴の正確な位置を特定し、仲間に報告。

 そこまでは上手くいったのだが、情報を渡すまいとカーミラが雪玉を持ってブラドを攻める。

 情報に関しては伝言ゲームの様に冬将軍達に伝えられ、トラップを気にせず突入できるようになった。


 そして始まった吸血鬼の真祖同士の雪合戦は想像以上に規模がデカかった。

 直接攻撃は雪玉のみではあるが、影を使って雪を確保して相手に向かって投げたり、ピンポイントで雪玉を魔法で狙撃して撃ち落とすなど様々な戦術が繰り広げられた。

 最後はお互いに体力の限界が来てリタイヤ。

 中々の試合だった。

 それから午前中の夫婦のようにお互いに嫌な所をぶつけあったりはしなかった。ただの夫婦の激しい遊び程度だったのは正直ほっとした。


 次に注目されたのはヨハネとヴァルゴの試合。

 2人とも旗を取りに行く事はせず、中央で雪玉を掴んだ近接戦闘を開始し始めたのでこっちの方が周りを巻き込んだかもしれない。

 そしてこちらは喧嘩しながらだったのだが……内容がその……あれだった。


「もう1人ぐらい子供作ってもいいじゃないのこのヘタレ!!」

「いや、その、もう既に2人とも大きいんだし、そういう話は2人っきりでな!?」

「2人っきりで話しても一切手を出してこないし!こうでもしないとそっちから手を出してくれないでしょ!!」

「それ以前にお前が求めてるのに俺の方から手を出す様に作戦練るの本当に変わらないのな!!」


 何と言うか……マジで2人っきりでやれよっと言う内容だった。

 雪合戦に参加していない若い夫婦が顔を真っ赤にしてうつむいていたし、まだ小さい子供がいる夫婦も動揺している。

 結果としてこちらの夫婦対決はヴァルゴの勝利で終わった。

 足に雪を乗っけた状態でヨハネの顎を蹴り上げるという反則ギリギリの攻撃でヨハネをノックダウンさせたからだ。

 その後満足したヴァルゴも自らリタイヤし、ヨハネを引きずってアルカディアに帰った。

 そして助けを求めるヨハネに俺達男性陣は敬礼をしながら見送る事しか出来ない。

 今夜は大変そうだな。ヨハネ。


 そして日が落ちてほとんどの人がリタイヤした後、大会の切っ掛けとなった夫婦が対峙するのであった。

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