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ナダレ達の旦那さん達

 ミゾレたちの会話をアルカディアで聞いた翌日、今回の事を自室にいる王様達に伝えた。


「――と言う訳で今回の吹雪は夫婦喧嘩が原因でした。元々俺が育てた娘達だったので今はアルカディアに居ます。この後冬将軍である旦那さん達にも話を聞いて、対策します」


 そういうと王様達は頭を抱えた。

 ナダレ達が居なくなったことにより、吹雪はある程度弱まったがそれでも今現在も吹雪は続いている。

 これはナダレ達の旦那さん達が起こしているのでこちらも解決しないといけない。

 そして話の内容が夫婦喧嘩という事であり、おそらくあまりにもくだらない内容でどう対処すればいいのか分からないのだろう。


「これは……想像以上の大問題だぞ!!」

「え、そういう反応!?」


 王様の言葉についツッコんでしまった。

 俺の言葉を聞いて王様は分からないのか?っという感じで意外そうな視線を向ける。


「当然であろう。夫婦という物はちぎりを結んでから永遠に続くもの、喧嘩が起きない訳がない。しかしその後の行動によって大きく未来が動く事もある。よって中途半端な覚悟では動けぬ問題なのだよ」


 何故かとても重苦しい表情と雰囲気を出しながら語る王様。その隣で頷く女王様もとても納得している感じだ。

 この場で分かっていなさそうなのは俺とレオ姫だけ。未婚者には分からない物の様だ。


「でも俺ずっと子供達の事を1人で育ててきた訳だしな……結婚なんて考えたこともないし、子育てのために女性の手を借りたいって思った事もないからな……」

「ドラクゥル殿の歳は今いくつであったか?」

「今20歳です」

「十分結婚を考える年ではないか」

「俺が生まれ育った国は無駄に長寿になっているのでもっと遅いんですよ」


 まさかクリスマスケーキとか言い出さないよな?

 父ちゃん母ちゃん、下手すれば爺ちゃん婆ちゃん世代の話だぞ。


「ドラクゥル様は子育てだけではなく、財も十分あるのですから急ぐ理由がないのでしょう。ドラクゥル様の子、つまりヴェルト様たちはみな成人しているのですし、この反応も仕方がないのでは?」

「うむ……しかし1人で子を何人も育てたと改めて聞くと、偉業の様に感じる」

「俺の場合は先に育ってくれたノワール達が居たから出来ただけですよ。最初の6体の時は手探りで子育てをしたり、畑を育てたりしていたので大変でした」

「やはり偉業の様に感じる。その結果ヴェルト様やヨハネ様、ヴァルゴ様をお育てになったのだから誇ればよい」

「お兄さん凄い!」

「ありがとレオ。まぁあの子達が俺の誇りだっていう点は否定しませんけどね。とりあえず今の女王達、ナダレ達はアルカディアで女子会してます」

「女子会とは?」

「簡単に言うと女性だけのお茶会です。同じように妻となったヴァルゴやカーミラたちも居ますし、旧友であるガブリエル達に今うっぷんを吐き出してると思います。出す物全部出したらスッキリすると思うので、そのタイミングを見計らって冬将軍たちに会わせようかと」

「それが良い。しかしタイミングを間違えると大惨事になりやすい。慎重に行くべきだ」

「はい」

「それから今回は我も行く」


 その意外過ぎる言葉に俺は驚いた。

 そりゃ国の偉い人が国の一大事に動くのは自然な事だけど、まさか夫婦喧嘩に首を突っ込むと思ってなかった。


「我も子と妻がいる身、話題に困る事はないであろう。それにドラクゥル殿はこういった話に不得手の様だしな」

「そりゃ子供は居ても妻は居ないので話題が合うとは思っていませんが……良いんですか?それ以前にこの吹雪の中動けます?」

「それなら問題ない。冬の女王が起こしていた吹雪に比べれば問題ない。それでいつ行くつもりだ」

「今夜フェルに案内してもらおうと思っていました」

「では今夜の0時に城門で落ち合う事でも構わないか」

「ではそれでよろしくお願いします」


 こうして俺は王様と一緒に謎の冬将軍の元に行く事となった。


 ――


 昨日に比べればまだマシな吹雪の中、城門の前で待っていると厚着をした王様が姿を現した。

 そして俺とフェル、念のために連れてきたミルを見て王様と見送りに来た兵士さん達の顔が引きつっていた。


「これはまた……伝説の存在を引き連れて来た物だ」

「攻撃のフェル、守りのミルって事で許してください。フェルの背の上とミルの背の上、どっちに乗りたいですか?」

「そうだな……ミル殿にお願いしようか」

「分かりました。ミル」


 そういうとミルは膝を折って伏せてくれる。

 俺は王様をミルの上に乗っけるとミルは再び起き上がる。

 周りの兵士さん達は1つの動きごとにワタワタしていたが、王様がしっかりとミルに乗っている所を見てホッとしていた。

 ミルの体長は縦15メートルぐらい、フェルだと5メートルぐらいだから3倍近い差がある。フェルの背に乗っている俺だって十分高いと思うのだから、ミルの背の上はもっと高いと思うだろう。


「それでは責任を持って俺が王様を守りますので、ご安心してください」

「ああ。陛下の事を頼みますぞ」


 レオの時にも護衛をしていた人がそう言った。

 そのまま俺達は西門から外に出て、真っ直ぐナダレ達の旦那さんの元に向かう。

 フェルは嗅覚、ミルは聴覚を頼りに旦那さん達の居場所が分かるそうだ。なので安心して進める。


『ドラクゥル殿。このような吹雪の中、本当に迷ったりはしないのか?』


 王様の声は現在アルカディアにあるトランシーバーで会話をしている。

 この吹雪のせいで直接声を届けるのが難しいからだ。

 本当は細かい専門用語などを使うらしいが、俺も素人でよく分かっていないので別にいいだろう。それに吹雪で分かり辛いが、1メートルも離れていないのだから問題ない。


「大丈夫ですよ。フェルは旦那さん達の匂いを覚えているそうですし、ミルも心臓の音を覚えているそうですから」

『それは心強い。この吹雪ではどこを歩いているのかすら分からないからな』


 確かにフェル達にとっては何て事のない道なのかも知れないけど、俺と王様から見れば吹雪でどこにいるのか分からない。

 しかも冬将軍に近付いている証拠なのか、少しづつ吹雪が強くなっている。

 お互いに凍えていたりしない様に話をしながら進んでいると、吹雪の音に混じって何かが雪を踏む音が聞こえた。


「フェル」


 俺がそう聞くとフェルは短く鳴いた。

 どうやら問題ないらしいが……一体何が居るの変わらないというのは結構恐怖を誘われる。


『どうかしたのかね?』

「周囲に何かいます。フェルは大丈夫だと言っていますが、一応警戒はしておいてください」

『そうなのか。冬将軍の近くにいるとすると……スノーマンだろうか』


 スノーマン。

 アルカディアにもいた雪だるま型のモンスター。

 Eランクで精霊なのだが、器である雪だるまを壊すと本体である精霊がどっか行ってしまうので死亡扱いされていた。


「スノーマンって事は雪だるま?いや、それにしては足音が一定の様な……」

『なにを言っている?スノーマンは凶暴な魔物だぞ。特に吹雪の中で出会うと一方的に攻撃されてしまうため、冒険者から恐れられている。吹雪が起きていなくともその怪力で襲われたら目も当てられない』


 ん?俺が知っているスノーマンとは別種なのか?

 それならそれで警戒を強めていると、少しずつ吹雪が落ち着いてきた。

 そしてようやく見えたそのスノーマンの正体とは!!


「絶対名前詐欺だろ。イエティじゃん。雪ゴリラじゃん」


 そう。真っ白な毛並みをしたゴリラ軍団がその場にいた。

 ウホウホ言いながらそこら辺でわちゃわちゃしていると、どっかの動物園を思い出す。いや、これだけ集団している所を見るとゴリラと言うよりはニホンザルか?

 その光景を目にした王様が震える声を出す。


「これは恐ろしいな。フェル殿やミル殿とは違う、数の暴力だ。これほどまでのスノーマンに襲われれば命はあるまい」


 吹雪がやんで声が聞こえる様になると、王様はそう言った。

 確かに見ただけで1000頭以上のゴリラ集団。襲われたら命はないが……シュールすぎないか?雪ゴリラ集団に襲われて死ぬって。

 そう思っていると、1匹だけ特に立派な武装ゴリラを先頭にゴリラ集団が現れた。

 その武装は思いっきり和風。大河ドラマとかに出て来る戦国武将を思わせる鎧と槍を持ったゴリラが現れた。

 ゴリラはこちらに槍を向ける事はないが、俺と王様を見てフェルと顔を合わせる。

 犬猿の仲と言うが、狼とゴリラの場合はどうなるんだ?喧嘩しないで欲しいんだが。


 そう思っていると意外と交渉?は上手くいったのかゴリラ集団は道を開けてくれる。

 フェルとミルはその道を通り、奥の方に行けば行くほど武装ゴリラ集団が集まっている。その姿はきちんと訓練された兵士の様で、ちょっとカッコいいと思ったのは内緒にしておく。

 そんなゴリラ集団の先には意外と小さな家があった。

 それは日本昔話に出てくるお爺さんとお婆さんの家っぽいというか、明らかに壁はぬりかべ、屋根はワラで出来たかなり昔の日本の家っぽい。

 ゴリラの1頭がその家をノックしたかと思うと、家から出て来た3人はゴリラ達よりも立派な鎧を着た男達が勢いよく現れた。


「ナダレ!ナダレ達がようやく帰ってきてくれたが!!」

「ミゾレ~!悪かったからまた一緒に居てけれ!!」

「アラレ~……おらが悪がった!だからもう1度!!」


 かなりなまった感じの人達だ。

 ぱっと見は……かなりガタイの良いおっさん達。顔に髭は生えているし、腕や足はしっかりと筋肉が付いている。

 でも奥で酒でも飲んでいたのか、ちょっと酒臭い。


 そして俺と目が合う3人の武将達。

 しばらくお互いに誰?っと言う雰囲気を出してから俺はフェルから降りて自己紹介する。


「え~っと、初めまして。俺の名前はドラクゥル。ミゾレ達の父です」

「「「…………」」」

「俺から見てあなた達は……娘婿って事になるのかな?」

「「「なんじゃとー!!」」」


 武将達は酷く驚いていたが、他のゴリラ達に落ち着けられた後俺と国王は一緒に家に入った。

 家の中は酒臭くなっていたが、ちゃんと置き場は決まっている様で汚くはない。

 なのであっさりと通してもらった後、俺達は対面して話をする事になった。


「儂らは冬将軍。儂がナダレの夫であります」

「俺がミゾレの夫」

「おらがアラレの夫だぁ」

「改めまして、ドラクゥルです」

「グリーンシェル国王である」


 お互いに改めて挨拶をした後、面倒なので早速本題に入る。


「それでその、ナダレ達から話は聞きました。今夫婦喧嘩中だと」

「……儂らに非があることは認めます。でもナダレ達のトト様が居る気がすると言って出て行かれるのは辛いのです。どうかナダレ達を返してくれないでしょうか!!」

「俺達ももっと努力する!だからこのまま連れて行かないでくれ!!」

「おら達もっとガンバルから!娘達もみんな連れていかれて寂しいだよ!」


 いきなりの土下座!?

 俺そんな事されても困るんですけど!!


「待ってくれ待ってくれ!!俺はお前達の仲を取り持つつもりで来たんだ!だからこのまま連れて行くつもりはないから止めてくれ!」

「ほ、本当ですか?」

「本当だって。もし本当だったらここまで来ないよ。それこそナダレ達と一緒に居る」

「そりゃよかった」

「よかっただよ」


 3人は落ち着いてホッとした。

 そして色々と俺は聞いてみる。夫婦喧嘩の原因を知るためだ。


「それで、ナダレ達とどんな風に喧嘩したんだよ。一応ナダレ達からも聞いたが、本当に日々の小さな事だけなのか?」


 そう聞くと少し恥ずかしそうにしながら3人は言う。


「そう……ですな。日々の小さな事が積み重なって今回の事が起きたとしか言いようがありませぬ」

「俺晩酌で酔って寝てた時によく怒られた」

「おら娘達の着物畳むのが下手でよく怒られてただよ」

「ですが我々は元々戦闘種族。ナダレ達の望む夫のなろうと努力しましたが……希望の合う男になれず、このような有様に……誠にお恥ずかしい」

「ナダレ達の望む夫?それって理想像って事か?どんなんだよ」


 そういうと3人は何故か俺の事をじっと見た。

 何でだろうと思っているとみんなが言う。


「おら事あるごとにトト様トト様言われただよ。トト様はこんな事しなかった。トト様はこうだったって」

「俺もだ。トト様は力ないけれど、ミゾレ達の事を全力で愛してくれたと」

「儂もです。男は武力だと思っていたのですが、力なくとも家族を大切にできる男が良いと常々言っておりました」


 あれ?これ遠回しに俺のせいって事なの?

 確かに俺は子供達を全力で愛したし、家事とか色々やってきたけどそのせいで比べられていると?

 これミゾレ達にも問題あるよな。

 そりゃ理想の相手と言うのは分かるけど、だからってそれを押し付けられてもな……


 それに、この部屋の事を見てみるとある程度家事は出来ている様に見える。

 おちょこや熱燗は洗ってあるし、床だって物に溢れている訳じゃない。ふすまの奥はどうなっているんだろう?

 俺は「ちょっと失礼」と言ってからふすまを開けた。武将たちは不思議そうにこちらを向くが、ふすまを開けてもそこには掃除されている部屋があるだけ。あと何故かここだけは酒臭くない。

 そう言ったもろもろを確認してから元の場所に座る。


「あの、何か?」

「部屋の様子を見せてもらったが、新人パパさんにしては上出来だと思うよ。その口ぶりだと最近家事とかをするようになったんだろ?」

「そうです。色々ナダレ達に教わりながら覚えました」

「俺も」

「おらも」

「ところでお前らはナダレ達にちゃんと文句言ったりしたか?」


 そう聞くと表情を曇らせた。


「言いはしましたが……あまり聞き入れてくれず、先程言った様にトト様と……」

「なぁ王様。個人的にこういう時は思いっきり夫婦喧嘩した方がいいと思うんだけど。王様はどう思う?」

「そうだな。正直に言えばこうしてお互いの顔が見る事すら出来ない状況は良くない。せめて顔を合わせるべきだ」

「よし。それじゃいっちょ夫婦喧嘩祭りでもしてみるか。あとはナダレ達の反応次第か」

「あの、それは儂らの仲が良くなるんでしょうか?」


 恐る恐ると言う感じで聞くナダレの旦那さん。

 それに対して俺ははっきりと言う。


「確かに余計な家事を増やすな~ぐらいの感情は分かるが、だからって無理矢理あんたたちを俺に近づけさせるって言うのもあれだろ。あんた達からすれば顔も名前も、性格も分からない男と比べられ続けて嫌じゃなかったか?」


 そういうと3人とも黙って何も言わない。

 無言の肯定という事にさせてもらい続ける。


「なら堂々と喧嘩だ。お互いに腹の中にたまったうっぷんをぶつけまくってスッキリさせよう。それでお互いに一緒に居られないというのであれば別れればいいし、一緒に居られると思えば一緒に居ればいい。それぐらいの状況作りは手伝うよ」

「あ、ありがとうございます!!」

「でもな、所詮俺は結婚のした事のない人間だ。夫婦間の悩みとか問題とか言われても知らないし、本当によく分からん。だから喧嘩の後どうするかはお前らに任せる。当然ナダレ達もな」

「場を作っていただけるだけも嬉しく思います!それで具体的に喧嘩はどのような物をするおつもりで?」


 そう聞くナダレの旦那さんに俺はふとこの間のガブリエルの事を思い出した。


「冬らしく雪合戦。とか」

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